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外国人との共生社会実現に向けて【第3回】共生のための具体的戦略と未来図―「みんなファースト」で日本を再定義する
シリーズは以下よりご覧いただけます。
第1回 人類史の「再統合」と日本社会の覚悟―なぜ今、私たちは変わる必要があるのか
第2回 難民支援の現場から見える「制度の歪み」―放置される人々への人道的責務
「郷に入れば郷に従う」という秩序の根幹
外国人との共生を語る際、「日本らしさ」を維持するための最も重要な原則は、日本の伝統やルールを尊重してもらう「郷に入れば郷に従う」という姿勢です。日本社会の秩序は、国民共通の文化的な基盤の上に成り立っています。定住を希望する外国人には、ある程度の「同化」、つまり日本の社会規範を理解し、守ることが求められます。
例えば、地域のゴミ出しルールや生活習慣を巡るトラブルは、単なるマナーの問題ではなく、地域社会の信頼関係を揺るがす課題です。こうした摩擦を避けるためには、入国前の段階で日本のルールや秩序を学び、それを受け入れることを条件とするような明確な方針が必要です。
日本語教育という「最強のインフラ」整備
「日本らしさ」を維持しながら共生を実現するための最大の鍵は、徹底した「日本語教育」です。地域でのゴミ出しルールや生活習慣を巡るトラブルの多くは、単なるマナーの問題ではなく、コミュニケーションの不在に起因しています。
国は日本語教育を単なる「善意のボランティア」に委ねるのではなく、国家的な「戦略的投資」と捉えるべきです。永住を希望する外国人に対しては、日本の新聞が読め、社会の一員として自立できるレベル(N2:中級、漢字1,000字程度)までの教育を無償で提供すべきです。 また、2世の子供たちには、日本人と同等の学力が身につくレベル(N1:上級、高卒レベル)まで支援し、大学へ進学を希望する人向けの奨学金も用意することで、将来の日本社会を支える高度な人材へと育てるべきでしょう。

宗教・習慣の違いを乗り越える「対話の知恵」
今後、ムスリムなど多様な背景を持つ人々が増える中で、具体的な摩擦も増加します。土葬の問題や、学校教育での給食、男女別々の水泳授業への要望などがその代表例です。これらに対し、「日本だから」と一律に拒絶するのではなく、日本社会の枠組みの中で柔軟に解決策を見出す知恵が求められます。
例えば、ハラール対応をアレルギー対応の延長として捉えたり、特定の教育ニーズに応える私立学校の設立を柔軟に検討したりすることが考えられます。同時に、外国人側にも、日本という環境に合わせた柔軟性を促す対話が必要です。一方が屈するのではなく、互いに譲り合い、歩み寄るプロセスこそが「秩序ある共生」の核となるでしょう。
国家戦略としての「移民政策」の策定
日本が持続可能な社会であり続けるためには、場当たり的な対応を脱し、明確な「国家戦略としての移民政策」を議論すべきです。経済界、学界、市民団体等と熟議を重ねた上で、受入れ人数、受入れ期間、対象分野、さらには受け入れ前後の支援内容について、制度として明確に定めていくことが求められます。
現在、日本の外国人比率は約3%ですが、欧米諸国の15%程度に比べればまだ低い水準です。これを将来的にどの程度まで増やしていくのか、また特定地域への集中を避けて全国に分散を促すためにどのようなインセンティブ(優遇措置)を設けるのか等、国民的な合意を形成していく必要があるでしょう。
また、それとは別に、難民認定された人びとへの支援内容や、難民認定申請中で仮放免の状態にある人々(約3,000~4,000人)をどのように扱うか、とりわけその子供たちの生活や教育をどのように保障していくかも、重要な政策課題となっています。
「みんなファースト」の精神
昨今、SNS等を通じて「日本ファースト」のような排他的な言説が広まる傾向にあります。しかし、真に日本を発展させる道は、自分たちだけを優先する孤立の道ではありません。SDGsが掲げる「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」という理念は、日本流に言えば「みんなファースト」の精神です。
日本人が長年培ってきた「和」の精神とは、単なる同質性の維持ではなく、異質なものを取り込み、より高い次元で調和させる力であったはずです。顔立ちや宗教が違っても、日本の心を持ち、共に社会を支える人々を「仲間」として迎える。その地道な努力を積み重ねた先に、日本らしさを失うことなく、多様性が新たな活力となる「秩序ある共生社会」の未来が、必ず開けてくると確信しています。

※本コラムは2026年3月3日に行ったインタビューの内容をEN-ICHI編集部が整理してまとめたものです。
シリーズ「外国人との共生社会実現に向けて」
第1回 人類史の「再統合」と日本社会の覚悟―なぜ今、私たちは変わる必要があるのか
第2回 難民支援の現場から見える「制度の歪み」―放置される人々への人道的責務
第3回 共生のための具体的戦略と未来図―「みんなファースト」で日本を再定義する
著者プロフィール
井上健・いのうえけん
1957年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、サセックス大学(英)開発学修士。1985年にUNDPへJPOとして入職後、カンボジア・ソマリア・コソボ・東ティモールなどでの国連PKO要職、アジア生産性機構工業部長、JICA民主化支援シニアアドバイザーなどを歴任。東洋大学・獨協大学など多くの大学で非常勤講師も務める。専門はSDGs、国連平和維持・構築活動、民主的ガバナンス。現在はパーソナルガバナンス研究所代表として、在日外国人の定住支援と多文化共生社会の実現に取り組んでいる。
