EN-ICHI家庭と地域の未来を拓く
【海外子育てコラム_米国 vol.3】ラスベガスで働くママの日常
ラスベガスで東洋医学のクリニックを経営しながら子育てをするよりこさん。「最も大変だ」と語るのは、意外にも“移動”という時間のコストです。第3回では、「送迎地獄」と会員制小児科という新しい医療モデルの利用など、母としてのリアルな日常についてお伺いしました。
車社会という“見えない拘束”
―アメリカでの子育てで、一番大変なことは何ですか?
実は、いちばんの負担は「移動」かもしれません。ラスベガスは完全な車社会です。親は子供の送迎にもかなりの時間をとられます。日本のように「小学生が一人で公園に行く」ということは、治安の面でも難しいですし、場合によっては通報の対象になることもあります。なので、子供の日々の送迎が、親にとってはかなりの負担になります。
―それは大変ですね。よりこさんは、東洋医師として働きながらご自身のクリニックの経営もしているんですよね?
はい。夫の仕事の関係で、日々の送迎は私が担当しています。日々の送迎や子どもの体調不良時の対応などを優先すると、クリニックの経営もあるので、自分が患者さんを診られるのは週1日が限界です。
本来ならもっと臨床の勉強をしたい、専門性を高めたいという欲求はありますが、現実はなかなか厳しいです。今はスローダウンせざるを得ません。自分自身の「能力アップ」が停滞している感覚には、もどかしさを感じます。
月200ドルで“安心”を買う―会員制小児科という選択
―以前、医療保険には入っていないという話をされていたと思いますが、子供の医療費についてはどのようにしているんですか?小さい頃は特に体調を崩しやすいですよね。
まさに、子育てをしていて子供の医療費というのはとても悩ましいものでした。通常米国では、診察を受けてもその場では費用が分かりません。1ヶ月後など忘れた頃に、目の飛び出るような請求書が届いたりします。子供は体調を崩しやすいですし、体調を崩して病院に連れて行くときに、子供の体調だけではなくお金のことも考えないといけないのは精神的に非常に負担になります。
でも、最近「コンシェルジュ・ドクター(会員制小児科)」の会員になり、この不安がなくなりました。月額200ドルの会費を支払うことで、24時間いつでも医師と直接連絡が取れるサブスクリプション型サービスです。この仕組みのおかげで、不透明な高額請求に怯えることなく、安心して医療を受けることができるようになりました。

※写真はイメージです
安全は自己責任、愛情は社会全体から
―治安と社会環境について伺わせてください。ラスベガスという都市で暮らす以上、避けて通れない問題ですよね。
端的に言えば、治安は「買うもの」です。ラスベガスでは、子供を一人で歩かせることは絶対にあり得ません。先ほどお伝えした通り、学校への送迎、習い事、友達との遊び、すべて親の車出しが前提です。
また、公立校では中学校から麻薬が蔓延しているという現実もあり、安全を確保するためには、高い学費を払ってでも私立や環境の良いエリアの学校を選ぶ必要があります。安全という公共財が崩壊している以上、親は常に「リスクの買い取り」を迫られます。
―まさに「自由の代償」ですね。その一方で、よりこさんが「アメリカで育てて良かった」と強く感じる瞬間はどこにありますか?
それは、社会全体が子供に向ける「圧倒的な受容性と愛情」です。街を歩けば、見知らぬ人が「なんて素敵な服なの!」「愛らしいわね」と惜しみなく声をかけてくれます。
さらに、どんな人種も「そこにいて当たり前」というダイバーシティも、大きな魅力です。人種や言語の違いを特別視しない感覚が、娘にとっては当たり前になると思います。そういう感覚が自然に備わるのはよいことだと思います。
理想と現実のあいだで ― 海外子育てへの視座
―これから海外で子育てをする方へのアドバイスはありますか?
米国での育児を通して、心地よい多様性を享受するとともに、公的なサービスに依存しない「個の生存戦略」を確立する必要性を感じています。これから海外へ出る方々には、華やかな理想だけでなく、その土地の「コストとリスク」を冷静に見極める目を持ってほしいと思います。自ら学び、独自の互助ネットワークを築く、そういう姿勢が、不確実な世界で子供を守り育てるためには必要だと思います。

ハロウィンを楽しむ娘さん(よりこさん提供)
【海外子育てコラム_米国】
vol.1 自宅出産を選んだ理由と、米国医療の「サバイバル」な現実
vol.2 プリスクールが映し出す米国の教育格差
vol.3 ラスベガスで働くママの日常
