一般社団法人平和政策研究所ブログ

実践はシステムだけでは動かない:「多職種連携(協働実践)」の勧め

千葉県野田市の虐待死事件に関連して
西郷 泰之 大正大学教授
西郷 泰之(さいごう・やすゆき)大正大学教授
中央大学法学部卒。東洋大学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士課程単位取得満期退学。学術博士。英国イーストアングリア大学子ども学研究所客員研究員、玉川大学准教授等を経て、現在、大正大学児童福祉プロジェクト研究所教授。

「他領域の専門家とうまく取り組むためには、自身の専門職としての目標や原則について、はっきりした自信に満ちた見方を持ち維持することが必要になってきます」

スミス(Smith, 2013

この文は、多職種協働のための示唆に富む実践原理である。「多職種協働」や「多職種連携」は以前からその必要性が叫ばれてきたが、最近少しその状況が変わってきている。最近発生した、千葉県野田市での虐待死事件の発生原因の一つが「多職種協働」の不調であった。たとえシステムがあっても、多職種協働がうまく行かなければ機能しない証左だ。

いま世界で「協働実践」が大きなトレンドに

いま子ども家庭支援領域でのIPEInter Professional Education)が日本でも近年注目を集め出している。高齢者支援や介護関係等ではすでにその重要性への認識は高い。また子ども家庭領域でも病院内など機関内での連携や訓練は一定程度取り組みが進んでいる。しかし、地域における子ども家庭支援領域での多職種協働のための教育・現任訓練・実践は、まだ取り組みが始まったばかりと言えよう。

一方、イギリスでは多職種協働は、20世紀の終わりごろからその必要性について政策策定者側からは声高に叫ばれてきている。しかしその必要性に関する科学的証拠(エビデンス)が不足していたが、それも近年調査研究の進展で一定程度改善されつつある。

本稿ではCAIPECentre for the Advancement of Interprofessional Education )が出版している協働実践シリーズの中から、子ども家庭支援領域のもの『子育て困難家庭のための多職種協働ガイド』(明石書店)を基に、協働実践の「危険性」と「実践上のポイント」についてその「さわり」を紹介することとしたい。

多職種協働の危険性(協働幻想)に注意

多職種協働が大切とは言え、多職種協働を形式的に実施していれば良いかというとそうではない。むしろ危険な状態になる場合も少なくない。調査研究に基づいて明らかになってきている危険性の一部を紹介しておこう。

・会議への低い出席率や「自分たちだけのことを行う」という専門職たちの意識でしばしば不十分な運営がされます。
・不十分な地域資源(例:会議への参加に対応した代替職員補充の費用等不足など)のため、効果的でなくなります。
・良いチームメンバーになろうとするチームメンバーたちとの「チームのおしゃべり」になってしまいます。そして、多数派の意見と異なる意見があっても思い切って言うことを避ける事態が発生してしまいます。
・「共通の目標を共有しているように見られたいというワーカー側の意欲と、関係性をうまく保ちたいという意欲から」家族メンバーの意見や関心を排除してしまうような、専門職間で進むなれ合いが起こります。
・ともに取り組む機関の側の都合で、多職種間実践の受益者が見えなくなることがとても頻繁に起きます。 

協働実践のための留意点は?

では、どうすれば協働実践はうまくいくのだろうか?同書では協働実践がうまく機能するためのポイントを11項目に分けて説明している。

①関係性基盤(関係性の調整)での援助
②家族メンバーとの信頼と尊重の確立・継続
③子どもと家族の意見を聞きシステムとして理解すること
④家族に支援内容を丁寧に説明すること
⑤専門職相互の理解、専門職同士の信頼と尊重の確立・継続
⑥共有するゴールと目的(メンバーの専門性ではなく利用者の生活ニーズを基にして)
⑦役割や責任の明確化と適切な協力・調整
⑧ダイバーシティやシナジーの活用
⑨チームメンバーの参加の保障(ベテランだけが話す雰囲気の排除等)
⑩多機関の取り組みを発展させる資源確保(時間や人、会議室等)
⑪協働の訓練機会の提供(養成課程や現任研修、実践場面で)

こうしたエビデンスに基づいた実践上のポイントを意識するとともに、各専門職の養成課程での他の専門分野の学生との協働実践のための演習や、現場での多職種による現任訓練の実施、そして多職種協働が実際の実践の場面で活用されることが期待されている。

「要保護・要支援系施策」と「成育支援系施策」の間のクレバス

また、連携がとりわけ不調である「要保護・要支援児童」の支援関係の専門職と「成育支援(いわゆる健全育成や子育て支援)」関係の専門職のクレバスを埋めるための連携、すなわち重層的で総合的なサービス提供のための連携が重要となる。わが国の場合、要保護児童・要支援児童への支援では成育支援関連のサービスが効果的に活用されていない。

イギリスでは、要保護児童には、全ての子どもに普く提供される成育支援関係のサービスと要支援児童に提供されるサービス、そして要保護児童に提供されるサービスの3層のサービスが全部重なり合って供給される考え方になっている。日本では要保護児童へは要保護児童へのサービスのみしか提供されず、地域のおける成育支援関係のサービスの提供は不十分となっている。

 

参考・引用文献 

テイラー、ソウバーン(2015)『子育て困難家庭のための多職種協働ガイド』(西郷泰之訳)明石書店