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政策オピニオン

『海洋立国』日本の戦略考える

―海洋エネルギー利用の可能性と課題―東京大学名誉教授 木下 健

海洋再生エネルギーは「都市再生」「地域振興」の鍵

 海洋エネルギー資源の利用によって人類が直面するエネルギー問題と地球環境問題を一体的に解決する方策・手段を確立するため、2008年に「一般社団法人 海洋エネルギー資源利用推進機構」(OEAJ)を設立した。世界的にみると日本はこの分野で遅れており、同機構を通じて産官学協力のもとに推進する必要性を国民と政府に説明してきた。
 海洋エネルギー政策は地域振興と密接なつながりがある。それがこの分野に10年近く取り組んできた者としての実感である。海洋エネルギー開発、つまり海を利用してエネルギーを新しく生み出す場合、すでに海と関わっている人々との協力が必須である。かつての原子力発電所やコンビナートなどの臨海開発では、利益の一部を漁業関係者などに還元することを条件として提示してきた。通例は、漁業関係者への補償は過去数年間の収入平均に何割かを増して支払うものたが、上の開発例ではその金額が数百倍にもなった歴史的事実もある。
 再生エネルギーとしての海洋エネルギーは一般にコストが高い。ところが、再生エネルギーは原料費が安いはずだから安く分配せよ、との意見が安易に聞かれる。これは誤解である。密度の高いエネルギーをできるだけ安く手に入れて利用してきたのが、エネルギー利用の歴史だ。従来は得られなかった再生エネルギーに手を付けるということは、コストもかさみ苦労するということである。数百倍の補償を払って行うような開発ではない。そこで私はこの開発を、協調して「都市再生」「地域振興」に取り組む材料としてアプローチしてきたのである。
 「都市再生」「地域振興」の鍵は「“もの”から“こと”へ」である。「“箱もの作り”から“物語作り”へ」と言えば、より分かりやすいかもしれない。私は技術者としてさらに工学的な意味を込め、「人の繋がりをデザインすることへ」と表現している。
 海洋エネルギー資源利用推進機構を設立して多くの人々と接してみると、建築の分野ではすでにcivic pride(市民としての誇り)という概念の研究の歴史とともに、この概念を介した「都市再生」「地域振興」のアプローチも行われ、多数の先行事例があることがわかった。19世紀の産業革命以降の成功事例には共通項があり、それこそがcivic prideの考え方そのものであった。
 今日、21世紀のキーワードとして「安全」「環境」が挙げられるが、再生エネルギーはそれらに好適なテーマである。再生エネルギーの主要なものは、太陽エネルギー起源であり、地球が受ける太陽光のエネルギーは単純には地上の表面積に比例する。そして地表の3分の2は海であり、したがって再生エネルギーは海のエネルギーをどう利用するかが鍵となる。
 漁業権者との交渉も含め、再生エネルギーの開発利用を地域がどのように受け入れていくか(social acceptance)が課題となる。事業者が直接、当該地域に進出しようとすれば、交渉に数年、さらに環境評価に数年を要する。その期間、予算と人材を割き続けることは非経済的である。そのような障壁を緩和する目的で、私はアカデミアとしての役割を考えた。
 漁業権者との交渉は負担だと捉えられがちだが、海洋と関わりを持ってきた人々との協力を通じて機会を共創するという意味において、それを肯定的に捉えることができる。

海洋再生エネルギー利用の種類

 海洋再生エネルギー利用の世界の現状はどうか。洋上風力発電は海洋再生エネルギーの一つである。洋上風力発電には「着床式」と「浮体式」の二種類がある。着床式はすでに商用化が定着している。世界各国の空港でも飛行機の着陸時に、何十もの風車を備えた大々的な施設を見ることができる。ところがこの着床式を設置する適地に限りがみえてきたため、世界中で次第に浮体式が開発されるようになった。今まさに商用化して市場に参入しようとする時期に差しかかっている。日本でも世界の潮流に遅れまいと、長崎県の五島及び福島県沖で商用化に取り組んでいる。
 潮流発電は、月の引力によって6時間ごとに変化する潮流を利用する。これまで各地で商用機の実験が行われ、イギリスでは今年から実際に商用化が始まった。スコットランドの最北端の海岸にその施設があり、最終的に原子力発電所1基分程度の発電量(潮流発電機10基から20基で達成可能)を目標に、現在は初期4基が稼働している。潮流発電はすでに現実社会の発電方法となっている。
 海流発電もある。潮流発電は潮の向きによって発電できたり停止したりして、一定でないことがエネルギー源としての弱点である。これに比べ海流発電は、流速が常に一定方向に安定している場所を選ぶことで、安定電源を供給することができる。この分野は日本が先進的に実験を進めている。
 波力発電は再生エネルギー研究の中でもっとも歴史が古く、技術者たちの興味を引く分野でもある。私自身も30年以上にわたって取り組んできた。しかし、残念ながら商用にこぎつけることが難しく、現在はプレ商用機の実証試験段階である。
 海洋温度差発電(OTEC)は圧倒的に出力が一定で安定しており、電力各社の関心も高い。海洋表層の温水と深海の冷水の温度差を利用する発電方法だが、やはり開発段階としてはプレ商用機の実証試験段階である。日本国内では沖縄や小笠原諸島海域で条件が整いやすいことからもわかるように、日本よりも南の諸国で発達しやすい発電方法である。
 海洋温度差発電はスケールメリットが出やすく、超大型で効率が良い一方、小型では経済性に乏しいという特徴がある。3年ほど前に研究開発が盛んになり、昨今再び盛んになっているのは、アメリカ海軍やフランス海軍などが発電施設の移動可能性に注目しているためである。日本での研究段階も同レベルだが、研究主体は防衛省ではなく大学である。
 海洋再生エネルギーを利用した各種発電方法は、技術開発やインフラ開発のメリットに共有性があるため、開発評価がひとまとめになされている。例えばある技術の開発コストが改善できれば、その成果が海洋再生エネルギー開発全般に及ぶのである。特に、現在、沖合着床式風力発電の大規模開発が検討されているが、基礎構造物、敷設、保守管理等の海洋技術、海底ケーブル網、拠点港等のインフラの共通点から、その開発コスト削減の成り行きが海洋再生エネルギー全体の行く末を担っている。これは各国の研究者の共通認識である。

浮体式風力発電は日本の「最終バス」

 ドイツではすでに再生エネルギーが総発電量の30%を占め、瞬時値では100%すら達成している。ところが日本では、福島第一原発事故が発生した2011年3月11日の東日本大震災の前の時点で、再生エネルギーによる発電は水力を除いて1%に満たなかった。5年が経過した2016年時点でも4.3%に過ぎない。日本では再生エネルギーの全体的な開発が遅々として進まないことが大きな課題となっている。
 日本は東日本大震災を再生エネルギーへの取り組みを真剣に考える契機とすべきであった。しかし現実には、むしろ日本以外の国々の方が深刻に受け止め、再生エネルギーの利用割合を数倍から数十倍に高めてきた。震災後、日本が世界に取り残される形となっているのは憂慮すべき問題である。
 その主な理由は、日本が地理的に急峻な山々が多く平地が限られ、再生エネルギーの基本となる風力発電施設を建設する適地が諸外国ほど多くないことである。ところが、幸いにも昨今、先進する欧州各国は風力発電の施設形態を着床式から浮体式に移行しつつある。このトレンドこそが日本にとっての「最終バス」である。もしこの最終バスに乗り遅れれば、いよいよ日本は再生エネルギー開発の道を行くことができなくなるだろう。
 日本の国土は平坦な陸地、また周辺海域では浅瀬が少ない一方、近海にも深海が控えている特徴をもつ。海岸線も長い。これらの条件は浮体式風力発電推進にこそ有利である。また古くから重工業や造船業が発達し、世界的にみて多くの実績をもつ。今こそ最終バスに乗り遅れるな、と言いたい。

日本における海洋再生エネルギー利用の現状

 こうして遅々とした状況の中ではあるが、日本ですでに始動している取り組みもある。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の洋上風力発電実証研究プロジェクトでは、2012年に日本初の洋上沖合風力発電所として三菱重工製の風車(着床式、出力2.4MW、1基)を千葉県銚子市沖(離岸距離約3.1km水深約11.9m)に建設した。また2013年には同プロジェクトで日本製鋼所製の風車(着床式、出力2MW、1基)を福岡県北九州市沖(離岸約1.3km水深約14m)に建設した。同様の風車はすでに世界で何十万基も設置されているが、日本ではようやく電力会社や大手ゼネコンが重い腰を上げたところである。
 一方、浮体式は2011年から2015年にかけて、環境省の事業として長崎県五島市沖に出力2MW級1基が建設された。この事業は地域協調構築の実証調査がメインテーマの一つであった。また環境省の事業であることから環境影響評価にも焦点が当てられた。発電施設が発する音の魚群への影響、海域の濁りによる影響などの詳細なデータが集められ、あらゆる観点から問題点が精査された。

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 また東日本大震災の後、経済産業省・資源エネルギー庁が福島県の復興に向けて「福島浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」を推進している。前述の各事例が1基ずつであったのに対し、この事業では合計3基(7MW、5MW、2MW各1基)の風力発電設備で構成される。
 これらの実証研究で得られた経験の一つは、日本で事業を実施する場合の非常なコスト高である。したがって、評価報告が各事業者の今後の取り組み意欲を低下させた面もある。海洋での巨大施設の敷設は重機の運搬を含め、時間も経費もかかる。例えば、台風によって敷設船が一週間の待機を余儀なくされると、一日当たり数千万円の賃料が無駄になってしまう。欧州と比べ5倍~10倍のコストがかかることがわかったのである。
 一方、成果としては、例えば福島県沖の事業で採用された三菱重工業の「V字型セミサブ浮体」は、従来のパイプ構造ではなく平板を用いた「スティフナ付き薄板構造」を導入している。薄板に補強材を施すこの技術は、使用する鉄の量を最小にして作業量を抑えながら最大の強度を引き出すという、長い造船業の歴史の中で培われたコスト節減の知恵の結晶ともいえるもので、画期的な技術革新であった。専門家の目から見れば、より経済性の優れた開発が明らかに進んでいると言える。
 また風力発電においては、高さが100メートルを越える大型風車の組み立てを現地で行う必要がある。波のある海上で巨大な構造物をミリ単位の正確さで組み立てなければならず、コストのかかる作業となる。実証研究事業を通じ、どこで経費削減すべきかが次第に明らかになったのである。

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 ところで、歴史的に海洋エネルギー利用の発祥地は日本であった。海軍兵学校を卒業し防衛庁技術研究所本部に所属していた益田善雄が、航路標識ブイ(OWC)に光を灯して見やすくしたいとの発想から、1964年に世界で初めて波力発電の実用に成功した。洋上に浮かぶブイに必要な電源のために重油を注入するのは非経済的であり、その場で揺れる波を利用した発光ブイを製品化したのである。この発光ブイは世界中の洋上で利用されるようになり、日本はこの分野で世界一のシェアを占める。

 

欧州の洋上風力発電の現状

 日本で洋上風力発電の導入実績は計47.2MWであるのに対し、欧州では計6,542MWである。この差は子供と大人、あるいはアリとゾウにも例えられる。まずは現状にこれほど違いがあることを認識しなくてはならない。しかし現在、技術的に着床式から浮体式への移行期にあることから、日本としてはこのタイミングを活かして欧州に追いつく政策をとることが必要だ。
 欧州の洋上風力発電の中心地はドイツ北西部の港湾都市ブレーマーハーフェンである。風力エネルギー業界のネットワーク組織が存在し、ドイツの洋上風力産業の窓口となっている。300以上の企業や研究所が会員となっており、風力発電産業のバリューチェーンをすべて網羅している。遠洋漁業等の衰退で、かつては失業率の高い地域であった同市が、主要な洋上風力発電のノウハウの集結地となっているのである。
 イギリスに目を向けると、政府主導で2001年から洋上風力発電計画「ラウンド1~3」が段階的に進められている。同国では大陸棚の所有権が王室にあり、国王の不動産や海域の資産管理を行う政府系特殊法人が各事業者に開発区域をリースする形式をとっている。排他的経済水域全体の分譲計画の中で開発事業者を募り、大規模な開発を行っている。現在は2010年~2020年までの「ラウンド3」の事業が進行中だが、このイギリスの開発段階を日本に当てはめるならば、まだ最初の「ラウンド1」に相当する段階と言える。
 フランスは、総発電電力量に占める原子力発電の割合が最も高い国である(2014年現在、約77%)。それでも日本の福島第一原発事故を受け、エネルギー消費量に占める再生エネルギーの比率を2020年に23%にすることを国家の方針として決めた。すると、中央集権的な文化が歴史的に根付いているためか、大手の原発メーカーや重工メーカーがこの国家目標に向けた主役として動き出した。既得権益を持つ企業が反発するのではなく、むしろ自ら再生エネルギーへの舵切りに取り組み、エネルギー産業の担い手として生き残ろうと努力しているのだ。国家のエネルギー政策とそれに対応する企業のリスク管理の一つの好例と言える。実際に現地で7MWの風車を見学する機会があったが、年間100基の規模で量産する生産ラインがほぼ完成していた。

サプライチェーンの現地育成の重要性

 ここで海洋エネルギー開発におけるサプライチェーンを現地育成することの重要性を強調しておきたい。自動車産業も材料部品の調達から組み立てを経て製品化するまでのネットワークのすそ野が広いが、海洋エネルギー開発ではそれ以上に広くなる。大型の製品を現地調達することで経済性が高まるが、サプライチェーンに属する現地産業を育成する必要がある。それによって地域全体の振興が促進される。
 スコットランドにあるアクアテラという会社は、こうした観点から新しく設立された会社で、海洋エネルギーを軸にした現地振興のグランドデザインを描くとともに、今や世界各国にある海洋エネルギーの開発拠点で顧客に対するコンサルティングや各種サポートを行っている。
 海洋エネルギー開発に関連した地域振興における別の一例は、漁業者から転身し、自ら船舶を所有して風力発電施設を設置する事業体を設立したケースである。この例となるグリーンマリン社はアクアテラ社と同様、スコットランドに拠点を置く。超大型の発電設備を専門施設で建造して遠距離の移送をすることは、実証研究段階ではやむを得ないが、本質的にはサプライチェーンの現地開発を促進すること、すなわち開発拠点の域内で材料調達、組み立て、海上移送を完結することを目指すべきである。発電施設を小規模に抑えながら、地域振興を促進してすべて現地でカバーできる開発を進めることがコストダウンのために肝要である。

英仏の先進的な潮流発電

 イギリスで今年から商用化される潮流発電は、スコットランド最北端部とその沖合のストローマ島の間の海峡で大西洋と北海を行き来する大潮流を利用する。その眺望は日本の明石海峡の渦潮をはるかに大きくしたような様相である。大きな幅の中を流れる豊富な水量、適度な水深、位置条件から選定されたこの海域の潮流発電は、これまでのところ世界最大の潮流発電プロジェクトであり、原子力発電所並みの発電が可能である。前述のイギリス政府系特殊法人クラウン・エステートから2010年に同海域の開発ライセンスを得たメイゲン社は、これまで15年間にわたって各社が進めてきた部分ごとの開発を一つにまとめることに成功した。同社には398MWまでの発電量が許可されているが、第一段階として2016年までに252MWの商用化段階を迎えている。
 沖合で発電した電力を陸上の施設に送電するには、波打ち際から沖合まで敷いた海底ケーブルを利用する。沖からの波が崩れ始める位置から汀線(ていせん)と呼ばれる波打ち際までの海域を砕波帯(さいはたい)と言う。この海域では波の影響を避けるために地中にケーブルを埋め、砕波帯よりも沖は波の影響が弱いので海中に直接敷く。
 このほか、潮流発電でもう一つ先進的な事例がフランスのブレスト市に工場をもつDCNS(オープンハイドロ社)である。発電機のタービン直径が16メートル、タービン・発電機部分の重量が300トンに達する2MW級の施設を製造中であり、私も現地で視察した。再生エネルギー一般に言えることであるが、潮流発電もエネルギー密度が低い発電方法であるため設備が巨大化する傾向があるが、これを小型の設備に設計し、設置するかという点で日本の技術的知恵を応用できるだろう。
 風力発電では洋上に巨大風車を設置するために一日2千万円かかる設置船が必要だが、潮流発電では前述の2MW級の設置コストは格段に安く経済性に優れていることから、イギリスに続いてフランスも商用化に向けて前進している。
 このような地域振興と結びついた海洋再生エネルギー開発を日本国内でも効率的に進めるため、個別事業体による個別地域への交渉という方法を避け、海洋エネルギー資源利用推進機構が内閣官房の海洋本部に働きかけて、サイトの適地が選定されている(新潟県、佐賀県、長崎県、沖縄県、岩手県)。岩手県を例にとれば釜石市が具体的な開発地域であり、地域振興の構想図を描きながら同地での海洋エネルギー開発の実施に向けた討議を進めている。

イギリスにおける人づくりの取り組み

 なぜ欧州では一般に日本よりもこの分野の開発が進むのか?何が日本に足りないのか?これを私なりに分析した。イギリスを例にとると、実証テスト施設としての「欧州海洋エネルギーセンター」(European Marine Energy Center)に試験用機を持ち込むことで実験が可能であるが、その際、まず実験内容をレベルアップするアイデアを創出するため、複数の大学と企業を含めた産学官連携の「洋上エネルギー工学博士課程」(Industrial Doctoral Course of Offshore Energy)という特別人材育成の大学院を開設して活用している。そうして生まれてくる数々のアイデアを「海洋エネルギー研究センター」(Center of Marine Energy Research)という基金募集・財政支援組織が採用する。そこで水槽でのシミュレーション・レベルの実験を通過すると、いよいよ実験機を製作する。その際に直接海に設置すると費用が莫大になるので、まず陸上の実験施設である「国立再生可能エネルギーセンター」(National Renewable Energy Center, NaREC)に持ち込む。
 このように、世界中の優秀な人材とアイデアを集め、EU、UK、スコットランドなどから公的資金の供給を受け、コストを抑えた陸上での試験を経たうえで、最終的に現地に設置する。このような仕組みが20年前から計画され、10年前から具体化されているのである。すべて英語を用いて 組織されるこの仕組みが魅力となって次第に軌道に乗り、世界中から優秀な人材が集まって全体が機能している。
 NaRECに目を向けると、ここには必ずしも多額の予算は必要ない。日本もぜひこれに倣うべきである。増速ギア、発電装置の性能・耐久試験を行うドライブトレイン試験施設で、風車では15MW、海流・潮流では3MWに対応するなど、実証試験機の1.5倍から2倍程度の出力に対応している。また翼の構造試験施設では疲労試験や破壊試験を行っており、現在の最大クラスの風車の翼長は80メートル程度であるのに対し、約100メートルまでカバーできるようになっている。

長崎における取り組み

 ここで長崎での取り組みについて報告したい。長崎には重工業や造船業の基盤があり、県も海洋再生エネルギー利用に熱心な姿勢を見せている。そこで県知事のもとに産官学が協力するコンソーシアムを立ち上げるための参謀本部を設立した。長崎大学には新たに「海洋未来イノベーション機構」を創設した。また私が学長を務める長崎総合科学大学は、海洋再生エネルギーの市場育成と開発を加速するため、コストダウンに資する技術開発を行う「海洋エネルギー研究センター」を創設した。
 当面の研究テーマは1)強潮流下での重量物(装置)敷設サポートロボットの開発、2)アクセスボート、設置船の研究、3)海底変電所システムの試設計(ウェットメイトコネクタ技術開発、系統連系を含む)、4)貯留技術と組み合わせた海底変電所システムの研究、5)再生エネルギーを利用した燃料電池船の開発、6)海洋エネルギー利用による海洋生態系回復の研究、7)潮流発電&波力発電のドライブトレインのベンチテスト装置の導入、となっている。特にアクセスボート、設置船の研究では、サスペンションを導入して波の揺れを吸収して揺れを抑えるボートの開発を進めていて、この技術開発についてはNHKなどでも放映された。

藻場再生による地域振興

 冒頭で、各地域で海洋再生エネルギー利用を推進するにあたり、漁業権者らと対話しながら、それを地域振興を担う創造的な機会と捉えてアイデアを具体化する意義について述べた。その好例が長崎での「下水汚泥減量化残滓を利用した藻場再生」である。
 長崎総合科学大学でよい成果を出しているメタサウルス(水熱反応技術と高温メタン発酵技術を組み合わせて下水汚泥を減量化する技術)を適用すると、里山の落ち葉が500年かけて作るフミン酸、フルボ酸を5時間のプラント反応後、10日間の熟成で生成できることがわかった。この農工連携技術を活用して発電装置近傍の立ち入り禁止域に藻場を造成し、赤潮と礒焼けをなくして自然環境の改善に役立てることができる。それだけでなく、ここでできた海藻を餌にして雲丹や鮑の養殖を行い、新しい名産品を生み出そうと漁民らに提案したのである。こうして漁業協調によって社会受容性を創造するアイデアを実践したのである。
 メタサウルスの効果については、チンゲンサイを肥料なしで育てた場合とメタサウルス脱水残滓を肥料として育てた場合で、生育の度合いが目覚ましく異なることによって検証された。さらにこの脱水残滓の肥料をトマトに適用すると、クセの強い昔のトマトのような味わいを引き出したのである。私はトマト本来の味覚を実感し、この肥料生成技術の利用と応用に確信を持つことができた。

海生生物付着問題の解決策

 最後に、海洋開発につきものである海生生物付着問題への対策についても触れておきたい。これは潮流発電の際にとりわけ重要である。この付着生物は造船業者から見ると頑強なイメージがあるが、実際はひ弱である。イガイやフジツボが海洋構造物に付着するためには、その前に必ずヌル(バイオフィルム)が付着する。そのヌル膜による保護(PHで2の差を示す強力な膜効果をもつ)が海生生物付着の条件となっているのだ。すなわちヌルがついた時点でこれを殺してしまえば、海生生物の付着は防ぐことができるのである。火力発電所ではヌルの外から次亜塩素酸を撒いているが、私たちの方法ではこれを中に施す。つまり付着面近傍海水中の塩素イオンをわずか+1.3V以上の電圧で電気分解してClO-(次亜塩素酸イオン)を生成し、それがバイオフィルムの微生物を殺菌することで海生生物の付着を未然に防ぐのである。電気分解用の通電の程度に関しては実験の結果、3日おきに20分ずつで十分目的を果たすことがわかった。この原理は板にもロープにも適用できる。
 このように海洋再生エネルギー開発の過程では、発電自体に取り組みながら同時に周辺事項の整備によってコストダウンを図り、地域の関係者とも協調していく道を見つけることができるのである。

(本稿は、2017年1月23日に開催した「21世紀ビジョンの会」における発題を整理してまとめたものである。)

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