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政策オピニオン

米国議会の動向とトランプ政権の政策の行方

―日米関係の展望―早稲田大学社会科学総合学術院教授 中林 美恵子

2017.12.05

はじめに

 私は1992年から米国連邦議会の予算委員会に従事した。その当時は、二重国籍でも米国籍がなくとも連邦議会のスタッフとして勤務することは可能だった。しかし2001年の9・11同時多発テロ以降、オフィスや議会の空気が変わった。米国籍を持っていたある下院議員スタッフは、イスラエルに情報を流して大問題となりクビになった。私は約10年間の勤務で周りも知り合いばかりだったが、それでも居づらい雰囲気を感じて帰国することにした。
 ブッシュからオバマを経てトランプ大統領に至り、米国のセキュリティはますます厳しくなっている。最近は永住権があっても、空港でしつこく質問される。特にトランプ大統領の就任後、就労ビザが発行されにくくなった。今までは審査の担当者が心の中でいろいろ思っても「寛容」を誇りとする米国でそれを口にすることはできなかった。しかしトランプが登場し、入国規制や不法移民問題を大々的に取り上げ、しかも国民から一定の支持を得ていることで、入管での「嫌がらせ」が正当化されやすい状況になっている。
 米国民全員が変わってしまったわけではない。それでもトランプのように「アメリカ・ファースト」を堂々と叫ぶ政権が何年か続くことで、共和党・米国のみならず、日米をはじめとする世界の国際関係が変容する懸念がある。
 ただし、個性が際立つトランプ大統領でも、議会を思うようにコントロールできているわけではない。米国議会の仕組みから、政権と議会の関係、トランプ政権の政策の行方と日米関係について考察したい。

1.大統領行政府と連邦議会

(1)米国の三権分立

 米国大統領は強大な権限を独占しているように思われやすい。実際、軍隊の最高司令官であり、外交安全保障政策で世界に絶大な影響力を持っている。しかし、米国の国家権力は米国合衆国憲法により、行政府、立法府、司法府の三機関に厳密に分立されている。分立していると同時に、互いに依存しあう関係でもある。責任と役割が一箇所で完結せず分散されているので、政策決定、立法や予算編成などを大統領がすべて意のままにできるという仕組みにはなっていない。

(2)大統領の権限とは

 米国大統領は国家元首と位置づけられている。そのため、政策や立法への提言力や世論形成力は非常に大きい。大統領の権限とは、米国合衆国憲法第二条に基づいており、基本的な任務・機能・義務のことを指す。
 大統領は毎年一回三大教書(一般教書、予算教書、大統領経済報告)を発表し、それを議会に提出する。立法権限そのものは、米国合衆国憲法第一条第一節により、全面的に連邦議会に与えられている。大統領は三大教書を議会に提出して、法整備など政策実現への協力を求めるという形を取ることになる。
 これらに加えて、大統領は議会が通過させた法案に対して拒否権を行使することができる。近年では、オバマ大統領もブッシュ(子)大統領も、それぞれ12回拒否権を発動している。一方の米国議会はオバマ大統領の拒否権を(両院で三分の二の議決によって)1回覆し、ブッシュ大統領の拒否権を4回覆している。その他には、最高裁判事をはじめとした連邦判事の指名や恩赦の付与の権限を持っている。

大統領令の権限と限界

 大統領は軍の最高司令官であり行政府の長として、閣僚・官僚あるいは省庁に指示命令を下すことができる。その場合、大統領令や大統領覚書・布告などの書面で指示をする。
 大統領令などについて、定義や権限が憲法に明記されているわけではない。根拠とされる米国合衆国憲法第二条は「行政権は米国合衆国大統領に与える」「大統領は米国軍隊の最高司令官である」「大統領は法律が忠実に執行されることに留意する必要がある」と記している。いわば、これら憲法の条文を解釈することで大統領令などが正当化されている。
 米国では立法に係る権限は全て議会にある。にもかかわらず、大統領令や大統領覚書・布告は、議会で法律の成立をまつことなく、暗黙のうちに大統領が政策を実施できる手段となっている。大統領令などを行使することで、大統領が巨大な権限を得ていることは間違いない。
 ただし、大統領令を用いることで、大統領が願う政策を何でも実行できるというわけではない。すべての立法権限は議会にあるため、法律で権限が付与されてない政策決定を大統領が実施できるわけではない。大統領権限は、あくまでも憲法または議会で認められた範囲内に限定されている。
 大統領令は権限ばかりが注目されやすいが、政策を推し進めていく手段としては一定の限界も存在する。第一に、大統領令で推進される政策は、国策として長期的に実施されるという保証がない。選挙で大統領が変わった場合、前任者の大統領令などを破棄・修正することは新大統領にとって難しいことではない。大統領令などによる政策には不安定さがつきまとうと言わざるをえない。
 有名な例として、メキシコ・シティ政策(海外で人工妊娠中絶や家族計画の支援をするNGOに対して、連邦助成金を用いることを禁じる)があげられる。レーガン大統領時代に導入されたが、民主党の大統領はこれを廃止し、共和党の大統領になると再導入するというパターンが繰り返されている。トランプ大統領は就任直後にこれを再導入する大統領覚書に著名している。
 また、議会から理解が得られない大統領令の場合、対抗措置を打たれ無効にされることも少なくない。議会が講ずる最も強力な手段が予算をつけないことだ。米国では議会が予算権限を持っているため、大統領令が出されてもそれを実行するための職員の給料や事業経費が出なければ、大統領令は何の意味もなさない。逆に、議会が予算措置を講じることで、大統領令を機能させないことも可能である。例えば、オバマ大統領は就任直後、グァンタナモ収容所を1年以内に閉鎖するという大統領令を命じたが、議会が毎年予算を講じることで今も存続している。米国では予算を講じることがすなわち立法であるため、行政府は忠実に法を履行するしかない。

(3)立法府による行政府への権限チェック

 立法府と司法府は大統領の権限行使に対して、それぞれで点検・調査することができる。ここでは、連邦議会による大統領権限へのチェック項目として主な7点を紹介する。

法案の立案・修正、立法遅延、廃案

 米国合衆国憲法第一条第一節は「本憲法に付与されたすべての立法権は、上院と下院で構成する米国合衆国連邦議会に与える」と明記している。と同時に、行政府について規定した第二条は、大統領が行政府を代表して法案を提出できる旨に一切触れていない。したがって、法案を提出できるのは上下両院の議員だけとなる。
 大統領が「自ら必要かつ適切と考える施策について議会に審議を勧告する」(同第二条第三節)場合は、政党の同じ議会リーダ-を経由して法案の提案を行うことになる。とはいえ憲法に従えば、大統領の案を法案として提出する義務は議会にはない。大統領から提案があっても、それをどう扱いどう修正するかなど、もっぱら議会に任されている。
 たとえば、オバマケアと呼ばれる医療保険制度改革案が2010年に議会を通過したが、大統領が望んだものとはかけ離れた形で法案が通過した。ブッシュ(子)政権の移民政策の改革やオバマ政権の雇用創出政策などは、議会によって否決された。他にも二年間が一会期となっているので、審議を遅延させることで廃案に持っていくこともある。
 ただし大統領は最終法案に対する拒否権をもっている。議会は行政府の意向とバランスをとらざるをえない仕組みにもなっている。

拒否権発動を覆す

 議会が通過させた法案に対して、大統領は拒否権を行使することができる。一方で、議会も大統領が発した拒否権を覆すことができる。上下両院でそれぞれ三分の二の賛成が必要となるが、議会に覆されるケースは少なからず存在する。

宣戦布告の権限

 米国合衆国憲法は大統領が軍隊の最高司令官であるとしているが、宣戦布告をするには議会の承認が必要になる。ただし、この権限は1941年の日本に対する宣戦布告以降は用いられていない。近年は最高司令官である大統領の決断のみで軍が出動している。この場合は宣戦布告とは違うので、戦争権限法という法律でガバナンスしている。
 この法律には明らかな矛盾があると指摘されている。戦争権限法には「議会の承認なく軍を派遣した場合、60日以内に議会の承認を得なければ兵を撤退せよ」との旨がある。ここに関して、60日以内に兵を戻せばいいとも解釈できる。一方で、最高司令官としての大統領の権限を侵すものだという意見もあり、クリントン大統領は憲法違反として訴えた。訴えは控訴審までとなり、最高裁が結論を下したわけではない。ただ控訴審ではクリントン大統領の言い分を多く認めていた。
 「軍事行動を起こした場合は即座に上下両院に報告せよ」という規定も戦争権限法にある。トランプ大統領もシリア空爆直後に、上下両院議長に書簡を送っている。

国際条約の批准

 上院は大統領率いる行政府が交渉した国際条約を批准する権限を持つ。三分の二の賛成で批准となる。通商交渉の場合は、大統領にファスト・トラックの権限を与えることもある。この権限は大統領が通商交渉を始めることを認めると同時に、成立した条約の内容に対して議会は修正案などを付けることなく採決を行うことになる。

調査権限

 通常の連邦議会の活動は委員会を中心に展開し、多数党議員が委員長を担当する。大統領を含めた行政府の活動や政策など、いかなる事案に対しても委員長の判断で公聴会を開くことができる。
 ロシアゲートの問題でも公聴会が開かれている。現在は上下両院ともに共和党が多数党なので、共和党委員長の了解のもとでこの問題が調査されていることになる。共和党は上下両院で多数党ではあるが、トランプ政権を攻撃する民主党やマスメディアの動きを共和党議員たちも無視することはできない。ロシアゲートの今後の展開は、トランプ大統領のスキャンダルがどこまで共和党議員たちにとってマイナスになるのかによるところが大きい。

弾劾裁判、有罪の判決と解任

 議会は、大統領の弾劾裁判を行って大統領を罷免する権限を有する。大統領だけでなく行政府の誰であっても弾劾することができる。このプロセスを経験した大統領は、1868年のアンドリュー・ジャクソンと1998年のビル・クリントンの二人だが、実際に大統領が有罪となり罷免されたことはない。
 大統領が被告となる弾劾裁判には、立法府と司法府の両方が介入する。弾劾訴追権は下院に与えられており、弾劾裁判は上院で行われる。下院議員の過半数の賛成で訴追が可能となる。上院では副大統領が議長を務めており、賛否同数の場合には副大統領にも投票権が与えられる。弾劾裁判の際には大統領と密接な関係がある副大統領に変わって、連邦最高裁判所の主席判事が大統領弾劾裁判の議長を務める。上院の弾劾裁判で大統領を罷免するには、出席議員の三分の二が必要となる。弾劾裁判の素因は、反逆罪、収賄罪ないしはその他の重罪または軽犯罪とされており、何らかの刑事犯罪に限定されている。
 クリントン大統領の弾劾裁判では、100人の上院議員全員が本会議場に揃った。私は当時議会スタッフとしてその場を目にすることができたが、100人全員が最初から最後まで本会議場に座っている光景など普段目にすることはない。厳粛かつ深妙で重苦しい雰囲気だった。
 大統領の弾劾裁判は日本の内閣不信任と同じような感覚で捉えられるものではない。トランプ大統領は弾劾されるのでは、という声を日本ではよく耳にしたが、そう簡単に大統領が弾劾されることはない。さらに、現在は上下両院で共和党が多数を占めており、共和党大統領の弾劾追訴を下院が認めることも考えにくい。ただ、少しでも有罪になりそうな素材が出てくれば、民主党とメディアの攻勢に押されて弾劾裁判の可能性もゼロとはいえない。

政治指名職の承認

 上院は大統領の政治指名職を承認する権限を有する。ここには閣僚や行政府高官の承認のみならず、大統領が指名する最高裁などの連邦判事、全権大使など、多くの要職が含まれる。かつて承認されないケースは基本的に少なかった。というのも、カギとなる上院議員たちに事前に根回しをしてから名前を公表することが一般的だからだ。しかし近年は党対立が著しく、承認がなかなか進まないことも増えていた。
 そのような政治的事情を背景に、2013年と2017年に院内ルールが改定された。上院では独特のルールとしてフィリバスターが認められており、単純過半数では法案を通すことができない。しかし近年の政治的試みにより、大統領が指名する行政職にはフィリバスターが禁止され、すべて単純過半数の賛成で承認されるようになった。この手法には現在も賛否の声が上がっている。大統領政治任用は多数党の意向に偏るべきではないという反対論に対して、上院の二極化が激しさを増した今日ではやむを得ないとする賛成論もある。
 トランプ大統領は、上院のルール変更によって簡単に全員の閣僚及び政治指名職の承認が得られると予想されていたが、実際はそうならなかった。

(4)連邦議会の権限

 米国連邦議会には、大きな権限と責務が米国合衆国憲法によって賦与されている。その中でも最も特出されるのが予算編成権限である。予算編成と関連する法改正(税制改革・福祉・医療・雇用創出など)の手続きは近年困難を極めることが多く、歴代の大統領を非常に悩ませている。
 歴史的に、二大政党の勢力は拮抗してきた。大統領府の政党と議会府の多数党が食い違う「分断政府」となれば、大統領の意向が立法に反映されないことが多くなる。最悪の場合、予算編成が会計年度内に完了せず、つなぎの暫定予算も期限切れとなれば、政府機能の一部が停止するガバメント・シャットダウンとなる。トランプ政権は大統領府の政党と議会府の多数党が一致する「統合政府」だが、2017年5月にはぎりぎりでガバメント・シャットダウンを回避するという事態に直面した。
 前述のように、上院にはフィリバスターという独特の院内ルールがある。フィリバスターがトランプ大統領や現共和党を悩ます一因になっている事実は否定できない。ここでは、フィリバスターと議会の予算編成権限について簡単に解説する。

フィリバスターの目的と現状

 本会議に法案が提出された場合、上院では法案の内容と無関係な修正案を提出することが認められている。さらに、本会議では議員のいかなる発言も、その議員の同意なく中断させることはできない。このような院内ルールにより、(ごく一部を除く)あらゆる法案を廃案に持ち込むことができる際限のない演説が認められており、これをフィリバスターと呼ぶ。
 フィリバスターを終結させて法案を可決に持っていくためには、議員100人の五分の三にあたる60人の賛成が必要となる。つまり、上院では60%の賛成がなければ何も決まらない。現在の上院では共和党(52)民主党(48)という議席バランスとなっており、法案通過が簡単ではない。
 日本の国会で見られる牛歩のように、フィリバスターも審議妨害や議論の遅延が目的のように思われやすい。米国では党派対立を置き去りにしたままでは政治が前に進まない仕組みになっている。フィリバスターは多数党の独善を阻止し、少数政党の意見を重視することが本来の目的である。
 フィリバスターが始まると、関係議員が本会議場外の控室や院内総務室に集まって妥協工作の交渉を行う。ただ近年は二大政党の対立が著しく、特にフィリバスターが起こるような意見の割れる法案で、党派を超えた理解を得ることが難しくなってきている。フィリバスターに対して、トランプ大統領は無意味だと発言していた。一方で、最も上院らしいルールと自負している議員も少なくない。
 しかし上述したように、近年このルールの変更が試みられている。2013年には当時の民主党院内総務ハリー・リード上院議員が主導して、最高裁判事を除く全ての行政府政治指名職および司法府指名職をフィリバスターのできない対象にした。さらに2017年4月、今度は共和党院内総務のミッチ・マコーネル上院議員が主導して、最高裁判事の承認もフィリバスターができないように院内ルールを変更した。これらフィリバスターを封じる手段は「nuclear option(最終兵器)」と表現されている。
 フィリバスターは忌み嫌われることも多いが、少数党の意見を聞き入れることを強いたルールであり、合議や熟議の重要性を体現したものである。そこには米国の民主主義は単純過半数で決めるべきではないという認識が根底にあった。「最終兵器」と批判されるのは、政治的理由で60%の重要性をなくすことが米国の民主主義を脅かす行為と懸念されるからだ。60票の壁により決められない政治に陥るとすれば、それは大統領や多数党に党派を超えた合意形成力がないと評価されても仕方がない。

予算編成権限

 予算では、各政策が数値・金額で記述されるので、政権の優先度を客観的に計測することができる。予算編成とは、その年度における政府の基本方針を詳細にわたって決定することを意味するため、政府の諸活動の中で最も重要なものとなる。
 米国合衆国憲法第一条第九節第七項が「国庫からの支出は全て、法律で定める歳出法に従ってのみ行われる」と明記しているとおり、予算編成の権限は完全に連邦議会に属する。米国における「予算」は、議会が取りまとめた「予算決議」の大枠に従って作成される「歳出法案」や「財政調整法案」といった複数の法案で構成される。
 大統領の「予算教書」は、行政府がまとめた予算資料である。大統領は、自身が望む予算案について予算教書という形で、議会の予算法案審議の参考資料を年一回議会に提出することになっている。ただし、このリクエストは直接には議会における審議対象とならない。米国合衆国憲法によれば、議会が自らだけで予算編成プロセスを完結させても何の問題もない。ただし大統領の拒否権は常に立ちはだかっている。

※歳出法に関して、本稿末尾の参考資料「歳出法ができるまでの流れ」を参照

74年予算法が予算編成プロセスの原型

 1974年議会予算統制ができるまで、連邦議会には歳入と歳出を体系的に把握するメカニズムがなかった。税制は歳入委員会、歳出法は歳出委員会がそれぞれバラバラに作業しており、長期的な財政バランスや会計情報は大統領直属の行政管理予算局(OMB)がもっぱら作成していた。
 ベトナム戦争時にニクソン大統領はOMBの専門的知識を駆使して、歳出を意のままにコントロールするようになった。政府が提出する予算案に対して連邦議会は不信感を抱くようになったが、議会にはホワイトハウスの情報力と予算編成能力に対抗するインフラがなかった。そこで74年予算法を成立させ、議会の付属組織として議会予算局(CBO)、上下両院内にはそれぞれ予算委員会を新設した。
 CBOスタッフはエコノミストなどの専門家集団であり、経済成長や財政の見通し、法案にかかる経費などを算出して政策決定を助けている。CBOには政策立案や立法権限はなく、党派性もない。

2.トランプ大統領の政策・予算案と議会の現状

(1)トランプ大統領が希望する予算案とその見通し

7ヶ月遅れて可決された2017年度歳出法

 本来2016年9月末までに成立すべき2017年度歳出法が、2017年5月5日に大統領の著名を得た。ここまで暫定予算で延長させた大きな目的は、オバマ前大統領の意向を反映した予算が2017年9月30日まで続くことを避け、トランプ大統領が国民に約束した政策内容を歳出法に盛り込むためだった。しかし、最終的な歳出法は大統領が願うものからかけ離れていた。
 この歳出法について、国防費と国境警備の増額を勝ち取ったと共和党は主張した。一方で民主党は希望通りに、聖域都市への政府補助金の停止を封じ込めることができた。さらにトランプ大統領が強く訴えてきた、メキシコとの国境に建設する壁の費用計上を却下させることもできた。この歳出法に対して、上下両院で大多数の民主党議員は賛成だった。一方、共和党議員の反対は下院で103人(4割強)、上院で18人(3割強)だった。多数党の共和党が思い通りにいかない苦しい立場だったことが一目瞭然となっている。
 暫定予算の期限は4月28日だったが、議会における両党の妥結点を見いだせず、一週間だけ暫定予算を延長した。最終的に延長期限ぎりぎりに歳出法は成立し、ガバメント・シャットダウンを避けることができた。繰り返しになるが、米国議会では単純過半数の採決を許さないフィリバスターの存在が大きい。少数党の主張に大幅な譲歩をして歳出法が決着するケースは今回ばかりではない。

2018年度予算案と議会の反発

 トランプ大統領は3月16日、2018年度大統領予算案(2017年10月1日~2018年9月30日)について裁量的経費の大枠のみを発表した。予算案の基本構造は、国防軍事安全保障予算を540億ドル増やして6390億ドルとし、その予算は他の省庁予算を大幅に減らして捻出するというものだ。
 予算案では、環境保護庁31%、国務省29%、農務省21%、労働省21%、厚生省18%など大幅な予算削減を提案している。特に環境保護関連予算や国際援助関連予算が大幅に削られている。原案のままでは民主党議員はもちろん、共和党議員の賛成さえ得られない。義務的経費も含めた大統領の予算教書は5月23日に議会へ提出された。
 トランプ大統領の予算教書は従来の歳出優先順位を大幅に変更しているため、議会の予算編成プロセスではかなりの部分が骨抜きになると予想される。そうなるとまた歳出法のほとんどが議会を通過できずに、ガバメント・シャットダウンの危機が高まる。下院歳出委員会のトム・グレイヴス金融サービス・政府一般小委員長は、12本の歳出法を初めから1本にまとめて8月の一時休会の前に下院を通過させるという案を早々にも口走っていた。
 税制改革でもドラステックなものを提案しており、トランプ大統領は法人税を15%まで下げたいと望んでいる。これもそのままでは議会の承認を得られる見込みはない。上院の法案起草ではOECD並の25%で落ち着く可能性がある。一方で、減税により今後10年間で生じる4兆ドルともいわれる歳入不足に対して、税制を所管する歳入委員会の議員たちは頭を抱えている。彼らは歳入不足を1兆ドル以下の枠に収める努力をしなければならないという話も耳にする。これは大変な苦行といわざるをえない。通常の予算決議ではおよそ10年計画で財政規律の実現をめざす。予算委員会のメンバーであるパット・トゥーミー上院議員は、30年計画にすれば財政規律のめども立つという奇策にまで言及していた。
 トランプ大統領は3ヶ月以上遅れて予算教書を提出したが、現状では自身の希望する案を議会に投げただけでしかない。いかにトランプ大統領であろうとも、議会が歳出を認めなければ政策を思い通りに推進できない状態が今後も続くことになる。

(2)トランプ大統領の主要政策

立法化の目途立たない10の主要政策

 トランプは2016年10月22日、大統領候補としてゲティスバーグで演説し、主要な政策を公表した。そこでは、「ワシントンを浄化するための施策」や「アメリカの労働者を守るための約束」などを掲げていたが、立法についても言及していた。「10本の法案」を提出し、就任100日以内に議会を通過させ、立法化することを目指すとした。
 ①年率4%の経済成長を実現するため、法人税率を現行の35%から15%に引き下げ、子供が2人いる中間層の家族を対象に35%減税する
 ②企業の海外移転を阻止するための関税率を設定する
 ③10年かけて1兆ドルのインフラ投資を実行する
 ④学校選択の自由、職業訓練教育を拡大する
 ⑤医療保険制度改革関連法(オバマケア)の廃止
 ⑥税控除などによる子育て支援・高齢者介護支援
 ⑦メキシコ政府の負担で国境に壁を建設する。違法移民の入国禁止
 ⑧地域の犯罪防止に向けて地方警察官の訓練予算などを拡大する
 ⑨国防予算の強制削減措置を廃止し、サイバー攻撃からインフラを守る計画を作成する
 ⑩新たな倫理改革によりワシントンにおける特定利益団体による汚職を一掃する
 以上について、就任100日目の4月29日を過ぎても何一つ立法化することはできなかった。就任から半年が経っても、立法化の目途が何一つ立っていない。どんなにツイッターに書き込み主要メディアを批判しても、立法には何ら役に立っていない。
 この現状の中で、トランプ大統領は大統領令を効果的に用いてきた。トランプ大統領の大統領令は司法府との対立などもあり、世界中で注目された。通常、大統領就任の最初の二週間で大統領令が連発されることは珍しくない。純粋に選挙公約を遵守するという意思表明のタイプのものや、前任者の政策を否定するためのものになることが多い。トランプ大統領も過去の慣わしに則っていた。
 トランプ大統領が近年の大統領と決定的に違ったのは、就任100日目を目前として大統領令や覚書を連発した点だった。100日以内に実行すると公言していた政策について、立法府や司法府から相変わらず理解を得られない。全く立法のめどが立たない中で、最低限の有言実行をアピールする手段として大統領令などが用いられた。
 6月1日にトランプ大統領はパリ協定の離脱を発表した。ホワイトハウスの広々とした庭で選挙公約どおりの有言実行ぶりをアピールするかのようだった。パリ協定離脱の手法については別のやり方もあった、とワシントンでは言われている。パリ協定の性格上、「協定」から「条約」に位置づけを変えてしまうことは難しくない。そうなれば、上院が条約批准の可否を審議することになる。上院ではおそらく否決されただろう、という話だ。ロシアゲートの問題もあり、原点回帰をアピールしたいトランプ大統領の政治的思惑が強かった。
 では、世界中で注目されたトランプ大統領の大統領令について、米国民はどう評価しているだろうか。図1のように、どの大統領令についても約50%の国民は賛成している。不法移民の規制についても、反対よりも賛成のほうが多い。もちろん、これらはトランプ大統領本人に対する支持率や好感度を表すものではない。純粋に政策に関する世論調査の結果である。日本では、トランプはとんでもない男だという声が多いかもしれないが、米国民の過半数は彼の政策に賛同している。

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議会の現状

 トランプ大統領の目玉政策の一つであった医療保険制度改革 (オバマケア)一部撤廃法案が上院で否決され廃案となった。大きな要因の一つとして、近年の二大政党が歩み寄り難い現状にあることを挙げることができる。
 ブルッキングス研究所による調査が示すように、二党の理念的な距離は広がる一方である(図2)。フィリバスターの回数が増えている、歳出法が期限に間に合わない、そもそも予算決議さえ成立しない、ガバメント・シャットダウンに至ってしまう。近年見られるこういった現象の根本原因は、二党の理念的距離の広がりにある。

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 ただし、オバマケア一部撤廃法案ではフィリバスターを回避できたので、過半数でよかった。10ヶ月遅れで通った名目だけの2017年度予算決議と合わせて審議をかけたからだ(後述の資料参照)。にもかかわらず、共和党(52議席)内から3人の造反が出て過半数さえ取ることができなかった。上院共和党のまとめる役であるマコーネル院内総務の責任であり、トランプ大統領の指導力の問題が改めて浮き彫りとなった。

3.トランプ政権の特徴

 トランプ政権について、いろいろな特徴を挙げることができるだろう。ここでは以下の四点について取り上げる。

(1)理念なきゆえの柔軟性

 良くも悪くも、 トランプ大統領の大きな特徴は「理念なきゆえの柔軟性」ということができる。大統領選挙中は「中国を為替操作国に指定する」と豪語していた。しかし米中首脳会談後、北朝鮮の問題で「中国には期待している。習近平主席とは馬が合う」と発言した。後日には「中国に失望した」ともコメントしている。トランプ大統領に理念がないことは間違いない。理念がないゆえの怖さがある一方で、いい方向へ舵を切っていく可能性もある。ジェームズ・マティス国防長官やレックス・ティラーソン国務長官のような見識のあるメンバーが政権をうまく舵取りしてほしい、とワシントンでもよく耳にする。

(2)政権内の権力闘争

 政権内の権力闘争は、トランプ政権発足時から注目されてきた。当初、バノン主席戦略官がトランプ大統領を後ろから操っているとさえいわれた。国際協調派(クシュナー上級顧問、マティス国防長官、ティラーソン国務長官、マクマスター大統領補佐官など)VS国内重視派(バノン主席戦略官、ロス商務長官、コンウェイ大統領顧問、ライトハイザー通商代表、ナバロ国家通商会議委員長など)の戦いは政権発足から半年が経っても続いていた。「主導権は一週間で入れ替わる」という声がワシントンから聞こえてくることもあった。
 ただし、このような権力闘争はどの大統領のもとでも繰り広げられるという。調和を重んじた共和党の正道であるブッシュ政権ですら、スタッフ同士が激しい権力闘争を繰り広げていた。大統領執務室のドアに自身のデスクがどれだけ近くなるか。大統領との関係が近くなれば、必ずデスクはドアに近くなる。近くなれば、自身が信じる政策を大統領に採用してもらうことができる。このような権力闘争は毎日続くため、私の友人は2年しか持たなかったと話していた。いくらでも変わることができるトランプ大統領のもとでなら、どれほどの権力闘争が繰り広げられているか、想像に難くない。
 ワシントンでは、ペンス待望論を耳にすることもある。「トランプ大統領は議会の仕組みを知らなさすぎる。ペンス大統領になったらどれだけ審議がしやすくなるか」と私の友人も話していた。ただ、ペンス自身は大統領に忠誠を誓う律儀な人と見受けられる。来日時の麻生副総理との対話では、二国間協議の重要性を強調した。もともと本人はTPP賛成だったので自分の意見を言うこともできるが、そんな素振りはまったくなかった。一方で、ペンスは最近隔週で、共和党支持者を集めてパーティーを開いている。次の大統領になるための準備をしているのでは、とも噂されているが、真相はわからない。

(3)低い支持率

 トランプ大統領の支持率は歴代大統領に比べると極めて低い。政権発足時で歴代最低だったが、その後も低迷で安定している。ところが、シリアの空爆(4月7日)、北朝鮮への軍事行動(4月)の時は支持率が一時的に上がった。大統領の支持率に関して、ギャラップ社が興味深い調査結果を報告している。共和党員、民主党員、無党派に分けて支持率を調査したところ、結果は天と地ほど違った。政権発足から半年の時点で、共和党支持者の間では支持率87%、民主党支持者の間では8%。日本では「とんでもないトランプ大統領」というニュースが多いが、共和党支持者の中では確固たる人気がある。
 来年の中間選挙で民主党が大勝すれば、トランプ政権の糾弾する声は共和党支持者の中からも膨らんでくるかもしれない。ただ、上院で改選となる33議員の内、25人が民主党(内2人は無所属)であるため、民主党が上院の過半数を取るのは簡単ではない。

(4)政治指名職の遅れ

 新政権は往々にして人事が遅れる。トランプ政権も閣僚については、政権発足100日以内に就任がすんだ。しかし、副長官や次官などの閣僚級とされる重要人事が556もあるという中で、発足から半年たっても副長官さえ5つの省庁(国務、国防、司法、国土安保、運輸)でしか決まっていない。商務、財務、農務、エネルギー、教育、労働、住宅都市、厚生などの省庁でNO2さえ決まっていないのは少し異常だ。また、210の幹部ポストのうち177人が未承認で、同時期のオバマ政権の未承認(84人)よりもはるかに多く、過去の政権と比較しても明らかに遅れている。
 クリントン政権も指名が順調には進まなかった。クリントンが田舎のアーカンソー州出身だったこともあり、多方面から揶揄された。トランプ大統領も政治の本流出身ではないという面で、若干似ているところもありそうだが、事はそう簡単ではない。
 トランプは大統領選挙中から、多くのインサイダーたちを敵に回してしまった。特にニクソン政権からブッシュ政権にかけて共和党の重鎮とされていた外交・安全保障の専門家の多くがトランプ候補は最高司令官にふさわしくないという2016年8月の声明に著名した。政権発足時から、相当数が指名候補者から外れている。加えて、共和党のアウトサイダーであるトランプ政権に入ることで、かえって自分のキャリアに傷がつくことを恐れて任命職を辞退する専門家も少なからずいる。
 トランプ大統領の当選を、多くの政策のプロが予想していなかったことも理由としてあげられる。通常であれば、選挙が終わる前から目星をつけて、インサイダーたちを中心に有能な人材のリクルートメントが早くから始動している。しかし、そもそもトランプ大統領が共和党エスタブリッシュメントやインサイダーたちと縁がない。
 トランプ政権には娘婿のクシュナーから娘のイヴァンカも加わり、トランプ一家の影響力は強い。彼らは政権への忠誠を極端に気にしており、日本でいう身体検査(バックグラウンド・チェック)を丁寧に行っているため、尚時間がかかっている。
 よくあることだが、ホワイトハウスと省庁との間で人事に対する意見対立も起こっている。マティス国防長官が政権移行チームの推薦をことごとく拒否したが、後に彼の人選もホワイトハウス側の了解が得られず頓挫することが頻発した。ティラーソン国務長官とホワイトハウスの間でも、同様のことが見られた。
 キャリア官僚は政権交代の影響を受けないため、日々の業務に必ずしも支障があるわけではない。しかしトップレベルで、新政権の政策的な方向性を代弁できる現場の人間がいないのは確かである。国際会議などで各国のスタッフが集まっても、アメリカ側の出席者の発言に力がなくなる側面は否めない。南シナ海の中国問題でも、同盟国との緊密な連携を取りにくい状態にある。
 たとえトランプ大統領が嫌いであろうとも、自分のキャリアに傷がついたとしても、ホワイトハウスに入ってあげるべきだと私は思う。任命職が決まらない状態が続けば、米国の国益を損なうだけでなく同盟国との信頼関係にも深刻な傷を与えることになりかねない。

4.日米関係の展望

(1)米国議会からみた日米関係

 米国議会が日本との関係をどう見ているのかを知るにあたって、「米議会調査局報告書」というわかりやすい資料がある。これは議会スタッフ、特に新人なら誰もが読むもので多くの分野について端的に書かれている。この報告書は日米関係について以下のように述べている。「経済関係と防衛分野の費用分担が今後、日米間の議論の圧倒的な部分を占めることになる」。今のところ、日米関係にこの問題が見える形で現れてはいないが、その可能性はいつでもあることを認識しておく必要はある。

(2)トランプ大統領のリスク

 トランプ大統領の大きな功績はマティスを国防長官として指名し、マクマスターをホワイトハウスに入れたことだ。彼らのような知識・知見をもった人物がトランプ政権に居残り、大統領の政策決定に大きな影響力を及ぼしてほしいという声はワシントンからよく聞こえてくる。これには日本も同意見だろう。
 ただ、理念なく柔軟であるために、ときに予期せぬ舵取りをする可能性がある。ここは日本にとって大きなリスクとなる。本人の性格からよく文句をいい、腹心の友だったジェフ・セッションズ司法長官にさえ容赦なく批判の矢を浴びせていた。トランプの大統領らしからぬ言動・手法に、議会やメディア・国民が慣れてしまうことも日本にとってはマイナスとなる。同じように理不尽な要求・不満がいつ日本に飛んでくるともわからないからだ。こんな事態も想定しておくべきだろう。
 北朝鮮の脅威が現実のものとなっているからこそ、日米関係で憂慮すべき問題もある。トランプは従来の大統領と異なり、外交安全保障に関して全く経験がない。安倍首相とトランプ大統領の関係が良好でコミュニケーションもよく取れていることはもちろん日本の国益に適っている。しかしトランプが安全保障、ひいては日本・アジアについて根本的に理解していなければ、腹を据えたコミットメントはできない。現状では、トランプがそれらを理解しているとはとても思えない。場当たり的にリアクションしているだけのように感じられる。
 トランプは基本的にビジネスマンであり、金儲けが人生の大部分を占めていた。トランプの「米国は世界の警察ではない」という発言についても、その真意は米国の支出を減らしたいというだけなのかもしれない。大統領選挙期間中はNATO不要論を繰り返した。後に欧州を訪れた際にその発言を反転させたが、拠出金負担について再三強調している。

(3)日本の取るべき姿勢

 今のところ、日米関係では経済問題と防衛問題は切り離されている。特に経済問題は麻生副総理とペンス副大統領との日米経済対話で中心的に協議することになっている。ただ、ここで大きな問題はペンス副大統領が議会の対応に追われているという点だ。
 ペンスが副大統領になった理由は、下院議員を長く務め、議会に精通しているからだ。トランプ大統領は朝から晩まで、議会との関係で苦しんでいる。ペンスが相当忙しいことは間違いない。
 議会対応に謀殺されるような中で、ペンス副大統領は日米経済対話で実のある成果をあげられるだろうか。それなりの果実を取ってこれるなら、米国議会にも示しをつけられる。しかし交渉が不十分と判断されれば、米議会調査局報告書が指摘する「経済関係と防衛分野の費用負担」について米国が言及してくる可能性は否定できない。
 トランプという予測し難い大統領の登場により、日本は日米関係のあり方を見直す必要性がでてきた。今の日米関係が良かったとしても、今後も良好という保証はない。特に安全保障面や経済面でどう転ぶかについて、油断はできない。ただ、日本そのものがある程度自立しなければならないときにきているとも言える。たとえトランプ大統領でなくとも、日米関係における避けがたい傾向とも言えるだろう。

(本稿は、2017年7月20日に開催した21世紀ビジョンの会における発題内容をまとめたものである)

参考文献:中林美恵子『トランプ大統領とアメリカ議会』(日本評論社、2017年)

 

※ 参考資料 「歳出法ができるまでの流れ」

予算教書

 OMBが取りまとめる大統領の予算リクエストは、各省庁のボトムアップの予算要求も含めて長い時間をかけて完成する。予算教書は通常2月に議会に提出される。あくまでも行政府の予算リクエストなので法的拘束力を持たず、直接には議会における審議対象にもならない。ただし、連邦議会の予算決議案策定の際に有用となる大量の情報を提供していることも事実である。

予算決議

 行政府より予算教書が提出されると、議会は予算決議を作成する。予算決議は法律としての効力を持たないが、両院でその後審議される、予算関連法案の大枠や連邦議会としての優先項目を明らかにするものである。その内容には、当該年度を含めた5年先から10年先の新規予算権限と支出総額、歳入総額、財政赤字・黒字の総額、公債の限度額などが含まれる。予算決議は予算の大枠に縛りをかける力を持っているが、予算の支出を最終決定するわけではない。支出のためには歳出法の通過が必要となる。
 74年議会予算法は、予算決議における上院本会議の審議時間に制限を設けている。討論時間は50時間までとされ、フィリバスターは認められない。
 予算決議には大統領の著名がいらないため、多数党の意向が反映されやすい。4月15日までに成立させるのが原則であるが、近年はなかなか守られていない。それどころか、予算決議が成立しないことが非常に多くなってきている(図3)。また新しい大統領が就任した年は、大統領の予算教書提出から始まって様々なプロセスが遅れてしまうのが常である。

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歳出法

 予算決議が本会議を通過すると、上下両院の各歳出委員会が分野別に12本に別れた歳出法案を作成する。その後、上下両院で審議されるが、歳出法案は一般法案と同じく上院でのフィリバスターが可能である。両院での可決を経て、大統領が著名して歳出額が確定する。
 歳出法案に対しては、大統領は著名をするか拒否権を発動するかという選択肢しかなく、部分的な修正を行うことができない。拒否権が発動された場合、議会がこれを覆すには上院と下院で三分の二以上の賛成が必要である。

つなぎ予算

 米国の会計年度は10月に始まり、翌年9月に終わる。9月末までに歳出法案が大統領の署名を経なければ、行政府は予算執行ができない。ところが近年、11月や12月になっても議会での意見がまとまらず、歳出法が成立までこぎつけないことが多い。
 その場合は、継続決議を作成して暫定予算(つなぎ予算)を可能とし、一時しのぎをする。暫定予算は前年度と同じ支出にするだけなので合意が得られやすいが、時代の変化に伴う予算編成にならない。歳出法が成立すれば、暫定予算は無効になる。
 万が一、立法府と行政府、あるいは立法府内の対立を収拾できなければ、歳出法の合意を得ないまま暫定予算が期限切れとなる。財政支出の空白期間が生じ、ガバメント・シャットダウンに陥ることになる。クリントン政権は21日という長期の政府機能一時停止を経験した。パスポート発給が停止され、各国の米国大使館も締まり、米国への入国ビザの発給も受けられなくなった。国立公園や美術館・博物館なども閉鎖され、20万に及ぶ国民に影響が出たとされる。

義務的経費と裁量的経費

 米国政府の支出には、義務的経費と裁量的経費がある。義務的経費は、国債費、社会保障費、国家公務員の給与や退職年金など、すでに支出が義務付けられている経費をさす。これは連邦予算の約三分の二を占め、恒久法の定めにより毎年自動的に出ていってしまう。残りの約三分の一が裁量的経費であり、政策的配慮によって連邦各省庁やプログラムに配分される。義務的経費の割合が増加の傾向にあり、連邦予算を圧迫している。義務的経費の変更には法改正が必要となる。

フィリバスターを回避できる財政調整プロセス

 予算決議は複数年度にわたる予算の大枠を定めている。予算決議が目標とする財政バランスに到達するために義務的経費を変更したい際には、法改正を促す財政調整指示を予算決議に盛り込む手法が常套手段となっている。
 上述のように、予算決議の審議ではフィリバスターが認められない。予算決議に財政調整プロセスを含めれば、過半数で法改正が可能となる。レーガン政権以来、この財政調整プロセスが制度改正の鍵とされてきた。一般法として個別に法改正を行うこともできるが、その場合フィリバスターによって廃案に追い込まれる可能性が高くなるからだ。この手法により、税制や福祉、医療保険改革に至るまで、様々な法律を予算決議の枠の中でまとめて議論し、スピーディに採決を行うことができる。前述のように、トランプ大統領・議会共和党はオバマケア一部撤廃法案の審議において、この手法での可決を試みた。

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