EN-ICHI家庭と地域の未来を拓く
アメリカの家族政策はどこへ向かうのか―変化しつつあるアメリカの「家族休業制度」―
アメリカにおける家族支援政策は、党派による価値観の違いが明確に表れる分野の一つです。家族休業制度をめぐっては、保守派とリベラル派の間で、政府が果たすべき役割に対する考え方の違いが、長年にわたり制度設計にも影響を及ぼしてきました。しかし近年では、従来は消極的とされてきた保守派の間でも、家族支援政策に対する意識の変化が生まれつつあります。
党派における考え方の違い
アメリカは、党派によって政策への取り組みに大きな違いが表れる国です。その中でも、家族休業制度をはじめとする家族支援政策に対する政府の考え方は、保守派とリベラル派の間で長年にわたり分かれてきました。
一般的に保守派は、個人が政府の福祉に依存するのではなく、国民一人ひとりの責任を重視する「小さな政府」を支持し、「機会の平等」を重んじてきました。そのため、家族支援政策への公的支出の拡大についても慎重な姿勢を取ってきました。一方、リベラル派は、政府が積極的に社会福祉制度を整備すべきだとする「大きな政府」を支持し、「結果の平等」を重視します。家族休業制度についても、民主党は以前から所得保障を伴う有給の家族休業制度の導入を主張してきました。
保守派における意識の変化
そもそもアメリカには、民間企業の労働者を対象とした連邦レベルの有給休暇制度が存在しません。産前産後や家族の介護に関連する休暇としては、1993年に成立した家族・医療休暇法(Family and Medical Leave Act:FMLA)がありますが、この法律が適用されるには、勤め先が従業員50人以上の事業所であること、過去1年間に1,250時間以上働いていることなど、一定の条件を満たす必要があります。
また、この法律で保障されるのは「無給」の休暇であり、1年間に最大12週間の取得が認められるにとどまります。所得補償が伴わない点で、日本の産前産後休業や育児・介護休業制度とは根本的に異なる制度設計となっています。
このように先進諸国の中でも極めて脆弱なアメリカの家族支援政策には、従来家族政策に消極的とされてきた保守派からも改善を求める声が上がるようになりました。その背景には、共和党の中で社会の構成単位としての家族の形成を助けるべきという考え方が広がっているということがあります。また、出生数に対する危機感も、家族支援政策を強く後押ししています。アメリカの合計特殊出生率は、2020年に1.64、2023年には1.62となりCDCが設定する人口置換水準の2.1を大きく下回りました。これらの要因から、家族支援政策における先進諸国との格差が、共和党内でも問題視されるようになったと考えられます。
また、ミレニアル世代やZ世代といった若い保守層の間では、伝統的な「小さな政府」路線一辺倒ではなく、家族支援政策に前向きな姿勢が強まっています。保守系シンクタンクであるAmerican Compassの調査によると、「保守的」または「非常に保守的」と認識する子育て世代の64パーセントが、「連邦政府は子どものいる家庭をもっと支援すべきだ」と回答しています。この割合は、過去3年間で13ポイント増加しています。
American Compassは政策提言として、「働く家庭に対しては、妊娠期間中から子ども一人当たりの月額給付という形で支援を行うべきである」「夫婦のうち一人が就労していれば、世帯全体が十分な恩恵を受けられるよう制度を改革すべきである」といった、積極的な政府関与を提案しています。
図1 家族支援政策への支持が上昇

出所:American Compass(2024a) Figure 1 を一部改変して転載(翻訳は編集部)
第2次トランプ政権の取り組み
第2次トランプ政権では、バイデン政権の提案を一部修正・簡素化した形で、2025年7月に「一つの大きな美しい法(One Big Beautiful Bill Act:OBBBA)」が施行されました。この法律のうち「有給家族(Paid Family)」に関する規定では、従業員に有給休暇を提供する雇用主に対する税額控除が「恒久化」されました。
これにより、雇用主にとっては、従業員に有給休暇を与えやすい環境が整備されたといえます。また、税額控除の適用条件として、従業員が当該雇用主のもとで少なくとも6か月間勤務していることが求められますが、これは従来の「1年またはそれ以上」という要件から緩和されたものです。
過去バイデン政権においても、有給の家族休業制度を恒久化することを目指しましたが、この提案は、野心的とも言える政府の巨額の財政負担への懸念や、政権の経済運営能力に対する厳しい評価を背景に、最終的に実現には至りませんでした。

前政権との制度設計の違い
バイデン政権の提案は、政府が主体となって全国的に有給休暇を保障するものであり、対象範囲や給付水準の面ではより包括的でした。しかし、その分、財政規模が大きく、実現可能性の壁を越えることに限界がありました。
一方で、トランプ政権によるOBBBA法は、既存の有給休暇モデルを拡充・恒久化し、税制を通じて支援する仕組みであり、制度設計としては比較的「企業に委ねる」方式です。有給休暇の提供は義務ではなく、雇用主の任意とされる一方、実施した企業には税額控除というインセンティブが与えられます。この点には、個人や民間の責任を重視する保守派政権の特性が表れています。このようなインセンティブ型の制度は、実現可能性が高く、比較的早期に導入されやすいという利点があります。
このように、アメリカの家族休業制度をめぐる政策は、同じ「家族支援」を目的としながらも、党派ごとにそのアプローチが大きく異なってきました。今回のトランプ政権によるOBBBA法は、保守派の価値観を反映しつつ、現実的な制度拡充を図った点に特徴があります。今後もアメリカにおける家族支援政策は、理念と実現可能性の間で模索が続くと考えられますが、改善の必要性が超党派的に認識されつつあるという点で重要な変化だといえるでしょう。
※「EN-ICHIパートナーズ」は、各専門分野からEN-ICHIに寄稿いただいている協力執筆者です。
参考文献
- American Compass (2024a) The Family Policy Renaissance, Explained Republicans, Independents, and the working and middle classes respond to the pressures facing working families. https://americancompass.org/wp-content/uploads/2024/02/Family-Survey_Feb-2024_Final.pdf. (最終閲覧日2025年12月24日).
- American Compass (2024b) The Issues 2024: Family. https://americancompass.org/issues-2024-family/ (最終閲覧日2025年12月24日).
- Hart, Robert(2024.4.28)「米国の出生率は「過去最低」に、コロナ禍以降に落ち込み続く」Forbes Japan. https://forbesjapan.com/articles/detail/70633 (最終閲覧日2025年12月24日).
