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“甘え”は育ちの原点(後編)—思春期は大人の“赤ちゃん”
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児童精神科医の渡邊久子先生に、子育てにおいて大切なことをうかがいました。後編では思春期を迎える子供たちの心についてお聞きします。
思春期は“第二の乳幼児期”
――まず、渡邊先生は思春期をどのように捉えていらっしゃいますか?
人間の子供は、10歳を超えると、心の中の火山が二つ爆発するような時期に入ります。メンタルと身体は一体で、ホルモンや神経伝達物質の影響を強く受ける時期です。私はいつも、思春期に入った子供を10歳引き算して考えるようにしています。13歳なら3歳として捉える。つまり、思春期とは“第二の乳幼児期”なのです。
――第二の乳幼児期、というのは具体的にどういうことでしょうか?
思春期には、おっぱいが出てきたり、ひげが生えたり、体が急激に変化して疲れるようになります。それに加えて、心も不安定になり、支えを求めて甘えが強く出てきます。10歳を過ぎてからもきりっとして何でも完璧にこなしているように見える子は、逆に将来危ないとすら思っています。甘えられず、抑圧されてしまっている可能性があるからです。
親に反発するのは成長のサイン
――それに対して、子供が親に反発したり、大きく感情を揺らしたりすることは健全な成長の証とも言えるのでしょうか。
まさにその通りです。10歳を超えて、親が「あんな子は産んだ覚えがない!」と言いたくなるくらい手を焼くのは、知らぬ間に親の子離れが進んでいる証拠です。異性の親から早く親離れした子供はよく伸びます。思春期は、親子がどう距離をとるかという時期でもあるのです。
――思春期は、心理的に「親殺し」をする時期だと聞いたのですが。
ええ、男の子は「クソばばあ!」と言って心理的に「母親殺し」をしますし、女の子は「フンッ」という態度をとって「父親殺し」をします。そんな時に重要なのは、実は夫婦の関係性です。子供が、お母さんの瞳の奥にお父さんがにっこりしている感じを感じ取れる。あるいはその逆も。そういう幸せな関係が見えると、子供はいいなと思い、自分も親のように幸せになれると思えて、歯止めになります。

思春期に向けた“心の備え”を
――なるほど、親にとっても心の準備が必要ですね。
そうですね。思春期に子供の心に大地震が起きても「来た!」と対応できるように備えをしておく、これが育児だといってよいと思います。だからこそ、それまでに家族で楽しい経験をいっぱいしておいて、10歳以降に通過する人生の深い谷と険しい山を越える土台をつくっておくことが大切です。
そして、10歳から15歳は社会に出る前に親に依存する最後の時期です。だから、大人の赤ちゃんなのです。この時期に、女の子も男の子ももう一度お母さんに甘え切ることが大切です。
思春期に“甘え切る”ことが大切
――男女で何か違うことはあるのでしょうか?
小学校高学年になった時に、男の子は成長ホルモンと性ホルモンがたくさん分泌されて、それらが豊かな子は思わずお母さんのおっぱいを触ってしまうことがあります。その時に、お母さんがぱっと抱きしめられるかどうかなのです。この時期はそれでいいのです。「このおっぱいを飲んだのよ。かわいかったわ。」と言ってあげたらいいのです。お父さんも「君はお母さんの背を超えたら甘えられなくなるから、今のうちに甘えておきな」と許可してあげてください。
実際、私が診た子の中には、10歳になってから本当におっぱいを吸い直した子が何人もいます。小さい頃に十分甘えられなかった子は、そうやって思春期で“甘え直す”必要がある場合もあります。
特に男の子は14~15歳までがお母さんに甘えられるリミットです。昔は元服の儀礼があって15歳で一人前とされましたよね。今はそういう区切りはありませんが、15歳を超えると本当に船出していくのです。船出した男の子を子供扱いはできません。だから、それまでは思いきり甘えさせてあげてください。
甘え切れた子供はスケールが大きくなります。大リーグの大谷翔平選手も三人兄弟の末っ子で、きっと甘えん坊だったのではないでしょうか。だからこそ、世界で戦えるような人になれるのです。
女の子は、小学校高学年に差し掛かってかっこよくスマートになってきたとき、お母さんより手が冷たかったら、拒食症の入口だと思ってください。水分やカロリーが足りていません。子供は、健康なら、思春期が終わるまで絶対に温かいです。ただ、敏感な子は汗で冷たくなっているかもしれない。汗をかく子は敏感だと思ったらいいです。日頃から触れていれば、そういうこともわかります。

夫婦で育児を楽しむ
――最後に、これからお子さんが思春期を迎える親御さんへのメッセージをお願いします。
夫婦の仲が良くて子供がうまくいかないケースはほとんどありません。夫婦げんかは仲がいい証拠でもありますが、子供の前でやってはいけません。
子供はお父さんお母さんの瞳の奥にある感情を見ています。お父さんは、朝起きたら、子供が見ている前で自分から奥さんにハグをしてください。照れくさいし、日本では習慣がないから見本がありませんが、アメリカでは離婚寸前の夫婦でもこういうことをします。女性はそんな男性にチャンスを与え、いい形でパートナーシップを組めたらいいと思います。
子供は腹の声を出せているかが大事です。だから、夫婦げんかをする代わりに指相撲大会でもして、家族みんなでお腹から声を出しましょう。そうすると、子供は学校でも指相撲をやって人気者になりますよ。
育児は楽しまないと。子供はあっという間に大きくなります。だから、自分の心の土を耕して、泥臭く本音で向き合ってください。それが子供の思春期という激動の海を渡る、確かな舟になると思います。
