一般社団法人平和政策研究所ブログ

21世紀のキャリアデザインとしての「ライフテーマ」の意義

水野 修次郎 立正大学特任教授
水野 修次郎(みずの・しゅうじろう)立正大学特任教授
愛知県生まれ。米シートン・ホール大学,ジョージワシントン大学卒。麗澤大学教授,(財)モラロジー研究所道徳科学研究センター教授等を経て,現在,立正大学特任教授,同ライフデザインカウンセリング研究所所長。専門はカウンセリング,発達学。教育学博士。臨床心理士。主な著書に『カウンセリング練習帳』『争いごと解決学練習帳』,編・訳書に『人格の教育』『「人格教育」のすべて』等。

働く人の環境変化

21世紀には、働くことの意味に大きな変化が生じている。働く人をどの会社にも縛り付けることのない無境界キャリア(Arthur, 1995)の進展である。職務、組織、産業の壁を越えて動くキャリアが実現した。会社は、もはや生涯雇用でなくなり、社内でのキャリアアップトレーニング(OJT)は少なくなり、キャリアアップは自律する個人の責任として課せられるようになった。

1940年代のキャリアは、人と会社とのマッチングを客観的に測定して、どの会社に入るかを決める時代であった。産業社会が求める人材を効率よく見つけるために、個人の特質や能力を客観的に測定して、その特色や能力に適合する職業をマッチングすることで適材適所が実現すると想定していた。人間は分析される客観的な存在と見なされていた。社会の任務は、人材をうまく振り分けることであった。

1970年代の産業社会では、会社内の階層を登るという官僚社会の典型がキャリア・モデルとされていた。教育には、同じタイプの産業社会に生きる人間を大量生産するという課題があった。個人のキャリア発達は、会社が面倒をみてくれたので、キャリアの発達は会社がその責任を果たすことが求められていた。

21世紀は、まったく様相が変わってきた。働く世界が変幻自在(Hall, 1996)になった。個別性、特殊性、さらに多様性が尊重されている。IT社会の実現とグローバリゼーションによって、働くことの意味に変化が生じた。生涯同じ仕事をする時代ではなくなった。その代りに、働く人には、生涯にわたり雇用される能力を維持する責任が課せられる。自律したキャリア、エンプロイヤビリティの維持や、キャリアアップの個人責任が発生した。

現在は、第四次産業革命が進行している。IT技術の発達に従い働き方に変化生じてきて、好きな時に好きな時間だけ働くというスタイルが増加する傾向にある(内閣府、2017年)。また、人間の働く仕事の一部が、AIによって代替される可能性も生じている。

21世紀の課題

21世紀は、予測できるキャリアのステージモデルが終焉した。キャリアは、自己形成する物語となった。このように不安的な働く世界の中で、安定しているものは、一貫している人格に統合されている生きる意味である。生きる意味は、自分についての物語りとして、いかに自己が変化したか、あるいは同じであったかが語られる。個人は、今までの人生で起きたさまざまな変化にどのように応答していたかを語る。このような語りの基盤に、自分を構成しているライフテーマがある。ライフテーマは、未来の自己予言だ。人間の未来は、その人の台本に書かれている。ある意味では、人生は自己予言の完結ともいえる(Savickas, 2011)。

ライフテーマの構成、脱構成、共構成

ライフテーマは、子どものころから受苦している課題が基盤となって構成されている。だれにでも「同じ苦い思い何回も経験します」「この体験だけは繰り返したくない」などと幾度も枕を涙で濡らす経験があるだろう。このような受苦していることを乗り越え得て、成功体験に転換することが人生の課題である。

ライフテーマは、現在の自分にズレを感じ、混乱しているときに表面化する。自己をどのように構成してきたかを語りながら、忘れていたこと、取りこぼしていたこと、分離されていた経験に気が付く。自分の人生が一貫するまとまったものとして理解できると、人生やキャリアを未来に延長して理解することが可能になる。

21世紀は、さらに自己責任の時代となった。自分にとって大切なこと(mattering)、意味があること(sense making)が問われる時代となった。幸福な人生には、人間関係(love)、仕事(career)、友人・コミュニティ(friend, community)の3つのバランスが必要だ。引きこもっている人には、仕事や友人が欠けている。ニートには、仕事が欠けている。働くこと(working)が生きがいになるのは、キャリアを終えた退職後でも言える。

生きる意味

自分のストーリーを聞いてもらう観客が必要だ。ライフテーマは、周りの人との関係性や社会の評判、適応力などが重層的に関係している。「私の思いを実現するためにどのように生きるか?」という根源な問に答えるには、自分で著作する伝記を聞いてくれる観衆が必要だ。意図を創造し、それを人に語ることによって、行動が促される。観衆に語ることが、自己ストーリーを完結する大きな支援となる。生きる意味は、人とのつながりの中で構成される。意味は他者と共有されて、初めて真正の意味となる。

 

1)Arthur,M.et al.eds.,(1995), The Boundaryless Career: A New Employment Principle for a New Organizational Era Career, NY: Oxford Press.

2)Douglass T.Hall(1996),Protean Careers of the 21st Century, Academy of Management Executive, Vol.10,4,pp.8-16

3)金井壽宏(Kanai Toshihiro) 『働く人のキャリアデザイン』PHP新書2001

4)SavickasM.L.(2012), Life Design: A Paradigm for Career Intervention in the 21st Century, Journal of Counseling & Development,13-19,水野修次郎翻訳

5)Savickas, M.L. 2011. Career Counseling, Washington, D.C.:APA.

6)内閣府(2017)『日本経済2016-2017
Retrieved from http://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/index.html