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政策オピニオン

危機の韓半島情勢

―日米韓の対応―拓殖大学客員研究員(元韓国国防省分析官)、韓国統一振興院専任教授 高永喆

2017.08.22

はじめに

 今年に入ってから北朝鮮はたびたびミサイル発射を繰り返しているが、2017年5月の韓国大統領選挙を前後してトランプ政権は、空母を朝鮮半島近海に派遣するなど米朝間において緊張状態が高まりつつある。
 戦後の北朝鮮の歴史を振り返ってみれば、これまでも北朝鮮による核開発疑惑やミサイルの発射をめぐって危機局面は何度かあった。そこでそうした経緯を踏まえて、現在の北朝鮮が足早に進める核実験・ミサイル発射の現状と今後の展望について分析してみたい。飲める水が足りない情報の洪水時代を迎えて本稿がミネラル水になれば幸いである。

1.瀬戸際外交

 米朝が緊迫する中でにらみ合いの状態がエスカレートしており、何か大がかりな軍事衝突が発生するのではとの憂慮の声がある。
 北朝鮮外交の過去の例を見ると、これまで次のようなプロセスをたどることが多かった。

 対話⇒対話決裂⇒緊張状態⇒北朝鮮による軍事挑発⇒対話再開⇒対話決裂・・・

 このような悪循環の繰り返しだったと言っても過言ではない。米朝の緊張状態がエスカレートした場合に北朝鮮は、「窮鼠、猫を噛む」の諺の如く、正面突破の目的で軍事的挑発行動に出る可能性があるとの見方も出ている。
 現実的予測としては、中距離弾道ミサイル発射、ICBM弾道ミサイル、第6次核実験を行うだろう。核実験と大陸間道弾ミサイル発射は一つのパッケージになっているので、最後にはICBMの発射に至る可能性が高い。
 それに加えて北朝鮮が核攻撃された場合、核報復が出来る潜水艦搭載核ミサイル(SLBM)が整える段階が米国にとってのレッド・ラインになると言われている。
 これまでの米朝間の四半世紀に及ぶ対話・交渉の歴史を振り返るときに、米国はこれ以上騙されないという教訓を得て、トランプ政権は、オバマ政権8年間の「戦略的忍耐は終わった」と宣言した。
 一つのシナリオとして、米国はさらに北朝鮮に対して空母を始めとする軍事力を誇示して圧力を加え、そこでもし北朝鮮が大がかりな核実験、あるいは米本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を再発射した場合、それをチャンスと受けとめて(それを口実に)軍事行動に踏み切る可能性があると専門家の間でよく言われている。
 その先例としてよく挙げられるのが、戦前の日本に対して石油など天然資源の禁輸措置及び経済 制裁を強めて、日本が暴発(真珠湾攻撃)するように仕向けたという話である。つまり米国が戦争に踏み切る大義名分を立てるために、日本を追い込んだというわけである。北朝鮮に対してもそんな政策をとっているのではないかといわれている。もしその通りになれば、米国は国民的な支持を得て開戦することも十分ありうる話だ。

2.トランプ大統領の独特な政治手法

 トランプ大統領の政治手法についての評価は両極端に分かれている。そこで北朝鮮問題を考える上でもトランプ政権の戦略を見極めることは非常に重要なので、トランプ大統領の国家経営スタイルについてみておく。
 一般に国のトップに立つ人は、国家公務員であったり官僚だったりすることが多いが、彼らは国から俸給をもらっているので、ある面では必死でがんばらなくてもいいという生活スタイルが身についている。
 しかし、ビジネス経営の世界はそういうわけにはいかない。具体的に売り上げが伸びて経営が成り立たないと、最終的には経営破綻に至るし、従業員であればリストラされることになる。つまり死ぬか 生きるかの厳しい競争世界で戦うのが経済の世界の現実だ。
 トランプ大統領はビジネスマンとして生きてきた人物であり、経営破綻の経験もあった。そして彼はときには相手を騙したり、攻撃的な経営を展開して利益を上げるなどの経営スタイルであった。こうしたやり方が身についているトランプ大統領は、その経営スタイルを安保戦略にも応用して展開するのではないか。このような見方をする人がいる。その前提で考えてみよう。
 トランプ大統領が、一人の国家経営戦略家として、攻撃的で冒険的な軍事行動に踏み切ると思ったら、ソフトランディング政策をとる可能性もあり得る。
 例えば、米朝関係がチキン・ゲームのように展開して危機に陥り、クライマッ クスを迎えたところで、(中国の仲介が入って)劇的に米朝対話が行われ米朝合意が実現できるというシナリオも考えられる。
 ちょうど1994年の北朝鮮核危機のときがその先例になると思うが、米朝の緊張から危機に至ったクライマックスの段階で核枠組み合意が実現された。似たようなことが再現されないとも限らない。現在の状況は、米国が北朝鮮にボールを既に投げてあるので、中国の動きが注目されるところである。
 トランプ大統領はプロのビジネスマンとして国家戦略を展開し、国際政治、安全保障面での駆け引きを展開する可能性もある。
 例えば、米国が日本・韓国の核武装化という外交カードを中国に示して、(核ドミノが嫌なら)北朝鮮の核兵器の廃棄をやっても らいたい、という駆け引きである。中国が一番恐れていることは、韓国や日本の核武装だから、全く根拠なしというわけではない。

3.北朝鮮の弾道ミサイルの脅威

 金正恩党委員長は、最高指導者になってから今日に至るまでの間、それまでと比べてはるかに多くのミサイル発射を行っている。その実態と現実を分析してみる。
 従来のスカッドミサイルはソウルまで3分で着弾するが、その改良型である同ER型(射程距離1000キロ)は釜山まで5分で着弾するといわれている。さらにノドンミサイルは、東京まで8分で着弾するが、在日米軍基地に照準を定めている。2017年3月、4発のミサイルを発射したが、これは日本向け、とくに山口県にある米海兵隊岩国航空基地を狙った発射実 験だった。
 北朝鮮はこれまで(2016年4月以降、17年3月現在)中距離弾道ミサイル「ムスダン」(射程距離3500キロ)を9回発射したが、そのうち8回は空中爆発分解し失敗した。その原因としては、北朝鮮の技術力の問題もあるだろうが、米国がサイバー戦・電子戦を展開した可能性も高いと米メディアや欧米軍事専門家は指摘する。
 例えば、米軍は有人または無人の電子攪乱機を飛ばし妨害電波を送り、北朝鮮の有線・無線、パソコンなどのネットワークを麻痺させるのである。それによって指揮命令系統が遮断され、ミサイルシステムが制御不可能になり、発射失敗につながったという見方である。
 かつて1990年湾岸戦争のときに、米軍は先端電子攪乱機を飛ばして妨害電波 を送り、イラク軍のC4ISR(指揮・通信・統制・電算網・情報・捜索・偵察)網を麻痺させ、ピンポイント空爆開始2時間で勝利を収めた。譬えてみれば、外科手術を前に麻酔を行い、外科手術を短時間で成功させるようなものだ。それでこれを「外科手術攻撃」(Surgical Strike)と呼んでいる。その他、米軍の先端兵器技術は、27年前と比較できないほど進化している。日米韓のミサイル防衛能力に関して言うと、日米韓のイージス弾道ミサイル防衛システム(BMD)はかなり整備されている。
 韓国は(航空機や対艦ミサイルを撃墜する防空ミサイルである)SM2をもっているが、弾道ミサイルを迎撃できるSM3も近々登場するといわれている。また地上型のパトリオット対空システム(PAC-3など)のほかに、現在、在韓米軍にTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)が配備されつつあり、そうした先端技術を中心に日米韓の連携が進めば、迎撃能力はかなり向上することになる。
 一方、北朝鮮軍の装備はほとんど1960、70年代のものであり、本来なら廃棄処理して、新しい兵器にすべきところだが、予算がないために40年以上ずっと使っている。トラックや戦車など半数以上が中古車といわれている。今年4月の軍事パレードのスタートラインで、戦車と装甲車6台くらいが故障を起こして、炎上して煙を出して止まった姿が写真に撮影されていた。
 軍事パレードに登場した北朝鮮のICBMを類似型のロシアのICBMと比べると、ロシア製のものには赤い消化器がついているが、北朝鮮のICBMには消化器がついていないこと、そしてヘッドの部分に仕切り線がないことなどを総合すると、偽物ではないかとの指摘がある。

4.韓国の国内政治情勢の展望

 戦後の韓国歴代大統領をみると、清廉潔白な大統領は、李承晩、朴正煕、崔圭夏であった。全斗煥、盧泰愚は本人が服役し、金泳三、金大中の息子たちは逮捕服役した。盧武鉉は一家捜査中に本人が自殺。李明博は4大江開発疑惑と実兄が服役中となるなど、ほとんどが悲惨な結末を迎えている。非常に残念な思いだ。
 歴代大統領を自動車運転に譬えたあるメディアのコメントは言いえて妙だ。
  李承晩:ペーパー・ドライバー(初歩運転)
  朴正煕:模範運転
  崔圭夏:代理運転
  全斗煥:乱暴運転
  盧泰愚:居眠り運転
  金泳三:飲酒運転(*金泳三政権時にはさまざまな大事故が発生した)
  金大中:逆走運転
  盧武鉉:あて逃げ運転
  李明博:スピード違反
  朴槿恵:「われわれは安全運転をしましょう」と言ったが、現在裁判中。

 人の書をみると、そこにはその人の人柄が表 れている。朴正煕大統領の書に「国力培養統一成就」「私の一生は祖国と民族のために」といったものがあるが、同大統領の人格がにじみ出ているように思う。
 昨秋(2016年)、朴槿恵大統領に対する弾劾が始まり、ソウルをはじめとして全国でろうそくデモ・集会が開かれ、多くの国民が崔順実事件に対する不満を表明した。その背景を見てみたい。
 槿恵大統領を40年以上にわたって面倒見てくれた崔順実が、財閥企業から多額の献金を受け取ったことは事実であったが、朴槿恵大統領が個人的にそれらを横領した痕跡はない。
 とくに彼女は、父親の朴正煕から清廉潔白な人生を送るよう言われていたからか、自分の親族である弟妹さえ大統領府への出入りを禁止した。朴槿恵大統領は、「不通領」ともいわれたように、ほとんど人と会わなかった。
 それは彼女の過去、すなわち両親が暗殺されたという悲劇の人生を送り、彼女自身選挙運動期間に暴徒に襲われてカッターで切りつけられるという事件もあって人間不信があったからだろう。また彼女は結婚もできず、さびしい人生を送った。こうした彼女の人生によって彼女は、誰も信頼できず一人ぼっちのさびしさに、崔順実というでたらめ友人にはまってしまい、足が抜けない操り人形になってしまったのではないか。ここで韓国の大統領制の課題についてみてみたい。
 政治も大自然の理と同じく、牽制と均衡(Check and Balance)および力の均衡(Balance of Power)の原則によって成り立っており、そのような宇宙の自然秩序を無視すれば大災難が襲ってくる。韓国の大統領制は権力が集中しており、力のバランスが崩れ沈没の危機にあるといっても過言ではない。崔順実事件は、大統領制の権力集中が招いた政治的な大災害といえよう。
 具体的に言えば、韓国大統領制の欠点として、5年任期制はレイムダックを招きやすく、政策の一貫性の欠如、無責任さなどが挙げられている。そのために近年、改憲論が活発化して、4年2期重任制と内閣責任制に基づく分権型大統領制への移行などの必要性が言及されている。
 朴槿恵の私生活を見ればわかるが、ほとんど普通の中間層と同じ生活なのに、「朴槿恵はわれわれ庶民とは違うお姫様 だ。われわれ庶民の生活は全然分からない。隠し財産がたくさんあり、巨額の資産を海外に隠匿している」などと、ウソの噂が垂れ流された結果、国民はそれに流されてしまったようだ。
 その背景には、深刻な韓国社会の格差、とくに若者の高い失業率などを過大に宣伝して、政府や大統領に対する不満をあおったことがあるように思う。また伝統的に韓国では、ごく少数の財閥・富裕層と権力者は憧れのシンボルでありながら、その一方には恨みの対象でもあるという矛盾した心情がある。その標的として朴槿恵が乗せられたのではないか。
 その背後には、従北勢力(親北左派)による事実歪曲とろうそくデモの扇動などがあったことも事実だ。そして北朝鮮は総体的 には後進国であるが、サイバー攻撃、サイバー心理戦、サイバーテロなどの面ではむしろ先進国並みだ。彼らは韓国人や日本人になりすまして、韓国のネット世界に巧みに入り込み、ブログ、SNSに書き込んだりして、慰安婦問題や竹島(独島)問題をあおっている。
 近年の世界的傾向であるニューメディアの発達が、こうした社会変化に大きな影響を与えた。
 昨年の米大統領選挙でも明らかになったが、従来の媒体であった新聞、雑誌などオールドメディアの影響力が低下し、代わってSNS(FaceBook、LINE、Kakao Talk、Twitter、YouTubeなど)が若者層を中心に大きな力を発揮するようになった。北朝鮮はそうしたニューメディア戦略に力を注いでおり、韓国人などになりすまして情報心理戦を展開している。今回の朴槿恵大統領の弾劾も、北朝鮮の情報心理戦の影響が半分以上あったのではないかと見ている。
 エコノミストの話によれば“何処の国でも財閥や富裕層は全体国民の約1%しかない”と言われている(北朝鮮も1%が特権層)。99%の一般庶民層(内25%が中間層)は財閥と富裕層に対する違和感を抱えており格差社会に対する不平不満が潜在されている。従って、一般庶民層が抱えている格差社会に対する違和感を扇動して政権を争奪する先例が多い。韓国の保守派を代表する朴槿恵大統領が罷免された背景にはそう言った北朝鮮の綿密なサイバー情報心理戦の成果である可能性が高い。

(本稿は、2017年4月22日に開催した「政策研究会」における発題内容を整理してまとめたものである。)

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