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政策提言

少子化対策に代わる「家族政策」の提言

2017.10.11

はじめに

 わが国では40年以上の長きにわたって、人口置換水準(合計特殊出生率<一人の女性が一生に産む子供の平均見込み数:15歳から49歳までを対象>が人口を維持するのに必要な水準)を下回る低出生率傾向が続いている。この間、政府はさまざまな少子化対策を打ってきたが、合計特殊出生率は1.4台と、OECD諸国の平均値よりも低い。
 人口減少は、わが国に限らず豊かな先進国が一様に辿る道である。しかし、超少子と超高齢化が同時に進行する超少子超高齢化に直面している国は、他にない。出生率回復に向けた積極的かつ大胆な政策を打たなければ、日本の総人口は2050年には8000万人台にまで落ち込むと推計されている。
 人口が減れば、国力の衰退は避けられない。国家や社会の安定的な存立基盤が危うくなり、再生産機能の維持が難しくなる。これはわが国にとって、国家安全保障上の危機であり、人口減少は「静かなる有事」と言ってよい。
 出生数が減り続ける中、政府は2015年「一億総活躍社会の実現に向けた取り組み」のなかで、ようやく子育て世代が希望する「希望出生率1.8」を出生率目標として掲げ、積極的な出生促進に舵を切った。それを実現するには、1990年代から始まった少子化対策はどの程度効果があったのか、政策的に的確だったのか改めて検証する必要があろう。また、少子化の最大の原因とされる若者の未婚化問題にも積極的に取り組まなければならない。
 仮に「希望出生率1.8」を実現できたとしても、出産可能な女性人口の総数が減っていくため、少子化の進行は止まらない。社会の再生産機能の維持に必要な人口置換水準2.07まで出生率を回復させようとすれば、従来の少子化対策からの抜本的な政策的転換を図る必要がある。
 本提言では、これまでの「少子化対策」の問題点を検証した上で、「ワークライフバランス」を後押しする「少子化対策」からの政策的転換の必要性を明らかにする。同時にこれまでの少子化対策に代えて、子育てを老若男女すべての国民で支えていく「子育て共同参画社会」に向けた家族政策、すなわち若者の家族形成及び家族機能の保護・支援を積極的に推進する総合的な家族政策への転換を提唱するものである。

 

Ⅰ.少子化非常事態にある日本の現状

(1)急激に進む少子高齢化と日本の危機

前例のないスピードで進む少子高齢化
 わが国の総人口は2008年をピークに減少を続け、すでに人口減少社会に突入している。総人口は1億2690万人(2016年9月現在)で、出生数は100万人を割り込み、過去40年間で半減した。 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2017年4月に公表した「日本の将来推計人口」によると、わが国の人口は2053年には1億人を割り込み、2065年には8808万人になる。
 合計特殊出生率は、戦後の第一次ベビーブーム(1947~49年)期は4.3超だったが、国の人口抑制策(経済的理由で産児制限を認めた1949年の優生保護法改正等)もあって1950年以降は急激に低下した。1974年に人口置換水準の2.07を下回り、1989年に戦後最低の1.57を記録、「1.57ショック」と呼ばれた。
 こうした事態を受けて、政府は1990年代以降、少子化対策に取り組み始めた。しかし、その後も合計特殊出生率は下降を続け、2005年には1.26にまで落ち込んだ。近年は微増傾向にあるものの、1.44(2016年)と人口置換水準にはほど遠いのが現実である。
 経済が発展し、生活水準が高まると、社会は「多産多死」から「少産少死」へと移行する。これは成熟した社会で一様に起こる現象である。しかし、わが国では1974年以来、長期に亘って人口置換水準を下回る低出生率の状態が続いており、他方で出生数よりも死亡数が大幅に上回る「少産多死社会」へと向かっている。
 社人研による将来予測では、総人口に占める年少人口(0~14歳)割合は2016年の12.4%から、2065年には10.2%にまで落ち込む。一方、高齢者人口(65歳以上)は2042年をピークに減少し始めるものの、高齢者人口割合(高齢化率)は上昇を続け、2065年には35.6%と、3人に一人以上が65歳以上の高齢者になる。このように、わが国では他の先進諸国が経験したことがないスピードで少子・高齢化が進行している。超少子超高齢化という人口危機に直面していると言ってよい。

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人口構造の急激な変化がもたらす危機
 人口減少及び人口構造の急激な変化は、経済、地域社会、社会保障・財政に多大な影響を及ぼす。人口減少が社会に与える影響として、第一に経済面での影響がある。人口が減少することで国内市場が縮小し、消費が減少、日本経済全体に活気が失われて経済成長が鈍化する懸念がある。
 また、急速な少子化は深刻な労働力不足をもたらす。生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口層)の減少は、一般的に労働生産性の停滞をもたらし、国民一人あたりの実質GDPの伸びは鈍化する。日本経済全体が縮小し、国際競争力が失われていく可能性が高い。
 第二に、年金・医療・介護などの社会保障費が増大し、世代間の支え合いが困難になる。現行の公的年金制度は賦課方式をとっており、現役世代が高齢世代を支える世代間の支え合いで成り立っている。現役世代の減少と高齢者の急増によって、こうした年金制度の維持・存続は困難になる。医療や介護についても同様のことが指摘できる。
 第三に、地方では少子化と人口流出による人口減少によって、地域経済の縮小と過疎化が一層進み、地域社会の崩壊が加速する。「日本創成会議・人口減少問題検討分科会」の推計(増田レポート)では、2040年までに全国の自治体の約半数が消滅可能性の恐れがあるという。
 第四に、地域社会の崩壊が進むと、次世代育成のための社会的環境が著しく損なわれ、子供の健全な成長への影響が懸念される。子供の数が減少するだけでなく、生まれてきた子供たちの成育環境が悪化すれば、子育ての劣化とヒトの劣化が生じ、社会全体の安定と成長にも悪影響を及ぼす。
 第五に、人口の激減による経済力低下は国力の衰退を招き、国家安全保障上のリスクを高める。国力増強につながる人口政策は、安全保障上も極めて重要なのである。

(2)少子化の原因とは

「晩婚化・晩産化」による影響
 少子化の原因については、多くの分析がされている。これまでの分析結果をみると、少子化の原因は、夫婦の子供数の減少を招いた「晩婚・晩産化」と、「未婚化の進行」の2つに集約することができる。
 第一に「晩婚・晩産化」の影響がある。厚生労働省の「人口動態統計」によると、合計特殊出生率が初めて2.0を下回った1975年、平均初婚年齢は夫27.0歳、妻24.7歳であった。2015年には平均初婚年齢は夫30.7歳、妻30.0歳と、40年間で夫3.7歳、妻5.3歳も上昇している。
 この間、大学(短大を含む)進学率は34.2%から52.1%に上昇。女性の高学歴化、社会進出が進んだことも、初婚年齢を押し上げる結果となった。先進諸国のなかで、母親の第一子出産時平均年齢30.7歳(2016年)は突出した高さにある。初婚年齢の上昇とともに、出生率も低下を辿り、再婚も増え、2015年結婚夫婦のうち26.8%が再婚だ。
 ところで、わが国では出生児の約98%は既婚夫婦から生まれており、婚外子はおよそ2%に過ぎない。ほとんどの子供は既婚夫婦から生まれている。注目すべきことは、既婚夫婦の完結出生児数(夫婦の最終的な出生子ども数。結婚15~19年の夫婦が対象)は1972年以来約40年間、一貫して2.2~2.1で推移しているということである。2010年(1.96)に初めて2.0を下回ったものの、子供を「2人」生んだ夫婦は56.2%で、この割合は40年間ほぼ一定している。一方で「0人」や「1人」という夫婦の割合が徐々に増えている(2010年は6.4%、15.9%)状況がある。
 社人研の岩澤美帆氏(人口動向研究部第一室長)の結婚動向と出生率に関する研究によると、「2000年から2005年までの期間合計特殊出生率の低下に対して、初婚行動の変化の寄与が8割以上を占め、残りの2割が夫婦の出生行動の変化の寄与によるものであった」と分析している。

少子化の主な原因は「未婚化」の急増
 前述のように、既婚夫婦による出生数「2人」の割合は過去40年間大きな変化はない。既婚夫婦の出生数の減少が急激な少子化を招いているとは言い切れないということだ。「晩婚・晩産化」は既婚夫婦の出生数に減少傾向をもたらしているものの、少子化の決定的な要因とはなっていない。
 わが国では「晩婚・晩産化」よりも「未婚化」による影響がはるかに深刻で、少子化の主な原因は「未婚化」の急激な進行にある。
 生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合)の推移を見てみると、1980年時点では男性2.60%、女性4.45%と、ほとんどの人が普通に結婚していたし、結婚できていた。ところが、90年以降、生涯未婚率は急上昇を続けている。2010年には男性20.14%、女性10.61%、最新の統計では男性の4人に1人、女性の7人に1人が一度も結婚をしないまま一生を終えると見込まれている。
 1990年以降の男性未婚率の急上昇の背景には、バブル崩壊後の雇用環境の悪化がある。90年代以降、大学進学率が上昇し、大都市圏への若者の移動が加速した。しかし、バブル崩壊により、大学卒業者の就職者の割合は91年の81.3%から2000年には55.8%にまで低下。雇用情勢の悪化と表裏一体となって、パート・アルバイト等の非正規雇用が増え、03年には大学卒業者のうち卒後一時的仕事に就いた者、進学も就職もしない者の割合は過去最高の27.1%に上った。90年代以降、若者の経済基盤の不安定化が未婚化に影響を与えている。
 また未婚化が進行した社会的背景の一つに、高度経済成長に伴う日本社会全体の大きな構造変化がある。地方農村部から大都市圏へと若者の流出が進むとともに、大家族が激減し核家族化が進んだ。地域共同体が崩壊し、家族と地域のつながりが薄れて、地域社会における若者の結婚支援や子育て環境が急速に失われていった。
 こうした社会の構造変化の中で、結婚形態も見合い結婚が減り、恋愛結婚が主流になった。結婚相手を紹介してくれる親戚縁者や職場の上司がいなくなり、未婚の男女が出会う場や機会が減ったことが、結婚できない若者を生むこととなった。
 一方、「結婚し、子供を持って一人前」と言われた時代があったが、今日、結婚・出産に対する社会的通念、規範が薄れ、結婚し子供を持つことの価値が相対的に低下したことも、若者の未婚化に拍車を掛けた。
 結婚・出産・子育てというのは、精神的にも経済的にも重い責任と義務を負う行為である。結婚・出産に対する社会的強制力が薄れ、かつ異性と出会える機会が限られるなかで、自ら交際相手を見つけ、結婚まで至ることは、今の若者にとって乗り越えるべき障壁が大きい。恋愛結婚という結婚形態だけでは、今後未婚化が一層進む可能性が高い。

 

Ⅱ.日本の少子化対策はなぜ出生率回復につながらなかったのか

(1)男女共同参画を背景にした「両立支援」に偏った少子化対策だった

 少子化に伴う危機は、成熟社会に入った先進諸国が一様に直面する国家的課題である。主要国の合計特殊出生率の推移をみると、1985年時点では日本、フランス、スウェーデン、イギリスはいずれも1.7~1.8と大差がない。ところが、その後の各国の政策の違いにより、出生率は大きく異なっている。2014年ではフランス1.98、スウェーデン1.88、イギリス1.81に対し、日本は1.42という低位水準にある。
 少子化の危機を認識しながら、なぜわが国では出生率の低下に歯止めをかけることができなかったのか。次に日本の少子化対策が辿った経緯と問題点を探ってみたい。
 既に述べたように、日本の少子化は「晩婚・晩産化」よりも「未婚化」による影響がはるかに大きい。出生動向基本調査の分析研究でも、近年の少子化は、結婚適齢期の女性が以前よりも結婚しなくなった効果が約7割、結婚している女性が子供を以前より産まなくなった効果が約3割と推計している。
 少子化の主要な原因が「未婚化の進行」にあったにも関わらず、この20年余の政府の少子化対策は、もっぱら既婚者への対策に力点が置かれてきた。
 1994年に「エンゼルプラン」、1999年に「新エンゼルプラン」、2003年に「少子化社会対策基本法」を制定、翌年には少子化社会対策大綱が策定された。少子化対策基本方針で示された施策の中心は、多様な保育サービスの充実で、都市部が抱える仕事と子育ての両立支策に力点が置かれてきた。しかも、既婚者の中でも共働き世帯のみが支援の対象とされ、在宅育児の親への支援はほとんど行われなかった。
 政府が女性の就労支援的な施策を推し進めてきたのは、少子化対策が男女共同参画の延長上に位置付けられてきたからである。「男女共同参画が出生率回復に効果的である」「女性の労働力率が上がれば出生率も回復する」とされ、女性が働きやすい環境整備を行うことが少子化対策の柱とされた。その際、しばしば引用されたのがOECD加盟24カ国(1人当たりGDP1万ドル以上)の「女性の労働力率と出生率」の相関関係を示すデータで、女性の労働力率が高い国ほど出生率は高いとされた。
 しかし、東京大学の赤川学准教授は、OECDに限定せず「1人当たりGDP1万ドル以上」に該当する85カ国でみると、「女性労働力率が高い国ほど、出生率は低い」という逆の傾向が現れると指摘している。「女性の労働力率と出生率」には正の相関関係は見いだせないというのだ。
 わが国の少子化対策が十分に成果を上げることができなかったのは、①少子化の原因が主に「未婚化」にあるにも関わらす、少子化対策が専ら共働きの既婚者に対してなされたこと。しかも、②女性の労働力率が高いほど出生率が高いという根拠に乏しいデータをもとに、専業主婦世帯を軽視した、女性の就労促進を目的とする「両立支援」(仕事と子育て)に偏った政策であったこと。③子育て世帯が最も望んでいる経済的支援が十分でなかったことが原因と考えられる。

(2)出生促進的な総合的施策ではなかった

 日本の少子化対策は「少子化に対処するための施策」であり、少子化の進展に歯止めをかけることを目的としている。「少子化社会対策基本法」(平成15年制定)の(施策の基本理念)には、「男女共同参画社会の形成とあいまって、家庭や子育てに夢を持ち、かつ、次代の社会を担う子どもを安心して生み、育てることができる環境を整備すること」とある。
 少子化対策は、若者の家族形成(結婚)及び生まれてきた子供の健全育成、家庭機能の基盤強化を目指す、総合的な施策として取り組まれるべきものである。ところが、結婚・出産といった家庭・家族のことに国が介入すべきではない、また男女共同参画の理念に逆行するといった考えもあって、出生促進的な政策は取られてこなかった。
 家族法が専門の水野紀子氏(東北大学教授)は、明治以降の日本民法の特徴として「家族の自治」の原則を挙げている。明治憲法では民法上の「家制度」により、戸主による家族自治、戦後は夫婦による家族自治が原則とされた。戦後は、それに加えて封建的な「家制度」への反発から、国家が「家庭・家族」に介入することに国民の警戒心が強く、国家も「家庭・家族」に介入することに消極的な姿勢を取ってきた。
 政府が明確に出生促進策に舵を切ったのは、日本創成会議が「ストップ少子化・地方元気戦略」(「増田レポート」)発表後の翌年、2015年「少子化社会対策大綱」の制定からである。
 2016年の「ニッポン一億総活躍社会プラン」では、結婚、妊娠・出産、子育ての希望がかなえられる社会の実現に向けて、2025年「希望出生率1.8」目標を掲げ、初めて出生促進を打ち出した。ただ施策の中身は、依然として子育て支援策、都市部の待機児童解消策が重点施策であり、若者の結婚・出産を促進するような具体的施策は乏しい。
 大綱では基本的考え方として、「個々人が希望する時期に結婚でき、かつ、希望する子供の数と生まれる子供の数との乖離をなくしていくための環境を整備し、国民が希望を実現できる社会をつくること」とし、「個々人の決定に特定の価値観を押し付けたり、プレッシャーを与えたりすることがあってはならないことに留意する」という一文が添えられている。結婚、出産は個人の選択の自由であり、国や社会は結婚・出産という個人の私的な問題に介入すべきではないという基本姿勢は変わっていない。
 結婚、出産における個人の選択の自由はもちろん尊重されねばならない。しかし、同時にその選択においては、結婚・出産に関する正確な情報の提供、結婚・出産の価値を尊重する啓蒙教育、行政や地域社会による積極的なサポートが必要である。戦前の家制度の名残から、結婚・家族の価値が歪められたまま、抜本的な出生促進策が実施されなければ、近い将来わが国が国家的危機に陥ることは間違いないと思われる。

(3)結婚・出産・子育ての価値を尊重する教育の欠如

 若年層の未婚化は雇用問題だけでなく、結婚・出産の価値を重要視しなくなったことにも原因があるとして、松田茂樹氏(中京大学教授)は「ライフデザイン教育」の必要性を提唱している。また、不妊治療が専門の齊藤英和氏(国立成育医療研究センター副周産期・母性診療センター長)は、日本人は妊孕性(妊娠しやすさ)に関する基礎知識を学ぶ妊孕教育が遅れていると指摘している。妊孕教育の遅れが、晩婚・高齢出産が増える要因の一つとなっているのだ。
 わが国では結婚や出産という個人の人生に関わる問題に、特定の価値観を押し付けてはならないとされ、価値や規範を教えることを良しとしないイデオロギー的風潮が強い。特に、日教組支配が長く続いた教育界は、学校で結婚・出産・家族をもつことの価値と意義を教えることに強い抵抗感を示してきた。たとえば、学校の公民では家庭・家族に関する記述が激減し、家庭科教科書の記述には近年法律婚によらない同棲カップルや同性カップルがことさら取り上げられ、家族の拡大解釈や家族多様化論を積極的に擁護する記述も見られる。
 結婚・出産・子育ては私的な営みではあると同時に、きわめて公共性を有する営みでもある。1人の男性と1人の女性の出会いから、結婚・出産・子育てという生命を繋げる家族が形成され、それが社会の基礎となり国家がつくられてゆく。
 内閣府「少子化社会対策大綱」検討会は、2年前に出した提言で、国が優先的に取り組むべき対策として、「経済的基盤の安定」「結婚に対する取組支援」と共に、「結婚・妊娠・出産等に係る情報提供」をあげている。社会全体で結婚・出産・子育ての価値を尊重し、それを共有していくためには、家庭、学校、地域社会など、あらゆる機会を通して、若者たちに結婚・出産・子育ての価値を教育していくことが何よりも重要と言える。

(4)縦割り行政の弊害

 少子化対策が成果を挙げられなかった理由の一つとして、政策形成上の問題も大きい。省庁を超えて取り組む体制が十分整っていなかったということである。
 少子化対策の政策形成過程を見ると、1994年当初は厚生省が少子化問題を担当していたため、福祉的な保育所対策が中心となった。省庁再編により2001年に労働省と統合した厚生労働省となってからは、「ワークライフバランス」を柱とする女性の就労支援策が重視されるようになった。
 2003年少子化社会対策基本法の制定・施行から、政策を迅速に推進するために内閣府に特命担当大臣として少子化対策担当を置くことになった。政策が実効性を持つためには担当大臣に強いリーダーシップが求められる。しかし、この14年間で担当大臣が21人も変わっている。担当大臣が短期間で交代し、しかも少子化担当大臣が法務、男女共同参画、沖縄・北方対策、科学技術政策など、いくつもの分野を兼任する体制だった。少子化問題は喫緊の最重要課題であるにもかかわらず、政府全体で迅速に対処する体制が整ってはいなかった。
 また高齢者の社会保障費が増大するなか、少子化関連に必要な予算を回せないという財源の問題が大きい。各国の家族関係社会支出費の対GDP比を見ると、イギリスは3.86%、スウェーデン3.63%、フランス2.91%、ドイツ2.24%(国立社会保障・人口問題研究所、2014年度「社会保障費用統計」)。国民負担率なども違うため、家族関係政策費の割合、財政規模だけで単純に比較できないが、日本の1.34%は低すぎる。
 子供や家庭の問題に関連する所管省庁が、内閣府、厚生労働省、文部科学省、財務省にまたがることによって、政策形成過程が複雑化し、政府全体で一丸となって強力に進めていく体制が取りにくいという問題もある。

 

Ⅲ.少子化対策から「家族政策」への転換の提言

(1)男女共同参画に基づく少子化対策の問題点

 日本の少子化対策は男女共同参画と表裏一体で推進されてきたことから、両立支援的な保育所政策に力点が置かれてきた。ここで改めて男女共同参画社会基本法の法令の問題点について指摘しておきたい。
 男女共同参画社会基本法の前文をみると、「男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現」と記述されている。いうまでもないが、男女共同参画社会とは「社会的・文化的な性差」(ジェンダー)を前提としない男女平等の実現であり、目指す所は「固定的性別役割分担意識の解消」であり「男女の人権の尊重」である。
 菅直人政権の第三次男女共同参画基本計画(平成22年12月17日決定)では、世帯単位の制度・慣行から個人単位の制度・慣行に変更することを喫緊の課題と位置づけ、選択的夫婦別氏制度の導入など、家族法制の見直しを施策として明記している。
 さらに第四次男女共同参画基本計画(平成27年12月25日決定)では、「あらゆる分野における女性の活躍」を打ち出し、「男性中心型労働慣行等の変革等を通じ、仕事と生活の調和が図られ、男女が共に充実した職業生活その他の社会生活及び家庭生活を送ることができる社会」を目指すとしている。家庭生活より職業生活の充実を優先し、子供や家族を重視する視点は乏しい。
 男女共同参画社会は「世帯」単位から「個人」単位の社会制度・慣行への転換を図ろうとするものである。それは家庭基盤の充実や家族機能の強化とは明らかに逆の方向を向いており、少子化対策にも逆行している。個人の人権尊重のみ重視して家族の価値を軽視する男女共同参画の理念に基づく少子化対策では、本当の意味での少子化対策にはなり得ないからである。
 金子勇氏(神戸学院大学教授)は「社会構成員は男女ではなく老若男女であり、3世代、4世代が共生するのが社会の通常の姿である」として、「男女共同参画社会」に代えて「子育て共同参画社会」を提唱している。本提言では「子育て共同参画社会」の形成に向けて、従来の少子化対策に代わる「家族政策」への転換を提案するものである。

(2)家族を社会的に支援する「家族政策」の意義

 家庭基盤の安定こそが出生率の回復と社会の安定につながるという視点から、本提言では少子化対策を「家族政策」として取り組む必要があるとの認識に立つ。ここで日本における家族政策の意義を考察したい。
 家族政策とは、一般的に国家が家族形成に影響を及ぼす諸政策を包括する概念と捉えられている(世界百科事典では「家族の経済的ならびに社会的な状況の改善のために、国家が家族の形成に影響を及ぼす諸措置の総体をさす」)。しかし、わが国では家族政策について明確な定義付けはなされておらず、一般的な用語としても定着していない。そのため日本では家族政策に相当する政策は少子化対策として位置付けられてきた。
 わが国で家族政策が定着していない理由として、増田雅暢氏(元内閣府少子化対策担当参事官)は次の3つの理由を挙げている(『これでいいのか少子化対策』)。
 第一に日本の家族に関わる法制度は児童福祉法、身体障害者福祉法、老人福祉法、母子及び寡婦福祉法など、いずれも家庭全体を対象とするのではなく、支援を必要とする特定の対象に対する社会福祉制度として始まった。このため家族政策になりえなかった。
 第二に家族や家庭のあり方に政府や行政が介入するのは戦前の家制度(戸主である家長を統率者とした男女不平等の制度であった)の復活につながるといったアレルギーが根強く、政策の形成過程において政府側の消極姿勢がみられた。
 第三に子育ての第一義的責任は父母にあるという考え方が強く、国や行政が家庭や家族の問題に介入あるいは関与することを良しとしない風潮が強かった。法律的にも、教育基本法第10条、少子化社会対策基本法第2条において、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」と、第一に親の子育て責任を明記している。
 では、家族政策とは具体的にはどのような政策を指すのか。増田氏は家族政策の必要性を説いた上で、「家族政策」を次のように定義している。「家族機能を維持していくために、家族や家庭内の問題を未然に防いだり、あるいは解決したりすることを目的として、家計や生活面に対して、社会的に家族を支援する政策」。この場合の「家族機能」とは、「家族により構成される世帯の生活維持や、家庭内における育児、教育等に関する機能」のことである。本提言では増田氏の定義に加えて、若者の家族形成(結婚)への支援も含めて「家族政策」としたい。

(3)フランスの家族政策と日本の特殊性

 フランスと日本で大きく違う点は、フランスが100年前から人口政策として出産奨励策に取り組み、家族重視の家族政策を進めてきたことである。それにより、フランスの完結出生児数は長い間、高い水準を維持している。
 欧州諸国が低出生率に喘ぐなか、フランスは総合的な家族政策によって人口置換水準まで回復させることに成功した。日本とは異なる、フランスの家族政策との違いをみてみたい。
 フランスは19世紀末から家族手当の導入が進み、1939年に「家族法典」を制定し、子供を持つ全就業者対象の家族手当制度、第3子世帯への給付、主婦手当などが規定された。
 また、第一・第二次世界大戦による出生率の激減という社会状況を背景に、フランスでは出産奨励的な家族政策が取られるようになった。例えば、税制では、家族を課税単位とし、子供数が多いほど所得税負担が軽くなる、N分N乗方式を採用していることや、家族手当は子供が2人以上(20歳まで)いる家庭に対して給付されることである。
 その後、乳幼児手当、育児親手当、家庭保育手当が導入され、2004年に「乳幼児養育給付」に統一される。近年の家族給付は第1子を含めた乳幼児への支援、3歳まで取得できる充実した育児親休業制度、認定保育ママ制度を活用した保育サービスの提供など、多種多様な家族政策が導入されている。
 1994年に成立した家族に関する法律「シモーヌ・ベイユ法」には「家族は社会がその基礎をおく本質的な価値の1つである。国家の未来は、家族にかかっている。それゆえ、家族政策は総合的でなければならない」(1条)と、家族政策の意義を定めている。フランスの家族政策の根底には出産奨励主義、家族主義、および社会主義の3つの思想が混在していると言われている(江口隆裕氏の「フランス少子化対策の系譜」(完結2)121頁)。
 ところで、近年のフランスはフェミニズムの強い影響もあって、婚姻制度によらない同棲カップルや同性カップルが増えている。生まれてくる子供の二人に一人は婚外子で、婚姻制度は事実上崩壊していると言ってよい。フランスでは多様な家族を前提とした多種多様な家族政策を取っている。
 一方、わが国では子供の大半は婚姻夫婦から生まれており婚外子はほとんどいない。先進国の中では例外的に婚姻制度が守られているのがわが国の特徴と言える。婚姻制度は元来、子供に安定した成育環境を保証することを主たる目的としている。わが国の家族政策は子供の福利厚生を目的としている婚姻制度を維持し、護ることを前提とした日本型の家族政策を検討する必要がある。

(4)成育環境悪化から子供を保護する「家族政策」

 少子化対策としてだけでなく、児童虐待や子供の貧困問題など急速に進む子供の成育環境の悪化に対処するためにも、わが国でも家族政策が必要とされている。
 近年、わが国の離婚件数、離婚率はともに下降傾向にあるが、同居5年未満の早期離婚が最も多い。離婚率には二通りある。一つは「粗離婚率」(人口千人当たりの離婚件数)と呼ばれるもので、国際比較などで使われている。これによれば日本の離婚率は1.73(2016年)で、欧米(アメリカ3.10、スウェーデン2.70、イギリス2.05)と比較するとそれほど高くない。しかし、日本では「家庭内別居」(家庭内離婚)が増えていると言われており、事実上関係が破綻した夫婦はかなり多いのではないかと推定されている。
 「粗離婚率」では、カップルがどれくらい離婚しているのか分からないため、もう一つの離婚率、「その年の離婚件数を婚姻件数で割ったもの」が用いられることもある。これは全体的な傾向を示すもので、米国で「二組に一組が離婚」しているというのは、この方法で算出したものである。これによれば、日本における離婚率(2016年)はおよそ35%で、3組に一組強が離婚していることになる。
 わが国では、ひとり親世帯(146.1万世帯)の約8割近くが離婚を理由としている。親の離婚に遭遇する未成年の子供の数は年間200万人に上るとされ、母子家庭の子供の貧困問題も深刻化している。
 実の両親から虐待を受ける被害児童は増え続け、全国の児童相談所が対応した児童虐待相談件数は平成28年度には12万人を超え、この10年間で約3倍に急増している。離婚や虐待などを理由に親元で暮らせない、社会的養護を必要とする児童は全国で約4万5千人に上り、多くは児童養護施設などの社会施設で育つ。
 日本財団の子供の貧困調査によれば、15歳の子供120万人のうち約18万人(生活保護世帯約2万2千人、児童養護施設入所児童約2000人、ひとり親世帯約15万5千人)を「貧困状態にある子供」と定義した上で、貧困対策を全く講じなかった場合の社会的損失額は15歳の1学年で2兆9千億円の所得減、1兆1千億円の財政収入減になると推計している。0歳から15歳の子供を対象とすると、所得の減少額は42兆9千億円、財政収入の減少額は15兆9千億円になると試算。これは日本の国家予算の約半分、GDPの約1割に相当する。
 また子供の不登校から若者のひきこもり、親元で暮らすパラサイト・シングル、就職も進学もしないニートの若者など、自立できない若者も高い比率で存在する。
 2015年の出生動向調査では、未婚男女の9割が「いずれ結婚するつもり」としながら、異性との出会いがない、経済力がないといった理由で「まだ結婚するつもりはない」と、先送りしている。経済問題は結婚の大きな障壁ではあるが、それとともにこうした子供の成育環境の劣化、若者の精神面の自立という問題も少子化の背景にはある。
 子育ての責任主体が父母にあることは言うまでもない。しかし、父母が親役割を十分に果しえない場合は、家族政策の一環として行政が家庭に積極的に介入してでも、子供が健全に育つよう支援をしていく必要がある。
 子供が健全に育つ次世代育成の環境整備は、ある意味でGDPの成長以上に優先すべき重要な課題である。子供が将来社会人として自立し、やがて結婚し家族を持つことができれば、社会的損失を最小限に抑えることも可能となる。出生率を回復させようとするなら、若者の家族形成力を高めるとともに、子供が育つ家庭と社会基盤の充実を図る総合的な家族政策を実施することが必要なのである。

(5)日本の家族文化の伝統を踏まえた家族政策へ

 出生率が低下した欧米先進国の多くは離婚家庭、同棲カップル、同性カップル、ひとり親家庭といった多様な家族のニーズに合わせ、婚外子を含めた子供のいる家庭すべてに手厚い支援を行うことによって、出生率を回復させてきた。一方、わが国は婚姻制度が破たんした欧米の家族文化とは異なり、先進国の中では奇跡的に婚姻制度が機能している。
 家族政策を考えるにあたり、家族人類学の観点から日本の家族文化の特徴について考えてみたい。歴史人口学者で家族人類学者のエマニエル・トッド氏は家族を「人と価値を再生産するメカニズム」と定義づけている。氏は世界には7つの家族構造があるとし、日本を「権威主義家族」に分類した。その特徴は、直系の3世代を家族と捉え、相続上の兄弟間の不平等を前提とする「継承」にあるとされる。日本は祖父母、父母、子という3世代を通して子育てというものを継承しながら家族文化を形成してきた。
 もうひとつ、農耕民族の日本人の子育ての特徴は大家族中心に地域社会全体で担う共同養育にある。高度経済成長とともに、夫婦とその未婚の子からなる核家族が一般的形態となった。こうした核家族化が進むなかで、共同養育システムが崩れ、地域共同体が担ってきたお見合いシステムが機能しなくなったことも、若者の未婚化を加速させた。
 日本には、子は社会の宝とする「子宝思想」の伝統がある。欧米は夫婦の関係が強いのに対し、日本は親子、母子の関係が強い。例えば、欧米では赤ちゃんを別室で寝かせるが、日本は親子同室が一般的で子供を真ん中に川の字で寝る。また脳科学者の澤口俊之氏によると、コーカサス系の欧米の子育てが早くから子の自立を促すのに対して、モンゴロイド系の日本人は未成熟期間が長く、子育てに長い期間を必要とする。脳科学からみた日本の子育ては母子密着と共同養育が基本である。
 少子化問題を考えるとき、日本の家族文化の特徴を踏まえ、子供の成育にとって「望ましい家族モデル」とは何か、目的論的な家族モデルの定義づけが必要であろう。その上で、結婚・出産奨励、離婚の抑制など、家族機能の強化に向けた日本型家族政策を打ち出すことができるのではないか。

 

Ⅳ.「子育て共同参画」「ワークアンドファミリー」社会に向けて

(1)「結婚する自由、子供を産む」権利を保障すべき

 日本ではこのまま何もしなければ、男性の4人に1人、女性の7人に1人が生涯未婚のまま一生を終えると見込まれている。賦課方式の社会保障制度の下では「結婚をしない、子供を持たない」、いわゆるフリーライダーが社会の中で一定割合を占めるようになると、年金、介護、医療などの財源が逼迫、社会の再生産機能の維持は難しくなる。その意味で子供は社会のいわば「公共財」であり、国は結婚・出産を希望する若い世代を積極的に支援するとともに、国民全体で子育て世帯を支えていく必要がある。
 「未婚」「非婚」の理由はさまざまである。若い未婚男女の約9割が「いずれ結婚をしたい」「家族を持ちたい」と希望しながらも、多くは積極的行動をとらず、結果的に希望を実現できずにいる。また若い子育て世帯では、不安定な就労環境、高額な教育費負担などの経済的理由で、希望出生数を実現できない状況もある。
 近代社会においては、結婚・出産は個人の選択の自由に任せられている。それには「結婚しない、子供を産まない」権利が保障される同時に、「結婚する自由、子供を産む」権利も保障されなければならない。
 これまでの両立支援の少子化対策では、家庭の教育力、地域社会の次世代育成力はますますやせ細ってしまうであろう。個の人権ばかりを強調する「男女共同参画社会」から、家庭を社会の基礎的な単位として尊重し、若者の結婚・子育てを社会全体で支えていく「子育て共同参画社会」への転換、そのための総合的な家族政策が求められている。
 日本で家族政策を進めていく上で、重要になると思われるいくつかの提案をしたい。

(2)「ワークアンドライフ」から「ワークアンドファミリー」への転換を

 両立支援策としての待機児童対策は子育て家庭の就労支援とはなっても、少子化対策として不十分であったことは既に述べた通りである。両立支援策は結果的に潜在的待機児童を掘り起こし、待機児童が解消される見通しも見えない。出生率回復に寄与しないだけでなく、保育の質の低下を招く等、政策的にも矛盾を孕んでいる。
 仕事と子育ての両立を図る「ワークアンドライフ」は、働く子育て家庭に限定された概念である。子育て共同参画の視点から考えると、「ワーク」は仕事だけに限定されるべきではない。ボランティア活動なども含めた社会的活動全般と捉え、社会的活動と家族生活の両立を図る「ワークアンドファミリー」の視点で政策を進めるべきである。

(3)子宝文化を復活させ、子育て費用を社会全体で支える

 日本には「子は社会の宝」と考える、子宝の思想がある。子供を社会の「公共財」と捉え、結婚の有無、子供の有無に関わらず、国民全体で子育てを支えていく、子宝文化の復活を提唱したい。
 具体的には子育て税のようなものを設けて、子供のいる世帯が子供のいない世帯より経済的に不利益にならないよう、子育て費用を国民全員で負担していくということである。家族手当の充実や第3子以降への手厚い子育て給付金の付与、世帯課税制度導入の検討など、多子世帯への税制面での優遇措置を行うことで、出生意欲のある子育て世帯を経済面で支えることが必要である。
 また社会保障における世代間の再分配の公平性という観点から、高齢者層に手厚い社会保障を若年者層にシフトさせていく必要がある。そのためには、国民全体で子育てを支援していくという理念を共有する必要がある。

(4)仕事・結婚・出産に関する「ライフデザイン教育」の実施

 近年、自治体やNPOの主催で、高校生を対象に将来の仕事や結婚、出産の情報を伝えるライフデザイン講座、小・中学校では乳児とのふれあい体験教育を通して、結婚し家族を持つことのすばらしさを伝える講座が開催されている。
 ニッセイ基礎研究所研究員の天野馨南子氏によると、こうした赤ちゃんとのふれあい体験を通して、子供たちの結婚願望が高まり、実際に結婚する原動力になっているという。
 また高所得の女性ほど未婚率が高く、低所得の男性ほど未婚率が高くなる傾向にある。所得や学歴を選択条件の優位に置くという結婚行動が変わらないと、未婚化はさらに進む。こうした若者の結婚選択を改善するには、若い10代から結婚と出産に関する正しい知識と家族を持つことの意義を伝える教育が重要である。
 日本は妊娠・出産に関する正しい知識を伝える妊孕教育が諸外国と比べて立ち遅れている。あらゆる機会を通じて結婚・出産の意義と喜びを伝えていく必要がある。ライフデザイン教育は10代の望まない妊娠・出産を抑制することにもなる。さらに離婚など夫婦関係の破たんを回避させ、結婚生活をより安定的に保つことにもつながる。
 小学校高学年から各学年の発達段階に応じたカリキュラムを作成し、「ライフデザイン教育」を学校教育の必須科目とすることを提案したい。

(5)結婚・出産・子育てを価値視した多様なライフコースの保証

 女性の2人に1人が大学進学し、女性活躍が期待される社会において、仕事と子育てを両立できる環境がなければ、平均初婚年齢・第一子出産年齢が高くなるのは当然である。仕事と子育ての両立はもとより、大学在学中であっても結婚し、家族を持つという選択が可能な社会でなければならない。あるいは結婚、出産・子育て後に大学進学し卒業、就職するというように、結婚・出産・子育てが人生のリスク・損失ではなく、一つのキャリアとして評価される社会でなければならない。
 社会及び個人において、結婚・出産・子育てが価値視され、多様なライフコースの選択が可能な社会は、晩婚・晩産化の流れを変えることができる。まず出産・子育てを全面的に支援する「子供を産み育てやすい国」との共通認識を持てるようにすることが必要だろう。

(6)行政が家族を積極的に支援できる法的な整備

 日本民法(家族法)は、諸外国の民法と比較した時、家族への国家の介入に消極的、または警戒心が強いという所に大きな特徴がある。そのため出生促進的な人口政策への抵抗感も強く、有効な対策を打つことができなかった。
 今日、家庭・地域社会の教育力の低下は著しく、子育ての劣化が進んでいる。急増する児童虐待予防の観点からも、行政が家庭の問題に介入できる法的整備は不可欠である。全国の自治体が進める「家庭教育支援条例」や政府が検討する「家庭教育支援法」は、親としての役割と責任を果たすことができるよう、家庭の教育力の向上を目的とする。行政が親教育に積極的に関与することで、次世代育成力が向上し、子育て家庭の出生意欲の促進につながる。

(7)「家族省(家庭省)」の設置を

 人口減少は緊急かつ最優先で取り組むべき最重要課題である。少子化問題に矮小化するのではなく、家族政策として国を挙げて取り組む体制を整える必要がある。しかし、現在の日本ではその体制が十分整備されているとは言い難い。
 欧米を見るとフランスの「家族・児童・権利省」(家族省)、ドイツの「連邦家庭省」など、児童や家族に関する政策を担当する新たな省を設け、家族政策の決定と遂行に大きな役割を果たしている。
 一方、日本には児童や家族に関する専門の政策省庁がない。政策が迅速かつ実効性あるものになるためには、司令塔となり得る「家庭省」「家族省」のような省を新たに設置、専任の少子化担当大臣を任命し、関係組織や十分な予算が確保されなければならない。

(8)憲法24条に「家族保護条項」を加える

 憲法学者の西修氏(駒澤大学名誉教授)によると、1990年以降、世界で制定された新憲法のうち、8割以上の国の憲法に、家族を保護する規定が明記されているという。世界的には法律などで「家族(家庭)の尊重」を位置付けることが大勢となっている。例えば、ドイツ基本法には「婚姻および家族は国家秩序の特別の保護を受ける」、イタリア憲法は「共和国は婚姻に基づく自然的結合体としての家族の諸権利を認める」と明記している。
 日本は戦後GHQが作成した日本国憲法の原案にあった「家族は人類共通の社会の基本である」といった意味の文言が削除された経緯がある。総合的な家族政策に取り組んでいく上で、家族を保護する法的な整備は不可欠である。
 世界人権宣言第16条3項には「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する」と謳われている。現行憲法24条に、第3項として世界人権宣言16条3項の内容を加え、家族保護の規定を設けることを検討すべきである。

 

●参考文献
岩澤美帆論説「結婚と出生―出産離れがもたらす未婚化―」(日本人口学会第66回大会、2014.6.14)
江口隆裕論説「フランス少子化対策の系譜」(筑波ロー・ジャーナル6号、2009年)
河野稠果著『人口学への招待』(中公新書、2007年)
清水泰幸『フランス社会保障制度の現状と課題』海外社会保障研究 Winter2007 no.161
水野紀子『児童虐待への法的対応と親権制限のあり方』、季刊・社会保障研究 VOL.45 NO.4
水野紀子編『社会法制・家族法制における国家の介入』(有斐閣、2013年)
内閣府『平成28年版少子化社会対策白書』
内閣府『選択する未来―人口統計から見えてくる未来像―』
赤川 学著『子どもが減って何が悪いか!』(ちくま新書、2004年)
赤川 学著『これが答えだ!少子化問題』(ちくま新書、2017年)
金子勇著『日本の子育て共同参画社会』(ミネルヴァ書房、2016年)
河合雅司著、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書、2015年)
澤口俊之・南伸坊著『平然と車内で化粧する脳』(扶桑社、2004年)
日本財団子どもの貧困対策チーム著『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす』(文春新書、2016年)
平尾桂子著『「見えざる手」と「見えざる心」』(上智大学出版、2015年)
増田雅暢著『これでいいのか少子化対策』(ミネルヴァ書房、2008年)
松田茂樹著『少子化論―なぜまだ結婚・出産しやすい国にならないのか』(勁草書房、2013年)
宮本みち子・大江守之編著『人口減少社会の構想』(放送大学教育振興会、2017年)
エマニエル・トッド著『世界の多様性―家族構造と近代性』(藤原書店、2008年)
天野馨南子『長期少子化社会に潜む負のループ「赤ちゃんを知らない」』子どもたち」(ニッセイ基礎研究所、2017年)

●主な研究会、ヒアリング等
大泉博子「厚生労働省の少子化対策の検証-問題点と今後の展望」2015年10月2日
小野塚久枝「家庭基盤充実に資する相続税制とは」2016年7月30日
原俊彦「少子化対策としての家族形成支援策」2017年3月14日
増田雅暢「少子化対策はなぜ成果をあげないのか-『日本型家族政策』の考察」2017年7月18日

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