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「共生社会」を支える日本語教育政策の現在地
日本で暮らす外国人の数は増加を続けており、2025年6月末時点で約396万人となっています。こうした中で、日本語教育は単なる語学教育ではなく、在住外国人の社会参加・自立を支える基盤政策であり、外国人との共生社会構築に向けた政策の要として位置づけられるようになりました。
日本語を学ぶ人の数
日本語教育実施機関等で把握された学習者数は、2024年には過去最多となる29万4198人に達しています(図1)。1990年と比較すると、約5倍にまで増加しています。ただし、この数値は独学や職場内研修、民間オンライン学習等は含んでおらず、日本語学習に対する潜在的ニーズは統計上の数値をさらに上回っていると考えられます。 本稿では、日本の在住外国人を対象とする日本語教育政策について、その変遷と現在の政策体系、そして今後の課題を整理します
図1 日本語教育実施機関・施設数、教師等数、日本語学習者数の推移

出所:文部科学省(2024b)表2および文部科学省(2025b)表2を元に筆者作成
制度化までの長い道のり
戦後日本における日本語教育は、主として留学生や海外向けの国際交流施策として発展してきました。一方、国内に居住する外国人、とりわけ労働者やその家族を対象とした日本語教育は、国の明確な政策対象とはされず、自治体や国際交流協会、ボランティアによる自主的な取組に委ねられてきました。
1990年の改正入管法の施行により、日系南米人等の定住が進むと、日本語が十分でない子供や大人が地域社会で生活する現実が広がりました。学校教育、医療、行政手続、職場などにおいて日本語の壁が社会問題化したものの、対応は地域任せであり、全国的な方針や支援体制は未整備のままでした。
1995年の阪神・淡路大震災を契機として、災害対応の一環として「やさしい日本語」が徐々に普及し、自治体において多言語化と並んで採用されるようになりました。
2000年代に入ると、「多文化共生」という概念が自治体政策の中で広まり、日本語教育は「生活支援」や「社会参加」を支える施策として再定義されていきました。2006年には内閣府が「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」(外国人労働者問題関係省庁連絡会議)を発表し、外国人も日本社会の一員として、日本人と同様の公共サービスを享受しながら生活できる環境整備の必要性を示しました(山脇・日暮、2025)。「生活者としての外国人」という視点の導入により、日本語教育は就学や就労以前の段階において、日常生活を営むための基礎的インフラとして捉え直されるようになりました。
同年、総務省も「地域における多文化共生推進プラン」を初めて策定し、地域における情報の多言語化とともに、日本語および日本社会に関する学習支援の必要性を示しました。日本語教育を所管していた文化庁も、これらの動きと足並みをそろえる形で、「生活者としての外国人」に対する日本語教育の内容・方法について検討を進めました。2010年前後には、生活場面に即した日本語教育のカリキュラムや教材整備が進められましたが、依然として法的根拠は弱く、安定的な制度とは言い難い状況でした。
現状の政策体系
在留外国人が年々増加する中で、状況を大きく転換させたのが、2019年に成立した「日本語教育の推進に関する法律」(以下、日本語教育推進法)です。同法は、「多様な文化を尊重した活力ある共生社会の実現」と「諸外国との交流の促進並びに友好関係に維持発展」を目的に掲げています。外国人等に対し、その希望、置かれている状況及び能力に応じた日本後教育を受ける機会の最大限の確保等を基本理念とし、「国、地方公共団体及び事業主の責務を明らかにする」ことが定められました(毛受、2024)。さらに、法制上および財政上の措置についても規定されています。これにより、日本語教育は初めて「国が総合的に推進すべき政策」として明確に位置づけられました。
日本語教育推進法に基づき、2020年には「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」が閣議決定されました。同方針では、「外国人を日本社会の一員として受け入れ、外国人が社会から孤立しないようにするためには、日本語を習得できるようにすることが極めて重要」であると、日本語習得の重要性が強調されています。国には、日本語教育推進施策を総合的に策定・実施し,必要な法制上・財政上等の措置を講じる責務が課され、地方公共団体には、地域の状況に応じた日本語教育推進施策を策定・実施する責務が定められました。また、事業主に対しても、国および地方公共団体の日本語教育推進施策への協力や、外国人等およびその家族に対する日本語学習機会の提供等に努めることが求められています。
総務省も2020年に「地域における多文化共生推進プラン」を改訂し、外国人に対する「コミュニケーション支援」として、多言語化や「やさしい日本語」を含む行政・生活情報の提供、相談体制の整備に加え、地域の実情に応じた日本語教育の推進や、行政機関、日本語教育機関、雇用事業主、外国人の生活支援を行う団体等の連携強化による地域日本語教育体制の整備を求めています。
外国人や外国籍の子供への日本語指導の充実を図るため、2024年4月には日本語教育の所管が文化庁から文部科学省に移管され、総合教育政策局内に専門部署として「日本語教育課」が設置されました。これにより、学校教育機関とより密接に連携した日本語学習支援体制の推進が期待されています。
同年5月には、「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」(以下、日本語教育機関認定法)が成立しました。同法は、日本語教育機関のうち一定の要件を満たすものを認定するとともに、日本語教員の国家資格を創設することを目的としています。これにより、日本語教師、日本語教育機関、日本語教師養成機関の三者について、国が共通の基準の下で認定・登録を行う制度的な枠組みが整備されました。同法に基づき、2024年度に41の日本語教育機関が初めて認定され、同年11月には登録日本語教員試験も開始されました。 日本語教育政策は、外国人政策の中核に位置付けられています。「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」において2018年に策定され、令和7年まで毎年改訂されている「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(以下、総合的対策)および、2021年に初めて策定された「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」(以下、ロードマップ)と、「日本語教育推進基本方針」は、相互に整合性をもって推進することが確認されています(文部科学省、2025a)。総合的対応策およびロードマップでは、主要施策として「円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育などの取組」が最初に掲げられています。
表1 日本語教育政策の進展

※黒字は日本語教育政策、青字は関連する政策や出来事
出所:筆者作成
政策的論点と課題
日本語教育の担い手の確保と持続性
2024年時点での日本語教育実施機関・施設等の内訳を見ると、任意団体が510機関と全体の19%を占めています(図2)。また、日本語教師数については、ボランティアによるものが2万1568人と全体の49.0%を占め、最も多いです(図3)。さらに、日本語教師の年代別内訳を見ると、40代以下は27.1%にとどまり、50代が19.3%、60代が21.7%、70代が14.7%、不明が17.3%となっています(文部科学省、2025b)。これらのデータから、在住外国人に対する日本語教育は、依然としてボランティアに支えられている部分が大きく、若年層の担い手が少ない状況にあることがわかります。
こうしたボランティア中心の体制は、地域の実情に応じた柔軟な対応や参加の裾野を広げてきたという側面がある一方で、安定的・継続的な教育の提供という観点からは限界が指摘されています。
登録日本語教員制度により日本語教師の専門職化が進みつつあるものの、待遇やキャリアパスの不透明さから、担い手不足は引き続き課題となっています。制度整備の段階から、実際に機能し、持続する制度として定着させる段階へと移行する中で、日本語教師を安定した職業として確立していくことが求められています。
図2 日本語教育実施機関・施設等数の内訳

※法務省告示機関とは在留資格「留学」で来日する外国人を受入れることのできる日本語教育機関のことで、法務省(出入国在留管理庁)が定める「告示基準」を満たした学校を指す。
出所:文部科学省(2025b)図2を元に筆者作成
図3 日本語教師数の職務別内訳

出所:文部科学省(2025b)図5を元に筆者作成
地域間格差の是正
日本語教育の提供体制は、自治体の財政力や人材確保の状況に大きく左右されており、地域間格差が依然として大きい状態です。国の補助事業は拡充されているものの、全国的な均質化には至っていません。
文化庁および文部科学省は、「生活者としての外国人」のための日本語教室空白地域解消推進事業を2018年から実施しており、日本語教室が設置されていない市町村は年々減少しています(図4)。しかし、2024年11月時点においても、日本語教室が開設されていない市町村は722存在しています(文部科学省、2025b)。そのうち、外国人比率が全国平均を上回る市町村が101あり、こうした地域に対しては、より積極的な日本語教育の提供体制整備が求められます。
図4 市区町村における日本語教室の有無の推移

※2019年度より日本語教育機関の所在地(市区町村)のデータと都道府県が回答した域内の空白地域のデータの双方を使用
出所:文部科学省(2025b:15)および文部科学省(2025b:25)を元に筆者作成
移民第二世代に対する日本語教育
日本語指導が必要な児童生徒数は、この10数年で急増しています。2023年度時点における日本語指導が必要な外国籍児童生徒数は5万7,718人(小学校3万8,141人、中学校1万3,369人、高等学校4,991人)であり、日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒数は1万1405人(小学校7,991人、中学校2,598人、高等学校582人)となっています(図5)。両者を合わせると、約7万人の児童生徒が日本語指導を必要としている状況です(文部科学省、2024a)。
図5 公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数の推移

出所:文部科学省(2024a:4, 8)を元に筆者作成
このような状況に対して、文部科学省は「外国人児童生徒等に対する日本語指導のための指導者の養成を目的とした研修の実施」、「日本語指導等、特別な配慮を要する児童生徒に対応した教員の配置」、「帰国・外国人児童生徒教育担当指導主事等連絡協議会の開催」などの施策を実施しています。また、「学校教育におけるJSL(第二言語としての日本語)カリキュラム」を開発し、「特別の教育課程」を導入することで、正規の授業時間内で日本語指導を受けられる仕組みも整備されてきました。
しかし、実際の取組は地域差が大きく、学校によっては日本語指導者の不在や、「特別の教育課程」の編成が困難であることなどを理由に、日本語指導を必要とする児童生徒が十分な学習機会を確保できていない実態も指摘されています(山脇・日暮、2025;毛受、2024)。政府が2026年1月に発表した「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」(下記)では、子供に対する日本語教育についても明記されており、今後の取組が急務となっています。
「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」
2026年1月23日に政府より発表された「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」では、「Ⅱ 国民の安全・安心のための取組」および「Ⅲ 外国人が日本社会に円滑に適応するための取組」の一環として、「日本語教育の充実」が明記されています。
(3)日本語教育の充実
ア 来日前の日本語教育
・育成就労制度の開始に向け、現地における日本語教育カリキュラム・教材開発支援、日本語教師の育成等、海外の日本語教育活動を支援
イ 大人(労働者)に対する日本語教育
・育成就労制度における日本語講習モデルカリキュラムの開発・普及促進
・監理支援機関や育成就労実施者において認定日本語教育機関や登録日本語教員による日本語講習が円滑に行われるよう運用
ウ 大人(生活者)に対する日本語教育
・オンライン日本語学習教材の充実、地方公共団体による地域日本語教育の総合的な体制づくりへの財政支援の拡充
・地域日本語教育に関するガイドラインの作成等を検討
エ 子供に対する日本語教育
・「プレスクール(仮称)」(初期支援)の方策の検討、ICTや生成AIの活用も含めた指導内容・方法等のガイドラインの提示、日本語指導補助者等への支援の拡充、地方公共団体への財政支援等の拡充
オ 日本語教師の養成・研修及び社会的地位の向上
・我が国に在留する外国人(帯同家族を含む。)が日本語や我が国の制度・ルール等を学習するためのプログラムなど、留学生の受入れに限らない場での認定日本語教育機関や登録日本語教員の活用方策の検討と登録日本語教員の処遇改善の推進
現時点では、定住者向けの日本語教育プログラムは体系的に整備されておらず、包括的な日本語教育体制の構築には至っていません。しかし、今後は上記の対応策に示された内容が具体化され、国主導による体系的な日本語教育プログラムが推進されることが期待されます。
おわりに
日本の日本語教育政策は、長く周辺的な扱いにとどまってきましたが、現在では外国人受入れ政策および共生政策の中核的基盤として位置づけられるようになりました。今後は、日本語教育を単独の施策として捉えるのではなく、労働政策、教育政策、地域政策と有機的に結びつけていくことが不可欠です。日本語教育の充実は、外国人のためだけの施策ではなく、日本社会全体の秩序を維持し、その持続可能性を高めるための重要な投資であると言えるでしょう。
参考文献
- 外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議(2025)「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和7年度改訂)」、https://www.moj.go.jp/isa/content/001440747.pdf(最終アクセス2026年1月23日)。
- 外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する 関係閣僚会議(2026)「外国人の受入れ・秩序ある共生のための 総合的対応策(案)」、https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kakuryokaigi/dai2/shiryo1-4.pdf(最終アクセス2026年1月23日)。
- 毛受敏浩著(2024)『自治体がひらく日本の移民政策―地域からはじまる「移民ジレンマ」からの脱却 第2版』、明石書店。
- 文部科学省(2024a)「令和5年度 日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果について」、https://www.mext.go.jp/content/20240808-mxt_kyokoku-000037366_4.pdf(最終アクセス2026年1月26日)。
- 文部科学省(2024b)「日本語教育実態調査 令和5年度報告 国内の日本語教育の概要」、https://www.mext.go.jp/content/20241101-mxt_chousa01-000038170_02.pdf(最終アクセス2026年1月26日)。
- 文部科学省(2025a)「文部科学省における日本語教育施策について」、https://www.mext.go.jp/content/20250116-mxt_nihongo01-000039681_2.pdf(最終アクセス2026年1月23日)。
- 文部科学省(2025b)「日本語教育実態調査 令和6年度報告 国内の日本語教育の概要」、https://www.mext.go.jp/content/20251114-mxt_nihongo01-000045594_2.pdf(最終アクセス2026年1月26日)。
- 山脇啓造・日暮トモ子編(2025)『日本と台湾の移民政策 多文化共生社会の形成に向けて』、明石書店。
