法的側面から見た緊急課題 ―矛盾だらけの日本の防衛政策―

法的側面から見た緊急課題 ―矛盾だらけの日本の防衛政策―

2012年3月1日

「自分の国は自分で守る」信念で、防衛予算の緊急増額を安保会議にはかり、早急に閣議決定して概算要求に盛り込み、防衛費を柔軟に確定できる仕組みを作るべきである。

提言要旨

1.集団的自衛権行使を認め、日米同盟を相互防衛的関係に深化させよ

 日本を取り巻く安全保障環境は大きく変化している。我が国が真の防衛力を身につけるためには、日米安保を片務性から双務性に徐々に転換させる必要がある。国防予算削減が不可避となる米国の実情や日米両国の信頼構築のためにも、日米安保体制をより双務的な関係にすることは急務となっている。それには、まず集団的自衛権行使に踏み切ることである。集団的自衛権の行使には、安全保障会議や閣議を経て国務大臣の国会答弁で済むとの学者の見解がある。政治家に覚悟さえ有れば、今すぐにでも実行でき、かつ効果はきわめて大きい。

2.武器輸出三原則を緩和し、防衛産業振興と研究開発を促進せよ

 防衛力の強化には防衛生産、技術基盤及び装備品の効率化が急務である。日本はこれまで「武器輸出三原則」の故に、国際共同開発・生産が不可能であった。その結果、日本の装備品コストは高くなり、技術基盤維持に対する不安が指摘されてきた。欧米では戦闘機などのハイテク兵器は各国で共同開発・生産をしてコストを分担するのが潮流になっている。2011年12月、政府は安全保障会議、閣議決定をへて官房長官談話として三原則の緩和を発表した。戦闘機などの国際共同開発・生産への参加、平和構築・人道目的での装備の供与を「例外」として認める措置が含まれている。なお、共同開発・生産の相手国は米国や豪州、北大西洋条約機構などに制限している。

3.「緊急事態基本法」及び「安全保障基本法」を制定し、憲法と一般法との間を補え

 日本国憲法には国民の国防義務も自衛隊に関する条項もなく、戦後65年を経てなお精神的独立が出来ない状況となっている。それはひとえに国防条項が欠如しているところにあるといってよい。国防条項がない憲法と一般法の間を埋める基本法として、「緊急事態基本法」と「安全保障基本法」の制定を強く求めたい。東日本大震災と原発事故の史上初の惨禍をうけ、我が国に於いてその要請は高まっている。緊急事態基本法は、安全保障法体系の基本法かつ全体の危機管理のための法を包括した位置付けとして想定されており、安全保障基本法(平成23年の自民党公約)をめぐる議論とも関連して重要な議論を喚起している。

4.憲法に国防条項、緊急事態条項を盛り込み、自衛隊を『国防軍』として明記せよ

 同じ敗戦国であるドイツ(旧西ドイツ時代から)では、現実またはあるべき現実と憲法規定の間に落差ありと見るや、現実尊重で憲法規定を変え、63年間で「基本法」を57回改変している。これが独立主権国家の姿であり、我が国も見習うべきである。我が国の防衛白書は自衛隊を軍隊とは表記していない。実力組織とある。国会論議や公式の場でも軍隊であると表現はしない。国際社会は自衛隊を軍隊と見ているので、認識や期待にギャップが生じている。軍の目的は自衛ではなく国防、すなわち自国の領土と国民を守ることである。よって「国防軍」という名称が最もふさわしい。「自衛隊」という名称を「国防軍」に改めるべきである。

5.軍事知識を政治家の必須要件とし、政治指導者から国防意識・愛国心の高揚を図れ

 古代ローマの物語を書いている塩野七生氏は「ミリタリーを知らない政治家は国を統治し安全を守ることはできない」と述べている。しかし、我が国では防衛の基本方針を理解していない防衛大臣や自衛隊の最高指揮官であるとの自覚を持っていない総理大臣もいた。自衛隊運用についての最終判断、決定権を持つ政治指導者が安保の素人であってはならない。国家を守るには、「力」とそれに裏打ちされた抑止が必要である。それゆえ、ミリタリーの使い方をしっかり知った人間でなければ政治をやるべきではなく、世界的ではそれが常識となっている。

6.機密保護法、とりわけ政治家に対する機密保護体制の整備をはかれ

 我が国の航空自衛隊次期戦闘機として「F35」が2011年12月に確定した。しかし、ステルス性能を備えた第五世代戦闘機で史上最強の戦闘機と言われる「F22」、日本が最も強く要請したこの「F22」の売却を米国は許可しなかった。理由の一つは、軍事機密を守るシステムが日本で確立されていないためである。アーミテージ元国務副長官は、日本に於いて政治家にきちんとした情報やインテリジェンスを説明する方法が確立されていないことと政治家に対する機密保護法が整備されていないことを強く指摘している。

7.防衛費GDP1%の慣行を撤廃し、防衛力を充実させよ

 憲法9条に基づく防衛計画の大綱のもとで、防衛政策を推進する毎年度の予算枠として、防衛費はGNP1%の枠内とすることが1976年三木内閣によって閣議決定された。以来、今なおその呪縛から解き放たれていない。防衛は安全保障環境の変化に対応しなければならない。「自分の国は自分で守る」信念で、防衛予算の緊急増額を安保会議にはかり、早急に閣議決定して概算要求に盛り込み、防衛費を柔軟に確定できる仕組みを作るべきである。

平和政策研究所 外交・安全保障研究部会

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