多世代家族療法とカップルセラピーの視点 ―夫婦関係と子どものこころの問題にどう向き合うか―

多世代家族療法とカップルセラピーの視点 ―夫婦関係と子どものこころの問題にどう向き合うか―

2020年12月16日
現代の家族が置かれた状況

 現代日本では児童虐待件数が増加の一途をたどっており、不登校やいじめなど学校での不適応の問題、さらに子どもの心身の健康の問題に悩む親も増えている。親や子どもをめぐる問題の背後には、現代社会の在り方に関する課題と家族自体が抱える課題がある。現代社会の在り方に関する課題の中でも大きいのは、家族にかかるストレスの増加である。子育て期にある家族は、喜びも大いにあるが、元々ストレスが増加しやすい。加えて、現代では地縁・血縁の希薄化と核家族化・少子化が進展し、家族は多くの問題を自力で解決しなければならなくなった。
 そのような家族の孤立化が進む中で、現代の労働環境も家族にかかるストレスを増加させている。夫婦共働きが増加している中、相変わらず労働時間は長く、女性にとって働きやすい職場は多くない。そして、父親の子育てに対する理解がない職場が非常に多い。また、IT化による仕事の効率化はかえって仕事量を増やし、コミュニケーションの希薄化を引き起こしている。結果として、職場から家庭に持ち込まれるストレスも増加している。
 一方、家族自体も課題を抱えている。価値観の変化から離婚や不倫に対する抵抗感が小さくなったほか、子どもは親の言うことに従うべきだと考える親が増えた。最近は積極的に家庭に関わる父親が増えているが、学歴を重視するあまり子どもに勉強させることに過度に熱心な人もいる。勉強することは大切だが、度を過ぎれば虐待に発展する場合もある。
 そして、子どもも大人もコミュニケーション能力が低下してきている。子どもは遊びの中でコミュニケーションを学ぶが、子ども同士で遊ぶ機会が少なくなっている。いじめも増加しており、歪んだ上下関係や支配関係を経験する子どもが増えている。そのようにして、対等なコミュニケーションをとる力を身につけられなかった子どもが大人・親になる。できれば、自分のことも相手のことも大切にする対等な人間関係やコミュニケーションを経験した上で、夫婦になり親になるのが理想であり、DVや虐待の防止にもつながるであろう。

多世代家族療法の考え方

 このような社会と家族の状況を見ると、親と子の心の問題を考える際には多世代家族療法の考え方が役に立つ。家族療法は心理療法の一つであり、個人の心の問題や、親子、夫婦関係の問題を家族全体の関係性の枠組みで理解し、援助するアプローチである。その中でも、多世代家族療法は子どもの問題を親子二世代ではなく、少なくとも祖父母を含めた三世代以上で考える点に特徴がある。
 親子二世代の枠組みで子どもの不登校や心の健康の問題を考えると、たいていは親が悪く見える。子どもに共感的に接することができなかったり、心ない言葉をぶつけてしまったりする姿が目立つ。確かに、このような親の否定的な言動は子どもを傷つけたり追い詰めたりすることになる。
 しかし、祖父母を含めた三世代以上の関係に視野を広げると、異なる構図が見えてくる。というのも、親もかつては子どもであり、子ども時代にトラウマや心の傷を負っている場合があるからである。親の心の中にも非常に傷ついた子どもの部分が生き続けており、癒されないまま現在に至っていることがある。そうした癒されていない部分が大きければ、自分の子どもを養育するときに適切な接し方をすることが難しくなる。
 このような現象を、多世代家族療法では破壊的権利付与という。あたかも他者(子どもやパートナー)に対して破壊的に振る舞って良いという権利を持っているかのような言動が見られるということである。その親自身の子どもの頃の状況はさまざまである。親から虐待された、親の精神疾患や障害、親との死別、離婚や再婚、貧困などが挙げられるが、このような経験をした人がすべて、破壊的権利付与と言われる問題を抱えるわけではない。実は、こうした経験をした人であっても、その後の人生で誰かにそのつらさや寂しさや苦しさを理解されサポートされた人は、親になってから子どもやパートナーを大切にすることができるのである。その誰かとは、祖父母や親族や友人といった身近な人、あるいは教師、医師、看護師、カウンセラーなどの専門家、さらには結婚したパートナーであったりする。子どもの頃のつらい体験が、その人のその後の人生を決定づける訳ではなく、人とのかかわりの中で癒され、修正されていく可能性があるのである。
 多世代家族療法のこのような観点からすれば、子どもの問題を改善するためには、ただ親を責めるだけでは何も変わらず、むしろ親をいかに理解して、適切にサポートするかが重要になる。親が幼い頃から大変な人生を送りながらも努力してきたことを認め、共感を示すことが重要となる。その上で、どのように子どもを理解し関わったら良いかを話し合い、サポートする。そうすることが、結果的に親子関係の変化につながり、子どもを援助することにつながる。

筆者作成
カップルセラピー

 親子の問題と同じかそれ以上に難しいのが、夫婦・カップル間の問題である。子育てをめぐる意見が衝突してどうにもならない、浮気の問題、離婚するか否かで迷っている、実家との付き合いでもめている、あるいは一方がうつ病やパニック障害を抱えているなど、二人の間には様々な問題が起こりうる。
 こうした夫婦の問題は、二人だけで話し合って解決しようとしても上手くいかないことが多い。当人たちは話し合っているつもりでも、不満のぶつけ合いにとどまっていることが少なくない。また、自分自身の本当の気持ちをわかっていない人も結構いる。あるいは、気持ちや考えは自覚していても表現の仕方が適切でない場合もある。
 そこで有効となるのが、カップルセラピー(夫婦療法)である。カップルセラピーではセラピストが夫婦のコミュニケーションをサポートする。基本的には夫婦二人で来てもらい、セラピストが本音を引き出したり、上手く伝えられていない気持ちを翻訳したりする。お互いに強く主張し合う夫婦の場合は、セラピストがこまめに会話に入り、主張をぶつけ合うサイクルを止めることもある。ただし、あまりにも口論が激しい場合は、夫婦別々に面接をする。
 カップルセラピーには色々な問題が持ち込まれるが、どちらか一方が悪いという見方は基本的にはしない。二人がどのように影響し合って葛藤が持続され、深刻化しているかを探る。自分のこと、パートナーのこと、二人の関係を理解し、関わり方を変えることで、二人の関係が変わることを目指す。

男女の違いを生かす

 私の研究所では、カップルセラピーを行う際は、セラピストも男女二人で臨む。男女のセラピストで組んだ方が、より複眼的にカップルの関係を捉えられるというメリットがある。男性同士・女性同士だから理解できることもあり、片方だけで対応するより夫婦の問題を公平に扱えるというメリットがある。
 カップルセラピーに来るカップルにとっても、男性・女性両方のセラピストがいたほうが良い場合は少なくない。例えば、夫の浮気問題で来談した場合、対応するのが女性のセラピスト一人だと、夫は最初からあまり話したがらない。男性のセラピストが同席し、少しサポートすることで本音を言いやすくなる。あるいは、妻があまり自分の言いたいことをはっきり言えない人だと、女性のセラピストのほうが言いにくさをわかって発言を促しやすかったりする。
 また、言葉の受け取り方一つをとっても男女の違いがある。男性は言葉をそのまま受け取りやすく、女性は言葉の裏に別の気持ちがあることもある。例えば、妻が夫に「出張のお土産はいらない」と言ったとき、夫はそのまま受け取るが、妻は買ってくれたらうれしいと思っているということが実際にあった。夫婦の問題には男女の違いが大きく影響していることがよくあり、セラピストも男女二人の方が、バランスの取れた理解と介入をしやすくなる。
 また、夫婦の問題は、一般的な一対一の個人カウンセリングで扱うと上手くいかなくなることがある。例えば、妻が夫に不満を持って女性のカウンセラーと話す。女性のカウンセラーは妻の不満に同感し、次第にいかにひどい夫かという方向に話が進んでしまう。そうすると、妻は自分の気持ちを理解してもらえて元気になるが、家に帰ると夫婦喧嘩が余計に激しくなり、それが離婚につながることもある。
 しかし、夫婦二人でカップルセラピーに来てセラピストが二人いれば、妻だけでなく夫の言い分も聞けるので、実際に二人がどのような関係なのかを理解しやすい。アメリカのあるセラピストは、「離婚の最大の前兆は個人カウンセリングを受けることである」と言っている。また、夫婦関係は子どもが見ており、子どもの情緒発達に非常に大きな影響を与える。カップルセラピーを専門とするセラピストは非常に少ないが、子どものこころの健康のためにも、夫婦への支援はこれからますます重要になる。

アサーションの概念

 カップルセラピーは、基本的に夫婦関係の改善や修復を目指すが、稀に結果的に離婚に至る場合もある。また、そもそも夫婦関係を続けていきたいのかどうか、自分でもよく分かっていない人も来談する。そして、セラピストは「別れた方が良い」とか「努力して修復した方が良い」とは言わない。ただ、お互いに自分の言いたいことは言えて、相手の言い分も聴ける関係をつくることは基本的にやろうとしている。そのように、自分も他者も大切にする自己表現を「アサーション」という。
 夫婦関係において、夫も妻もアサーティブな、すなわちアサーションに則ったコミュニケーションを行えることは重要である。「私はこう思う」、「私はこんな風に感じている」、「私はあなたのこういうところに困っている」など、自分の気持ち、考えや欲求などを正直に率直に述べる。一方で、「あなたはどう思うの?」「あなたはどう感じるの?」と、相手の気持ちや考えにも耳を傾け、理解しようとする。アサーティブなコミュニケーションでは、自分の言いたいことを明確に述べるだけでなく、相手の話も聴いて理解するように努める。
 こうしたアサーティブな自己表現は、自分と相手の違いを当然のこととして受け入れるということが基本になる。血のつながっている親子であれ、愛し合って結婚した夫婦であれ、人は一人ひとり違う。違って当然ということが出発点となる。
 アメリカの研究では、長期間にわたって上手くやっている夫婦と、短い期間で関係が破綻したり、慢性的に葛藤状態にあったりする夫婦を比較している。この研究によると、どちらの夫婦も直面する課題や問題自体には違いがないという。つまり、どこの夫婦でも、子育てや家事をどう分担するか、実家との付き合い方、お金の管理の仕方など、問題となることはほぼ同じということである。しかし、どのように話し合いが行われているか、という点が違っている。アサーティブにお互いを尊重し合いながら話し合える夫婦と、そうでない夫婦では結果がまるで違うというのである。
 カップルセラピーでは、セラピストを介してアサーティブなコミュニケーションを行い、自分のことと相手のこと、そして自分たちの関係に起こっていることを理解してもらうよう努めている。そのように取り組んでいくと、夫婦の進む方向が決まったり、相手を責めていた人が責めるという形ではなく自分の気持ちや相手に対する要望を素直に伝えられるようになる。

アサーション教育

 こうしたアサーティブなコミュニケーションは、子どもの頃から身につけていくことが重要である。現代の子ども・若者は、放っておくと互いにコミュニケーションをとらない。小学生が友達と広場で遊ぶといっても、個々にゲーム機に向かっていて、集団で遊ぶわけではない。大学の入学式や新入生歓迎行事では、集まった新入生は皆スマホをいじってばかりで周囲に話しかけない。友人や恋人とも当たり障りのない楽しい話はしても、真面目な話や深刻な話は避けたり、自分の言いたいことを一方的に主張したりする。このようにコミュニケーションスキルが低いまま結婚すれば、夫婦関係や親子関係の中で問題が顕在化する。色々な段階の教育にアサーションの考え方を取り入れ、自分の意見を言い、かつ相手の話を聴くという基本をしっかり身につけておく必要がある。
 また、アサーション教育は、虐待やDVなどの様々な家族の問題を予防するためにも有効である。虐待やDVの予防には、互いの違いを認め合える人間関係を築くことが重要となる。そのためには、人権の観点から、誰もが自分の気持ちや考えを伝えることができ、大切にされる権利があることを教える必要がある。そのような「アサーション権」を自分も相手も持っていることを共通認識として持てるように、子どもにも大人にも教えていかなければならない。このような教育を受けた人が夫婦になり親になれば、DVや虐待にまで発展することはずいぶん減るであろう。
 学校現場でも、熱心な教師やスクールカウンセラーがアサーション教育に取り組んでいる。コミュニケーショントレーニングの一貫として行われているが、本当はカリキュラムに入れることが望ましい。グループワークなどを通して、自由に発言してよいことや、違いを認め合うこと、そしてコミュニケーションの難しさを学んでいくことが肝要である。結婚や子育ての時に手遅れとならないように、子どもの頃からコミュニケーション能力を養うことが大切である。

おわりに

 現代日本は一昔前と比べ、より多くの父親が積極的に子育てに関わっている。子育てに関わることは、父親にとっても大いに学びとなる。子どもの可能性や一人ひとりの違い、そして自分の至らなさも教えてくれる。特に男性は女性ほど情緒が育つ機会がないから、子育てに直接関わる意味は大きいであろう。
 しかし、最近の父親たちは何か理想の父親になろうとしすぎているように見えるし、社会もそれを求めすぎているように見える。もう少しドジで不完全でも子育てはやっていけるはずであるが、パーフェクトでなければ父親ではないという風潮が無きにしもあらず、である。父親の産後うつも研究され始めており、虐待との関係も指摘されている。父親をどう支援していくかということは、今後の重大な課題であろう。
 また、夫婦の価値観や考え方は一致しなければならないと思っている人は少なくないが、価値観も考え方も、物事への対処の仕方も違っていて当たり前だと思っていた方が良い。どちらが正解かを争えば口論になる。性格の不一致が離婚の大きな原因とされているが、そもそも性格が一致することなどない。だから、違いをどう認め合い共有できるかを考えることが大切なのである。

政策オピニオン
野末 武義 明治学院大学教授
著者プロフィール
立教大学文学部心理学科卒。国際基督教大学大学院教育学研究科博士前期課程修了。国立精神神経センター児童思春期精神保健部勤務などを経て、現職。IPI統合的心理療法研究所所長。一般社団法人日本家族心理学会理事・研修委員長。家族心理士、臨床心理士、公認心理師。専門は家族心理学、カップルセラピー、家族療法、アサーション・トレーニング。著書に『夫婦・カップルのためのアサーション』『家族心理学~家族システムの発達と臨床的援助』(共著)『家族の心理』(共著)他。
現代の家族の問題、特に夫婦関係と子どもたちの問題にどう向き合うのか。多世代家族療法とカップルセラピーの取り組みから提言する。

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