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政策オピニオン

深刻化する子どもの養育環境と子育て支援のための家族政策

―新しい社会的養育ビジョンの意義―国立成育医療研究センター こころの診療部長 奥山眞紀子

2018.06.30

「新しい社会的養育ビジョン」作成の経緯

 2016年6月3日、改正児童福祉法が公布された。理念に「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」という文言が明記された。「児童の権利」という文言は、2009年7月成立の「子ども・若者育成支援推進法」にも入っているが、児童福祉法という基本的な法律に謳われたのは初めてである。1994年、日本が「児童の権利条約」に批准してから22年、ようやく児童福祉法に「児童の権利」という文言が入ったことには大きな意義がある。
 そして、改正児童福祉法の理念を実現化するために、厚生労働大臣が国会で約束した「新たな社会的養育の在り方に関する検討会が議論を重ね、2017年8月2日、「新しい社会的養育ビジョン」(以下、「ビジョン」)(注)として発表した。今日は、このビジョンの意義についてお話ししたい。
 まずビジョンのⅠ「はじめに」のなかで、「昭和22年、戦後新憲法の下、全ての子どもの福祉を対象として児童福祉法が制定された」と、制定当時の背景に触れている。終戦後、すぐに日本政府は、9月20日に「戦災孤児等保護対策要綱」、翌21年9月19日に「主要地方浮浪児等保護要綱」を出している。その後、全ての子どもの福祉の増進を図る必要があると、厚生大臣が中央社会事業委員会に児童保護事業に関する意見を諮問。それにより昭和22年11月、憲法が制定されて早い時期に、戦災孤児だけでなく、すべての子どもを対象にした児童福祉法が制定された。
 しかし、現実は浮浪児対策中心にならざるを得なかった。それにとどまらず、理念を明確にするため、昭和26年5月、児童に対する概念を確立し、全ての児童の幸福をはかるため、政府は「児童憲章」を制定した。その前文には、「児童は人として尊ばれる」「児童は社会の一員として重んぜられる」「児童は、良い環境の中で育てられる」といった文言が並び、同様の内容が母子手帳にも記載されている。
 1989年、児童の権利条約が国連総会で採択され、先ほど申し上げたように日本は94年に批准した。もっとも日本が批准した際、この条約の趣旨は発展途上国の問題解決のためのものであって日本国内の問題ではないと考えていたこともあり、子どもの権利を保障する法律をつくるという意識は乏しかった。ちなみにアメリカは批准していない。「児童憲章」と「子どもの権利」の最も大きな違いは、子どもが権利の主体であると明確化するかどうかという点である。
 児童の権利条約批准後、10年以上経過した2009年、子どもの権利条約に基づいた「子どもの代替的養育に関する国連指針」が発表された。児童の権利条約の実施の強化を目的とした国連指針は、家庭での養育、とくに乳幼児は家庭で養育すること、そして永続的解決(パーマネンシー保障)の原則を各国に求めるものだった。翌2010年、国連子どもの権利委員会は、日本政府に国連指針の原則を守るよう勧告している。
 国連指針には、その他に安定した家庭を保障すること、安全と継続した養育者との関係、アタッチメント形成という基本的な養育の条件を満たすこと、幼い児童とくに3歳未満の養育は家庭を基盤とした環境で提供されるべきであること、施設の養育は児童の最善の利益に沿った場合に限られるべきであること、が書かれている。
 日本の代替養育は里親委託やファミリーホームを含めても18.3%(2016年)である。残りは施設養育である。もうひとつ、国連指針ではパーマネンシー保障を見出していくまでの代替養育という視点を明確化している。
 永続的、つまりパーマネンシーの定義は、断たれることのない絆と肯定的な感情の関係を築くことができる安定して継続的な養育者を持つことである。つまり、「ぼくの家」「わたしの家」と永遠に感じることができる、永続的な家族を持つことである。これを目指して2011年頃から取り組んできたが、家庭の危機が拡大し、虐待の問題が深刻化する状況で、限界にきた。この問題を解決するには、大きなパラダイムシフトが必要になった。法改正に向けて、「新たな子ども家庭福祉に関する専門委員会」を設置し、2016年に児童福祉法を大幅改正した。翌年も小さな改正がなされた。改正法の理念を実現化していくために、作成されたのがビジョンである。

改正児童福祉法のポイント

 児童福祉法の改正は多岐にわたっている。大きなポイントは二つある。一つは「子どもの権利を基盤とする」という点である。親の権利として親権が規定されているが、子どもの権利に関しては規定がなかった。日本は子どもの権利条約を批准しており、条約では生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利が謳われ、この四項目をすべて取り入れた形で改正法が成立した。
 もう一つの重要なポイントは、「家庭養育優先原則」である。児童福祉法には児童のことしか書かれていない。しかし、児童を守る家庭を大切にしなければ児童が守られない。国連指針には「家庭養育優先」の原則が示されている。まずは地域の中で家庭の中で子どもが健全に育つように地域の家庭支援を充実させていく必要がある。そこで「児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう、児童の保護者を支援しなければならない」と、家庭支援推進を明記した。
 児童が家庭において養育されることが困難であり又は適当でない場合は、里親委託という、家庭同様の養育環境で養育する。それも困難な場合は、できるだけ良好な家庭的環境、6人位のファミリーホーム(海外で言う「レジデンシャルケア」)で養育する。この三つを法律で明記した。児童養護施設のような大型の施設は法律上存在してはいけないという形になった。
 理念としての子どもの権利については、第一条で「…全ての児童は、等しく保障される権利を有する」と、児童は権利の主体であると法律の条文としても明記されている。「全ての児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、…愛され、保護されること」と記された。
 2条も「全て児童は」で始めてほしかったが、「全て国民は、児童が良好な環境において生まれ」となった。つまり生まれる前の妊娠期からケアをしっかりするということである。
 子どもの意見が尊重され、きちんと聞いてもらえる。子どもの最善の利益が優先して考慮されることなどが明記された。なお、児童の権利条約について外務省訳では、「子どもの最善の利益(best interests)が主として考慮されるものとする」とある。原文ではprimary concernsとなっている。改正法では原文に忠実に、「優先されて考慮される」という文言になっている。
 一方、我々が求めた「体罰禁止」は北欧を始め40数カ国以上が法制化している。しかし、日本は民法の親権の中に懲戒権があるため、法制化していない。このことを国連で指摘されたが、日本は懲戒権について、「この条文は体罰を容認するものではない」と説明している。にもかかわらず、国会では「懲戒権と体罰は別の概念である」とし、一部の体罰は懲戒に含まれるという解釈を続けている。そのため、今回の改正法の中に入れ込むことができなかった。ただし、参議院の付帯決議に「体罰を用いない養育方法の普及」が求められ、厚労省は「愛の鞭ゼロ作戦」というチラシを作り、体罰に頼らない育児方法を広める運動を推進している。
 次に「児童の保護者は、児童を心身ともに健やかに育成することに対して第一義的責任を負う」とある。「家庭」という言葉を法律的に入れることはできないため、「保護者」となっていると聞いている。保護者、つまり家庭が子どもを第一義的に育成し、社会がその家庭を支援するということが書かれている。
 二つ目の家庭養育優先の原則について、3条の2に「国及び地方公共団体は、児童が家庭において心身ともに健やかに養育されるよう児童の保護者を支援しなければならない」とある。これまでの児童福祉法にはなかった点である。そして、それが困難な場合は、家庭における養育環境と同様の環境で継続的に養育されることとし、それも難しければ児童ができる限り良好な家庭的環境で養育されなければならないとなっている。
 この理念を受けて、厚労大臣が国会で約束した直属の検討会である「新たな社会的養育のあり方に関する検討会」(以下、「検討会」)が設置された。目的は改正児童福祉法に基づき制度改革全体を俯瞰しながら、新たな社会的養育のあり方を検討する、改正前の児童福祉法の下で、平成23年7月に作られ、都道府県推進計画の目標となっている「社会的養護の課題と将来像」を全面的に見直すことにある。検討会構成員は子どもの最善の利益のために子ども目線で、自身が属する団体の利益を主張しないという方針で進めた。ビジョンをまとめる座長として、特定の団体の利益を追求するようなことは絶対にあってはならないと考えた。もともと、「検討会」はサービス提供側にある利益団体の代表は構成員となっておらず、ヒアリングを行って議論を進めた。
 「検討会」では会議の関係団体、海外で改革に取り組んできた専門家にヒアリングを行った。また当事者である施設、あるいは里親で育った方の意見を聞く機会を持った。
 「検討会」の下にワーキンググループとして、「児童虐待対応における司法関与及び特別養子縁組制度に関する検討会」が設置された。一時保護や治療命令に関する司法関与に関しては平成21年に児童福祉法の改正がなされたが、特別養子縁組は民法の問題なので、現在(2017年12月時点)、法制審で審議中である。
 子ども家庭福祉の専門人材については、法律の中で研修制度を設けて専門性を向上させる必要があった。「検討会」の下に、「子ども家庭福祉人材の専門性確保ワーキンググループ」を設けて、研修の到達目標、カリキュラム等を作成し、国が指針として打ち出した。
 法改正時には専門性強化のために国家資格を設ける案があったが、日本では国家資格を新設するのは非常に時間がかかる。とりあえず学会で私的な資格制度を検討してもらう方向となった。それまでに児童相談所のスーパーバイザー研修は国が実施する。法律で規定された、要対協調整機関専門職研修(実質上市町村の子ども家庭福祉担当者)の研修、児童相談所の任用前後の研修は都道府県が担うことになった。これまでの研修要綱では5項目程度の提示で終わっていたが、厚労省が到達目標の指示を出した上でカリキュラム研修の事例を作成し提案した。地方自治体は、それに沿って研修を企画する形となった
 「検討会」の下の3つめのワーキングである「地区町村の支援業務のあり方に関する検討ワーキンググループ」では、法律で定められた子ども家庭(総合)支援拠点の運営要綱をつくり、地区町村の子ども家庭支援指針の大幅改訂を行った。

子ども家庭支援の全体像

 ビジョンの最初に、子ども家庭支援の全体像を提示している。社会的養育の全体像は何かと言うと、すべての子どもたちを対象に、保健福祉のポピュレーションアプローチから代替養育が必要な子どもを含め、すべての子どもにどう対応するかである。パラダイムシフトの意味するところの一つは、不適切な養育の子どもだけでなく、すべての子どもを対象に全体を考えることにある。
 児童相談所が対応する児童虐待相談件数は12万件を超える。その95%は在宅支援であり、残り5%が家庭に戻すと危ないと判断し分離措置となる。つまり虐待相談の大半は在宅支援であり、現状では「見守り」にとどまることが多い。虐待を起こさない家庭にしていくという家庭支援が欠けているのである。子どもが安心安全に暮らせる家庭を作るための在宅支援体制を整えていかなければならないという課題がある。
 また、子どもを保護し分離した後、家庭に復帰するために家庭を支援する必要がある。これまで、子どもと親との関係性を支援し、どうしたら家に帰れるかという支援がなされていない。分離したら分離したままである。気づいたら、2年、3年過ぎて、大丈夫だろうと家庭に帰したら虐待問題が再発する。これでは解決にならない。保護し分離したら、地域に住んでいる家庭をきちんと支援し、子どもが家に帰れる状況を作り出すことが大切である。つまり、地域の家庭支援体制整備、児童相談所改革、社会的養護改革が一体となって行われなければ、子どもの幸せ、ひいては次世代の幸せはない、ということである。
 実は、子どもが家庭からいなくなったことで親子のそれぞれの生活が安定して、短時間の関係性がうまくいっているように見えてしまうことがある。子どもが家庭にいると親子の関係が悪循環を起こしていたのが、子どもが施設に入り、家庭からいなくなると良い親になってしまう。それで安心して大丈夫だろうと帰すと再虐待になるケースがある。
 市町村と児童相談所がスクラムを組んで家庭復帰にむけて支援計画を立てていく。支援しても駄目だった場合は養子縁組という形で、パーマネンシー保障をしていく。これがビジョンの考えである。
 もうひとつの課題は、自立支援がなかなか保障できていなかったこと。今回、新たに在宅措置が法律上可能になった。つまり児童相談所が市町村の支援を受けなさいと行政措置をする。支援を嫌がっている親に枠組みをつくることができる。行政措置を受けた人は行政処分に従う、自立に対する責任が伴うということである。代替養育のみならず、在宅措置を行ってきた子どもの自立支援も大きな課題である。
 つまり、世代間連鎖の防止と自立支援策の充実が必要である。全体像と言ったのは、どれ一つ欠けても理念の実現にはならないからである。そのためには、明確な評価と統計が求められる。例えば、児童相談所相談件数は都道府県によって定義が異なる。統計数字としてはあまり有効でない数値である。これをしっかりとした統計を取れるようにする必要がある。

子ども家庭ニーズに応じた在宅支援

 次に各論として、子ども家庭のニーズに応じた在宅支援をどう進めるかについてお話ししたい。今まで市区町村には障害福祉と高齢者の福祉はあった。今後は子ども家庭支援を基礎自治体の市区町村が行う。できれば児童相談所も身近なところに位置付けていこうということになった。今後、中核市、特別23区が児童相談所を5年以内に設置できるように政府が支援する。
 市区町村の子ども家庭総合支援拠点として、すべての子どもを対象としたソーシャルワークを行う。緊急度のリスクに対して三方向からのアセスメントをきちんとする。子どもへの直接支援と家庭支援の相乗作用を期待して支援する。妊娠期から、出産まで次世代につながるリプロダクション・サイクルへの支援を行う。高齢者施策、障害者施策とも連携していく。特に家庭を考えると、家庭には子どもも高齢者もいる。これらを一緒に考えていこうと、高齢者、障害者、子どもを一緒に市区町村で支援する「わが事と丸ごと」施策が始まった。
 要保護性の高い子ども、支援を必要とされる子ども家庭には児童相談所の枠組みで、在宅措置で支援することができるようになった。また、2017年度改正で司法の監視下での支援ができるようになっている。
 そして、フォスタリング機関(包括的な里親支援機関)と一緒に里親支援をすることも市町村の役目でもある。市区町村の子ども家庭支援指針が大幅改定され、子ども家庭総合支援拠点の運営要綱が策定され、取り組みがスタートしている。ところが、市区町村の現状は財政支援が十分ではない。子ども家庭総合支援拠点は事業としてスタートしているので常勤を雇うことができない。交付金の積算とか、安定した財源がないと、なかなか実施できないという現状もある。
 リプロダクション・サイクルの支援では、虐待の世代間連鎖を防ぐことを含めて、産前産後の親子支援が必要である。産前産後ケアは世田谷区から始まり、各所で始まっている。安心した妊娠があり、喜びに包まれたお産があり、初めて子どもが生まれ、いい家庭になっていく。
 児童の精神医学の観点から言えば、いいお産をすることが子どもとのアタッチメントに良い影響を与える。出産直後の母親の子どもとの同調性を測ると、ボランティアと一緒に良いお産を経験した親と、ボランティアを付けないで一人でお産する親では、ボランティアが付いた方が同調性が高いことがイギリスの研究で実証されている。
 お産の後、子ども家庭支援があり、自立支援があって成人になり、親になる準備がある。従来は自立支援から親になる準備の施策が全く整っていなかったために、18歳で施設を出ると支援が打ち切られ、気が付いたら虐待が世代間連鎖していたという現実があった。
 ヨーロッパではリービングケア法という法律によって、支援が継続される。しかし日本では18歳になったら支援が切られてしまう。措置延長をしても20歳までである。例えば、短大を卒業する前に20歳で施設退所となるのは子どもにとって重大事である。今回、大学を卒業する22歳の年度末まで、事業として施設に在所することができるようになった。今後は、できるだけ虐待の再生産を防ぐ対策を取っていく必要がある。
 2017年の改正で、司法関与について二つの大きな改正がなされた。児童福祉法28条は、里親委託・施設入所の措置の承認の申し立てにより、親が反対しても家庭裁判所が施設入所を勧告することができるという条文の仕組みであったが、それを利用して、家庭裁判所が保護観察のような形で、地域支援を受けさせて様子を見ることが出来るようになった。そして、それがうまくいったら分離しないでそのまま在宅支援を行うよう、裁判所が勧告できるようになった。ただ非常に複雑な仕組みなので、児相がどこまで対応できるかという懸念はある。
 他の司法関与は、一時保護が2カ月を超えると司法が関与する。ただ本来は児童の権利条約によれば、家庭から子どもが離されるときは必ず司法が関与しなければならない、とある。今回もそれに沿った対応をすべきという意見が厚労省側から出たが、最高裁側は人手不足という理由で却下した。これまでもずっと裁判所はその理由で却下してきた。

パーマネンシー保障に向けた取り組み

 次にパーマネンシー保障に向けた取り組みをどうするか。まず代替養育になった時点で家庭復帰計画を立てて、地域に残っている家庭と親子関係支援を行う。もともと家庭復帰が望めない、あるいは家庭復帰支援を行っても家庭復帰が困難な子どもは、養子縁組でパーマネンシーを保障する。その際、安定した養子縁組である特別養子縁組が望ましいが、制度を改正しないと多くの子どもたちに特別養子縁組ができない。ビジョンでは、特別養子縁組を5年以内に倍増する目標を示した。現在、児童養護施設の入所期間が3年以上という子が半数以上、10年以上が25%を超える。パーマネンシーが保障されず、代替養育の施設にこれほど長い期間入所するのは、権利侵害に当たり、できるだけ避けるべきことである。
 養子縁組と特別養子縁組の違いに関してであるが、特別養子縁組は裁判官の関与の下、成立する。養親に虐待とか特別なことがない限り、実親に子どもを返す義務はない。一方、普通養子縁組は実親が子どもを返してくれと言ってきたら返さないといけない。もう一つの問題点は特別養子縁組の対象が6歳未満までとなっていることである。特別養子縁組の対象を6歳以上にすることが提案されている。また、現在の規定では養親自身が、実親が育てられないことの証明、そして養親が育てられることの証明の両方の手続きをやらなければならない。しかしこれはハードルが高いので、実親が育てることができないという証明は児童相談所が行い、養親は「私たちが育てられますよ」という証明を行うという二段階方式も提案している。現在、法制審で検討中である。
 児童相談所での特別養子縁組の成立件数は、年間約300件である。ひとつの児童相談所で平均1.5件。進めている所とそうでない所の差が大きい。調査をすると、児童相談所が特別養子縁組を必要と判断しても、断念したケースが年間270件ある。ここを手当てすれば特別養子縁組はかなり増えると見込まれる。
 もう一つは民間の特別養子縁組斡旋機関の問題がある。なかには人身売買に近いような団体もある。ネット上で「200万円の費用で子どもを斡旋します」と特別養子縁組を斡旋する団体があった。これは大きな問題であり、児童福祉法改正とは関係なく、特別養子縁組の斡旋法が改正された。国が斡旋団体に支援金を出すことになったが、20余りの斡旋団体全てで2000万円程度の支援金である。1団体あたり130万円から140万円にしかならないのである。

里親委託を進める上での課題

 現在、代替養育が必要とされる子どもは全体で約4万5千人。そのうち里親委託の割合は2016年度が18.3%である。乳児院費用は子ども一人当たり月に50万円から60万円掛かっている。児童養護施設でも一人当たり月に30万円から35万円程度掛かる。里親手当+養育費5万円を合わせて、養育里親で月々13万円、2人目以降は9万円。専門里親で18万円、2人目以降が14万円。専門里親は様々な障害を持っていたり虐待受けていたり、育てるのが難しい子どもを預かる。そのため研修が義務付けられていて、預かる子どもは2人までとなっている。昔は里親手当が月3万円程度で、地域の名士が務めていた。13万円あれば、一般の家庭でも里親ができるのではないかと思う。このあたりをきちんと説明していけば、里親ができるという人が出てくるのではないかと思われる。
 お金の問題以外に、責任の問題がある。里親をやろうとすると、やはり責任を負えるかどうか悩む。普通に育てていて万一子どもがけがをしたら、その責任は措置した行政側にあるので、過剰に心配することではないが、一般には理解されていない。そのあたりもきちんと説明しないと里親になろうという人は増えない。
 里親に必要な支援は、経済面よりむしろ心理的な支援である。困ったときに相談できる、専門的な相談ができる、チームで育てている感覚が持てる、これが不可欠だ。
 一方、疑似家庭のような施設のグループホームでは8人まで入所できる。しかし、8人の子どもがいるのに職員が1人しかいないとなると、食事をつくるだけで手一杯になり、目が行き届かない。子ども同士で様々な問題も起きてしまう。もうひとつ、児童精神科病床は1日3万円、治療代は別にかかる。難しい子は施設養育にして、他は里親にお願いするのが理想的だろう。
 児童相談所の相談件数は増えているが、社会的養護の数は変わっていない。なぜかというと、施設養育では、人数が減ると経営の問題もあるため子どもを入所させる一方、代替養育が必要な子どもが増えてもすぐには対応できない。そのため、最近では、一時保護所がいっぱい、施設がいっぱいなので、児童相談所が保護をためらう現状がある。里親さんが増えれば、代替養育が必要な子どもの増減に適切に対応できることになる。その意味でも、里親委託を中心にしていくことは意味がある。要保護児童数を人口1万人当たりでみると、日本が飛び抜けて低い。保護が必要な子どもはいても入れないということが起きている。

里親養育推進の目標

 ビジョンの代替養育の考え方は、乳幼児は原則として施設ではなくて里親(ファミリーホームを含む)への委託を打ち出している。7年以内に里親委託率75%を目指す。国際的な研究でも家庭で育つ方が特に乳幼児の発達に良いことが明らかになっている。
 例えば、発達に遅れのある子が里親に預けられると、発達が伸びていくという事例は少なくない。里親の元で育つ方が子どもは伸びることが明白なので、海外では施設ではなく里親養育が常識になっている。特に3歳未満は里親委託になっている。
 乳児院協議会では前向きに施設改革をしていこうと、里親支援を打ち出している。3歳未満はできる限り5年以内にしましょうとビジョンでは言っている。
 里親は一カ所にまとめるのではなく、できれば小学校区に一カ所ぐらいの感じで、まず全国で2万世帯くらいに増やすことを提案している。現在の登録里親数はファミリーホームも合わせると1万1千世帯である。まず、これを2倍に増やす。
 施設は10年以内に小規模化かつ地域化して、ケアニーズの高い子に対応する。その場合、6人の子に常時2人位の職員が必要と考えている。ケアニーズに応じた措置費、委託費を考えていく必要がある。
 また、子どもの声を聞くためのアドボケート制度を導入することも必要である。イギリスなどもこの制度によって大きく前進した。子どもの声、どんなニーズがあるかをきちんと聞くことが重要である。

里親委託率75%は可能

 施設養育は、乳幼児は数カ月、学童期以降は1年以内とし、できるだけ家庭と同様の養育環境で育てる。一方、施設は高機能化して、対応が難しい子をみる。また多機能化として、里親支援を行う。ほとんどの先進国は大多数が里親委託になっている。日本の毎年の里親委託率は毎年1%ずつ増加している。これでは里親委託率30%になるのでさえ12年という長い期間がかかってしまう。人口120万人の都道府県でシミュレーションしてみると、7年間で達成するには里親を年間9人増やせばいい。これは不可能な数値ではない。
 もうひとつは、里親の質を上げる必要がある。我々が経験した里親虐待死のケースをみると、もともと里親の認定がしっかりとなされていないという問題と、もうひとつは里親がSOSを出すと子どもを取り上げられてしまうという里親側の不安、あるいはSOSを出しているのに回りが気が付かないという問題がある。
 こうした問題を解決し、里親の質を上げるためには、里親をきちんと支援する体制が必要だ。平成32年度までにフォスタリング事業を少なくとも各都道府県に一カ所つくることを提言した。例えば、NPO法人・キーアセットは、里親のリクルートから研修、支援まですべて里親に関することを担っている。待ちから攻める支援が大事だ。
 実は福岡市では里親委託が頭打ちになっていたが、キーアセットが関わるようになったら伸びた。10年間で里親委託率50%はできる数値目標である。シュミレーションすると決して不可能な数ではない。

一時保護所改革

 もうひとつ忘れてはならないのは、一時保護も代替養育ということである。ところが一時保護所が刑務所のような管理体制になっている。東京都の一時保護所では自分の洋服ではなく、与えられた洋服を着させられる。しかも新品ではなく古着を着せられる。目と目を合わせると罰、私語は禁止、様々な事件があるたびにあれもこれもと禁止づくめになってしまう。ある一時保護の性虐待のお子さんに、「トラウマがあると自分を傷つけたくなったりする。あなたはどうなのか」と聞くと、急に顔が緊張して、「時々鉛筆で傷つけたくなるけど自傷すると罰になるので、言わないでね」と言うのである。自傷行為は病的症状なのに、施設は罰で管理しようする。刑務所のような閉鎖空間の生活は、安全を確保するためにはやむを得ない面は確かにある。しかし子どもの権利に立てば、入所期間は数日にして、それ以上の保護が必要なら、できるだけ家庭と同様な養育環境にする方向に切り替えていくべきである。世田谷区の児童相談所設立のアドバイザーをしているが、一時保護所をユニットケア方式でやりましょうとアドバイスしている。

実現化に向けた数値目標の必要性

 今後、すでにできている都道府県の推進計画を、ビジョンにあわせて見直すことになる。「社会的養護の課題と将来像」に基づいた現推進計画では年齢に関係なく、一律に施設本体が三分の一、里親が三分の一、ファミリーホームが三分の一になっている。パーマネンシー保障も一切ない、一時保護所に関する改善もない、地域での家庭支援の構築もない。今回、こうしたところを全部見直していこうとしている。
 数値目標については、私は必要だと思っているが、必要ないという声がかなり強い。しかし、数値目標がなければビジョンの目的を達成できない。6月3日に法改正に基づいた局長通知で、乳幼児は原則里親であると明記、里親ガイドラインでも28条の親の反対を押し切ってでも里親に措置することをやっていただきたいと書いている。ビジョンは、それを数値化しただけだが、数値に対する抵抗がものすごく大きいのが現状である。
 ビジョンでは施設のノウハウを活用して、難しい子をケアする高機能化・多機能化を打ち出している。ところが、施設側は自分たちが認められていないと反発する。護送船団方式でサービスがいいところに手厚くすることに抵抗が強い。子どもの声を聞く、本当の現場の声を聞くという意識がない。
 ある里子が私宛に書いた手紙を里親がもってきてくれた。「一桁の年齢で施設に入り、中学と同時に里親のところに来ることができた。里親のところに来れるように決めてくれてありがとうございます。施設では強い子が弱い子をいじめ、職員が手を上げたり、ぶたれたり暴言を受けたりする。あざができた時は年上のお姉さんのファンデーションで隠しました」と書いている。こういう子どもの声を聞いていかなければならない。
 日本は権利意識がきちんと育っていない。市民革命で権利をつかみ取った国ではないので、上から与えられる意識が強い。権利行使の客体か主体かと考えると、児童の権利の意味が正しく理解されない。その意味で、子どもの権利を保障する法律整備が必要である。
 教育投資の面から言えば、子どもが小さい段階への投資は投資効果が高いことはジェームズ・J・ヘックマン氏(シカゴ大学教授、ノーベル経済学賞受賞)らの教育経済学で実証されている通りである。乳幼児期にしっかり投資することが大事だ。その他、子どもの福祉、教育等への評価機関をきちんと整備する、自立を保障するリービングケア法をつくる等々、制度の改革はまだこれからである。

(本稿は、2017年12月15日に開催した「21世紀ビジョンの会」における発題を整理してまとめたものである)

 

(注)「新しい社会的養育ビジョン」http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000173868.html

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