一般社団法人平和政策研究所ブログ

子どもの貧困対策をどう考えるか

「貧困の定義」と今後の課題
池谷 和子 長崎大学准教授
池谷 和子(いけや・かずこ)長崎大学准教授
横浜市生まれ。東洋大学大学院法学研究科博士課程修了。専門は憲法、未成年者保護法。著書に『アメリカ児童虐待防止法制度の研究』。日米の児童虐待、同性婚問題等に関する論文多数。

日本における「子どもの貧困対策」

国会は平成25年に全16条からなる「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を制定した(平成261月に施行)。この法律では、「政府が子どもの貧困対策を総合的に推進するために大綱を定めること」や「内閣府に子どもの貧困対策会議を設置すること」等を定めており、これを受けて平成26829日に閣議決定された政府の大綱では、「貧困の世代間連鎖の解消と積極的な人材育成」を目指し、「第一に子どもに視点を置いて、切れ目ない施策の実施」を行うことを方針として、①教育の支援、②生活の支援、③保護者に対する就労の支援、④経済的支援を当面の重点施策としている(この大綱は、施行5年経過時に、再検討がなされることになっている)。

この大綱をもとに現在、内閣府、厚生労働省、文部科学省を中心に実際の施策がなされているが、内閣府では(1)官公民の連携・協働のためのNPO等とその活動を支援する企業等とのマッチング事業、(2)「地域子どもの未来応援交付金」として、貧困の実態調査、支援を子ども達に結びつける事業の整備、担い手の育成等に関する地方自治体の活動への補助金の交付、厚生労働省では(1)自立援助ホームを全国で190カ所(2019年末までの目標)つくり、児童養護施設等への入所措置を受けていた子ども達が22歳になるまで経済的な自立が出来るようにすること、(2)ひとり親家庭に対する支援として、自立に向けた就業支援を基本としつつ、子育て・生活支援・学習支援などの総合的な支援を充実させ、(3)生活困窮家庭の子どもに対する学習・生活支援、大学等への進学支援を行い、文部科学省では(1)幼児教育の無償化、大学生等への給付型奨学金、就学援助の拡大等の教育費負担の軽減や、(2)学校をプラットフォームとした総合的な貧困対策の推進等がなされている。

「子どもの貧困」の定義

このように、様々な施策が行われているものの、そもそも何をもって(どのような状況があれば)子どもが貧困状態にあると判断しうるのかという判断基準が存在していないのが現状である。

貧困には、「絶対的貧困」と「相対的貧困」の概念がある。「絶対的貧困」が重労働に従事する労働者の必須カロリーに相当する食費に最低限の衣服費などを若干プラスしたものを貧困基準として貧困率を計算するのに対し、「相対的貧困」とは人がある社会の中で生活する際に、その社会の殆どの人々が享受している普通の習慣や行為を行うことさえ出来ないことを貧困としている。現在では経済協力開発機構(以下、OECDと略す)を始めとして多くの先進国では貧困問題を考える時に「相対的貧困」の概念を用いている。

日本においても、以前から「子どもの貧困率」の統計では「相対的貧困」の概念が使われており、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を制定する際の国会の審議でも、国際的に相対的貧困の概念が使われていることもあって、深く議論がなされることはなかった。

しかし、OECDの測定法においては、世帯全員の合算した可処分所得(勤労収入、年金、生活保護等の収入から、税金、社会保険料等を引いた額)を世帯人数で調整して、その中央値の半分の金額を貧困線と定義している。可処分所得をベースとしている為、貯蓄や資産は含まれていないのに貧困と定義出来るのか、中央値の半分を貧困線とすることに確固たる論証がある訳ではないのではないか等、問題点も指摘されている。そこで、EUやユニセフでは50%以下ではなく60%以下を貧困線としたり、例えばEUやイギリスでは相対的貧困を補完する指標として、単なる可処分所得のみならず、生活に必要なモノやサービスを、経済的な理由で享受することができない状態にあるかどうかを測定し生活水準を測る「物質剥奪指標」等の様々な指標を貧困かどうかの判断に活用している。

日本においても、大綱に指標という言葉は出てくるが、国が子どもの貧困対策を総合的に推進するに当たり、関係施策の実施状況や対策の効果等を検証・評価するためのものであり、個々の子ども達が貧困かどうかを判断する為の指標ではない。だが、子どもの貧困対策をするのであれば、まずはその子どもが貧困な状況にあるかどうかの判断が可能な定義や判断指標は今後、必要不可欠となってくるのではなかろうか。

今後の課題とは

さらに、昨今では、社会的養護、ひとり親家庭、生活保護家庭の子ども達のみが貧困状態にある訳ではない。現在では核家族が大勢となり、親族間・地域社会における助け合いも減少してきている。また、非正規労働者が多くなり、夫婦2人が揃っていても、多子世帯では日々の暮らしもやっとという家庭も少なくない。子ども達の生活の中心は家庭であるから、すべての家庭の経済的自立は最低限目指すべき課題である。同時に、財産的な問題だけではなく、親は贅沢をしても子どもにお金を掛けない場合もあり、貧困対策ではお金ではなく現物支給をすることや、親への教育をすることも必要であるように思う。

そして、「子どもの貧困」というワードで今一番心配されていることは、自分の責任ではないにも関わらず、子ども達が貧困の状況に置かれ、いかに努力をしようとも、将来にわたって貧困から抜け出せなくなってしまい、貧困の連鎖へと繋がってしまう事にある。

高等教育への給付型奨学金も大切だが、何より重要なのは義務教育制度を充実させることである。義務教育終了時にしっかりと漢字の読み書きすら出来なければ、高等教育どころか職にも就けないであろう。政府も学校を中心としたプラットフォーム事業を展開しているが、もっと教員を増員し、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーを常勤化し、家庭にかかる教育費の負担をなくすようにすれば、子ども達により公平な教育を保障することにもなりうる。現在ではもはや中卒では常勤の職を得ることはほとんど不可能である。その上で、可能であれば、高校まで義務教育とすることが、貧困の連鎖を防ぐ最大の対策になるはずである。