トップイメージ
policy10
政策提言

戦略的朝鮮半島政策と日韓トンネル国家事業化への提言

2017.02.16
 

1.急がれる戦略的な朝鮮半島政策の構築

(1)朝鮮半島情勢をより長期的かつ多角的に分析
 激動する東アジア情勢の下、わが国が限られた国力の中で最大限の国益実現と北東アジアの平和構築を図るには、周辺諸国との関係においても、これまで以上に戦略的な外交政策を展開することが必要となっている。なかでも一衣帯水の関係にある朝鮮半島は、日本の安全保障に重大な影響を及ぼす地域であり、その地政的な重要性に鑑みれば、戦略的な外交政策の確立が最も急がれる地域である。
 国家の外交政策が「戦略的」であるためには、地政的な要因に目配せするとともに、長期的な視座から国際関係や関係諸国の動向を把握する姿勢が不可欠である。戦略的な対朝鮮半島政策を進めるにあたっても、過去の植民地支配や慰安婦問題等歴史に起因する諸問題の克服とともに、未来志向的であることが求められる。
 日本が戦略的な対朝鮮半島外交を展開するにあたっては、南北分断の現状を恒久不変の姿として固定的先験的に捉えるのではなく、南北関係の推移展望や朝鮮半島を取り巻く国際関係の将来変化など国際政治の潮流とダイナミズムに目を向け、朝鮮半島情勢をより長期的かつ多角的に分析しなければならない。即ち、現状への対処に軸足を置いた状況対応型の外交スタイルを超えて、近い将来における北朝鮮の体制変化や南北統一の可能性をも想定し、視野に入れた朝鮮半島政策を打ち出す必要があるということである。
 朝鮮半島の南北分断状況に終止符が打たれ、一つの政治共同体の下に収束する場合、わが国としては、言うまでもなく韓国を主体とした朝鮮半島の平和的かつ民主的な統一でなければならない。それには、そのような情勢が芽生え、あるいは統一に向けた気運が熟し始めた際、わが国として適宜かつ効果的な政策遂行が可能となるよう十分な事前の準備と対応を怠ってはならない。
 韓国主導による南北の平和的統一実現に向かう場合、そのようなプロセスに日本が果たし得る役割、また具体的にとり得る主な政策を列挙すれば、概ね以下のような項目が挙げられるであろう。(1)政治・安全保障:強固な日韓・日米韓同盟の構築、北東アジア軍事バランスの安定、朝鮮半島有事に伴う邦人の保護・日本への移送、発生する難民の対策、朝鮮半島統一の際の秩序回復・武装解除支援等。(2)地域開発:北朝鮮地域の社会資本整備支援(インフラ整備)、資源開発への参加協力、民主主義システムの普及支援(制憲議会選挙の支援、民主主義教育等)、統一事業を進める韓国への財政支援等。
 このうち具体的にとり得る主な政策としては,政治安全保障面や北朝鮮の社会資本整備などの地域開発などがある。日本が早い段階から統一プロセスに関与するとともに、朝鮮半島北部の地域開発に積極的に関与参画し、朝鮮半島の経済発展を支援することは、日韓関係を緊密化させ、両国の関係改善と同盟強化に資するだけでなく、魅力あるビジネスチャンスを日本に提供することにもなる。人口の減少や高齢化のために日本国内での経済活動が縮小し、海外からの投資も減少しつつあるなか、朝鮮半島の平和的統一を果たした韓国に対する日本企業や日本資本の参加はわが国にとって大きな魅力を持つものである。

(2)朝鮮半島と日本の九州を将来一つの経済圏として立ち上げる
 かって九州は朝鮮半島や大陸に向かう日本の窓口であった。戦後、冷戦体制の中で九州と半島・大陸との交流接触は大きく減殺してしまった。だが冷戦後の今日、再び九州はアジアに向けた日本の窓口となりつつある。特に人の移動を伴う観光分野の伸びは目覚ましいものがある。この動きは、朝鮮半島の平和的統一が実現されればさらに加速化されるであろう。それゆえ、北東アジアにおける地域協力の視点から、社会資本整備を進める朝鮮半島と日本の九州を将来一つの経済圏として立ち上げることも検討に値しよう。そうした様々な政治経済的な可能性を好機として活かし、日本の国益実現と北東アジアの平和構築に向けた戦略的対韓外交の施策として、最も魅力に富むのが日韓海底トンネルの建設なのである。
 日韓トンネルの建設事業は、国土開発としては日本最後の、そして21世紀の日本が構想し得る最高にして最大の土木プロジェクトである。しかも、オリンピックや万国博覧会のような一過性のイベント開催事業に比して、より長期恒久的な政治経済的効果が期待できる。日本の歴史を変えるまさに世紀の事業であり、後世へのレガシーという面でも、この事業に勝る構想は存在しない。日韓トンネルの建設は、将来に対する夢や明るい未来感を描ききれていない現在の日本人に大きな夢と希望を与える事業であり、必ずや国民の強い理解と支持を得ることができよう。
 日韓トンネルの建設構想は既に過去1世紀にわたる歴史を持っており、長きにわたって提唱、検討が重ねられてきた経緯がある。

 

2.日韓トンネルの構想:これまでの経緯

(1)戦後における世界を繋ぐ平和のトンネル構想
 戦前には、日中戦争が激しさを増し、満州を含む中国大陸への物資輸送が急増するなか、東京と下関を結ぶ「新高速鉄道路線」(弾丸列車構想)を大陸まで延ばすことが検討された。日本と朝鮮半島を海底トンネルで結び、朝鮮半島から奉天を経て北京までを3日間で結ぶ全長3700キロに及ぶ壮大な国際鉄道の構想であった。しかし、太平洋戦争の勃発とその後の戦局の悪化で、工事や調査活動は難航、日本と韓国を結ぶ海底トンネルについても、具体的な建設計画を纏めることは出来なかった
 戦後は1980年7月、大林組が日韓トンネルの始・終点や建設方式等、具体的な建設案を盛り込んだ「ユーラシアドライブウェー(EURASIA DRIVEWAY)構想」を発表。このアイデアは、九州の佐賀県から壱岐までは海上橋梁、以降対馬までは海底トンネル、そして対馬の陸上区間を経て釜山までを海底トンネルで結ぶものであった。
 1981年11月、ソウルで開かれた「第10回国際科学統一会議」(ICUS)において、日本と韓国を結ぶ海底トンネルの建設が提言されたのを機に、日本において日韓トンネル建設に向けた調査活動が始まった。1982年には国際ハイウェイ建設事業団(2009年には一般財団法人国際ハイウェイ財団に改組)が創設され、各候補地域のボーリング調査に着手、翌年5月には「日韓トンネル研究会」という常設の民間研究組織が発足し、韓国や日本のトンネルや土木専門家による地形や地質等の調査・研究活動を積極的にサポートするようになった。
 政府間では、1990年5月に訪日した盧泰愚大統領は、韓国大統領として初の国会演説に臨み,その中でトンネル構想に触れ,「来る世紀には東京を出発した日本の青年が海底トンネルを通過して、ソウルの親友と一緒に北京とモスクワに、パリとロンドンに、大陸を結び世界を一つにつなぐ友情旅行を楽しむ時代を共に創造しよう」と述べた。盧泰愚大統領訪日の翌年、訪韓した海部俊樹首相もトンネル建設推進の意向を表明した。
 1999年9月、日本を訪れた金大中大統領は、当時の森喜朗首相主催の晩餐会で「日韓間に海底トンネルが出来ると北海道から欧州まで結ばれるので、将来の夢として考えるべきテーマ」と述べ、韓国と日本の間に海底トンネルを建設することを提唱した。翌年9月の訪日の際にも金大中大統領は、森喜郎首相と日韓トンネルについて話し合っている。それを受けて森首相も2000年10月20日、ソウルで開催されたアジア・欧州首脳会議(ASEM)の基調演説の中で、「日韓の間に海底トンネルを建設し、鉄道を通してこれをアセム(ASEM)鉄道」と名付けようと提案した。
 2003年2月の日韓首脳会談では、盧武鉉大統領が小泉純一郎首相に対し「トンネルの建設は韓国と日本の仲がもっと親しくなれる契機になる」と、日韓トンネルの建設推進について語りかけた。

(2)日韓両政府の動き:共同研究に選ばれた日韓トンネル構想
 一連の発言を政策へと繋げるべく、盧武鉉政権時には交通開発研究院が日韓トンネル建設の技術的問題点や日韓の公費分担割合などの分析を実施。日本では、2003年に自民党が議員団体である「夢実現21世会議」(議長:麻生太郎)を立ちあげ、その中の委員会の一つ「国づくりの夢実現検討委員会」は、約2千件に上る公募アイデアの中から「日韓トンネル構想」を選択した。同年6月には、自民党の外交調査会が日韓トンネル研究会の関係者にヒアリングを実施したうえで、「技術的には建設可能」との見解を示している。2008年3月には、九州選出の自民党議員らを中心に日韓トンネル推進議連も発足するなど政治レベルの関心も俄に高まった。
 2009年12月に李明博大統領が発表した国土開発基本構想の中に、日韓トンネルの研究が盛り込まれた。また2008年4月の日韓首脳会談での合意を受け、09年2月に「日韓新時代共同研究プロジェクト」が発足した。同プロジェクトは、日本と韓国が国際社会にともに手を携えて貢献していくということを念頭において、日韓両国の多彩な分野の研究者が共同で研究を行うもので、「国際社会に共に貢献する日韓関係」をテーマに、「国際政治」、「国際経済」、「現在及びこれからの日韓関係」の3つの分科委員会に分かれて約1年半の共同研究が行われ、2010(平成22)年10月22日に報告書(アジェンダ21)が両国政府へ提出されたが,その中で唯一のハードウェア研究項目として採択されたのが「日韓トンネルの建設推進」である。

 

3.海底トンネル建設の史例に学ぶ

 国と国を結ぶ海底トンネルの代表はいうまでもなく英仏両国を結ぶ英仏海峡トンネル、別名ユーロトンネルである。世紀の大事業となった英仏海峡トンネル建設事業から、日本が学ぶべき教訓は多々あるが、なかでも特に重要と考えるのが、以下の項目である。

(1)早期の事業計画策定と十分なリードタイムの確保
 国を超えた海峡トンネルの建設には、その構想から実現に至るまで非常に長いタイムスパンが伴う。ユーロトンネルの場合,最初の着想から完成まで200年を要した。構想の具体化や事前調査のために要する期間、非常に長い工期や、さらには数多くの課題を当事国間で解決、克服するために掛る時間などを想定し、十分なリードタイムを確保したうえで事業の決定がなされねばならない。また、務めて早い段階から入念に事業計画を準備する必要もある。

(2)サッチャーの指導力、長期の工事を遂行可能とする安定政権
 英仏海峡トンネルの建設については、フランスよりもイギリスサイドの反対が強く,1975年には英国から一方的に建設計画の放棄宣言が行われた。しかしその後登場したサッチャーという強力な指導者が英仏海峡トンネル構想に対して強い関心と熱意を示し、英国内に根強い抵抗運動や消極論を抑えた。サッチャー首相は、カウンターパートであるフランスのミッテラン大統領と緊密に連絡・協議を重ねるなど相手国と強い信頼関係を築くことにも成功した。さらに、イギリスにおける20年にわたる保守党の長期安定政権の存在が、長期間にわたる国家プロジェクトである英仏海峡トンネルの建設を可能にしたといえる。
 この史例に鑑みれば、わが国が日韓トンネル構想を推進するにあたっても、その意義や必要性について積極的に国民の啓蒙と理解に務め、国内に存在する懐疑論や反対論を抑え、説得することの出来る強力な指導者が求められる。また長期にわたる大事業を粛々と遂行するためには、政策にブレがなく、かつ国民からの高い支持率に支えられた政権基盤の安定した内閣であることも重要な条件となる。

(3)一つの大規模事業の完遂を目指し共に手を携えて取り組む協同協力の精神
 日本と韓国の関係が改善の兆しを見せている時流に乗る形で共同事業を立ち上げ、そして実際の建設の工程の中で両国の結び付きをより強固なものへと高めていくのが最善の姿といえる。良好な関係をただ維持するだけではなく、真の友好協力の関係へとそのレベルを高め、成熟化させることが重要であり、その実現に最も相応しいプロジェクトとなるのが本構想である。

(4)重層的な日韓調整メカ二ズムの構築
 トンネルの必要性に対する捉え方や建設運用のコンセプト等の基本構想の段階からシステム設計、施行、建設手法等の具体的な技術・工法に至るまで、建設に取り組む英仏両国の間には様々なレベルで大きな認識の相違やズレ、隔たりが存在した。それを克服すべく、サッチャー、ミッテランの両首脳や関係閣僚・高官レベルの緊密な協議、また現場で建設に関わる両国の技術者相互の間でも忌憚のない意見の交換や頻繁な意見調整、打ち合わせが重ねられた。日韓トンネルの建設にあたっても、同様の枠組みとして日韓両国の間に各級の委員会、調整・協議の場を設置する必要があろう。

 

4.日韓トンネルがもたらす経済効果

(1)北東アジア輸送システムの欠点が画期的に改善
 北東アジアの主要な構成国である日本と韓国、それに中国を合わせた三か国は,人口の総計が約15億3千万人(世界の20%強),GDPの総計は世界全体の22%、貿易額でも世界の20%を占める。日中韓は世界の成長センターであるアジアの中でも中核となる存在である。しかし、これら三国に北朝鮮を加えた北東アジア地域は、冷戦が終焉した後も複雑な歴史的関係と政治理念やイデオロギーの相違・対立を抱えており、21世紀に入っても、ヨーロッパや北米など世界の他の地域に比べ、地域協力の進展や共同体形成の議論が最も遅れた状況が続いている。また北東アジアの場合、信頼性の高い効率的な域内輸送システムの整備が不十分なため、それが外国人投資や交易拡大等の制約となっている。
 そのような環境の中で、日本と韓国を結ぶ海底トンネルが建設されれば、従来の北東アジア輸送システムの欠点は画期的に改善される。日韓経済は相互補完の関係が強まりつつあるが、これまで海運や航空輸送に頼らざるを得なかった日韓の物流ルートに陸運が加わることで、一次産品や部品、工業製品の輸送量は飛躍的に拡大し、日韓経済の発展に大きく寄与するであろう。

(2)広域経済圏の形成と地域振興
 九州の中心である福岡と韓国南部の拠点釜山は、日韓トンネルの開通によって直接鉄道で結ばれることで、九州北部と韓国南部は一つの経済圏とへと拡大、発展していくだろう。日韓トンネルの建設によって、ヒト、モノ、カネ、それに情報の越境的広域ネットワークが誕生すれば、九州はそのセンター、北東アジア経済圏のハブとなり得る。さらに将来、中国の開放民主化が進み、日韓中の経済交流が拡大する時代を迎えれば、日韓トンネルは北東アジア経済共同体実現の礎石の役割を担うものとなろう。
 日韓トンネルは、そのルートとなる佐賀、長崎等九州北西部の開発と地域経済の活性化にも寄与する。トンネルの玄関口となる東松浦半島や福岡西部は、新たな海外への窓口となり、西日本における物流拠点となるだけでなく、ニューインダストリーの誘致による産業団地の建設や、その豊かな自然を活かして国際リゾートの開発などが考えられる。壱岐は、観光やリゾート開発に留まらず、アクセスの改善により北部九州のベッドタウンとしての発展も可能だ。
 一方、日韓の中間に位置する対馬は国際交流島としての過去の伝統をさらに飛躍させ、国際コンベンションセンターの設置や特区を利用しての国際交易拠点としての発展が期待できる。周辺地域の振興をもたらす日韓トンネル建設のプロジェクトは、東京一極集中を抑え、地方の活性化をめざしている今日の日本の経済産業政策にも合致適合する事業である。

(3)技術の継承と優位性の確保
 海底トンネルの建設で豊富な経験を持つわが国は、この分野の技術で他国を圧倒する高いレベルを誇ってきた。その伝統と蓄積を活かし日韓トンネルの建設に着工し、また一つ新たな実績を積み重ねれば、需要の拡大が期待できる海底トンネル建設の事業で、日本は引き続き優位を維持できる。またこれまで培ってきた技術とノウハウを次世代に継承・発展させることも可能となる。

(4)鉄道関連事業への波及効果
 日韓トンネルの建設にあたっては、トンネル内に高速鉄道を敷設する場合、併せて鉄道関連技術の海外向けビジネスのチャンスを手にすることができ、鉄道事業への波及効果も期待できよう。今日では日本が誇る新幹線をはじめとする鉄道の運行・制御・保安技術等のソフトも含めた幅広い鉄道関連事業が、日本の新たな輸出戦略の重要な柱になりつつある。列車の運行や制御、保安等高速鉄道の運用に必要なシステム全体を提供し、高速鉄道の維持、補修、管理業務を請け負うことで、鉄道関連事業をより長期的で付加価値の高いビジネスモデルへと発展させることが出来る。

(5)採算性評価は将来の南北統一を視野に
 日韓トンネルのもたらす経済効果については、経済性に乏しいとする韓国交通研究院の試算結果があるが、先述したように日韓トンネルの建設は戦略的な朝鮮半島政策の一環として考えるべきものであり、南北分断という朝鮮半島の現状を不変固定的に捉えての分析は、将来の発展可能性を見落としてしまうことになる。
 半島の平和的統一が実現すれば、朝鮮半島北部地域の社会資本整備事業や鉱物資源の開発、さらに観光を含む人的往来等が活発化することが予想され、それに伴い、朝鮮半島と日本を結ぶ交通網の整備拡大は急務不可欠になる。その際、鉄道網を朝鮮半島北部に延伸させれば、日韓の物流の動脈となるのは日韓トンネルとなり、そうなれば本事業が採算ベースに乗ることは十分に可能と考えられる。
 さらに、経済効果や採算性の捉え方にも注意が必要である。巨大プロジェクト実施にあたっての収支採算の判断にあたっては、事業者と利用者の直接的な経済便益の多寡だけでなく、安全性の向上や地域の発展等より、幅の広い国民的、社会的な便益の度合いを十分に加味した指標を用いるべきと考える。
 さらに重要な考慮要素は、日韓トンネルによって日本と韓国は海と空だけではなく陸でも繋がるという点だ。韓国国土海洋部の分析では、航空輸送の代替化がもたらす効果は加味されていないが、陸続きになることが生み出す輸送手段の代替性や余裕の高まりを正しく評価する必要がある(リダンダンシー効果)。空港の新たな建設や拡大が望めない環境の下、日韓トンネルが完成した暁には、日韓輸送手段のリダンダンシーは5割増になると見込まれる。
 韓国国土海洋部の分析には電力融通体制のもたらす経済効果も抜け落ちている。空港問題と同様、あるいはそれ以上に代替的な電力供給源の確保は日本にとって極めて大きな経済効果をもたらすことは疑いを得ない。かように日韓トンネルは、日本と韓国の経済関係をより弾性的で強靭かつしなやかなものへと深化発展させる可能性を秘めた事業なのである。国民・地域便益という幅広い視点からその経済的便益を評価すれば、日韓トンネルは採算が採り得る事業となる可能性が高く、今後は政府が本構想推進の主体となり、より精査な調査研究を進めていくべきである。

 

5.日韓トンネルがもたらす政治効果

(1)日韓の和解と信頼を促進、日米韓三国の連携と同盟の信頼性向上
 現在、日本が位置する北東アジアは、残念ながら世界の中で最も地域協力の枠組み整備が遅れている地域である。この地域は民族的な対立や、「歴史認識」での相克など複雑な問題を抱えている。歴史的民族的な契機に由来する負の要因を克服するため、わが国の指導者が自ら発意し、強いリーダーシップを発揮して近隣国との共生共栄のための事業を立ち上げることは、平和国家としての日本のイメージを強く印象づけ、アジア域内のみならず広く世界各国のわが国に対する評価を高からしめるとともに、ひいてはわが国のソフトパワーの強化にも資することになる。
 日本と韓国がトンネル建設の大事業に手を携え共同して取り組み、知恵を出し合い汗を流すことで、両国の相互理解は各段に深まり、ともに北東アジアの兄弟国であるとの親しい意識も醸成されよう。トンネル開通による物流の増大や人的交流の拡大がもたらす経済的効果に留まらず、困難な課題や障害を克服するため両国が一丸となって共通のプロジェクトに取り組むことそれ自体が、対馬海峡によって隔てられてきた日本と韓国の距離的な疎遠意識や過去の歴史に由来する反感、反目、精神的な蟠りを解消一掃し、和解と平和秩序形成への大きな契機となることを見落としてはならない。この点こそが、日韓トンネルの生み出す最大の価値といっても過言ではない。
 また世紀の一大プロジェクトにともに取り組むことで育まれる日韓の友好や連帯、一体化意識は、日米韓三国の同盟関係の強化という観点からも必要とされる。アジア太平洋地域の安全保障は、アメリカと域内各国が結ぶ二国間同盟を軸とするハブスポーク関係で成り立っているが、中国の台頭に対してアメリカはアジアの同盟諸国間の関係強化を強く求めている。日韓トンネルの建設によって日韓の距離が国民レベルで近くなり、両国の紐帯が強まることは、日韓二国間の関係改善に留まらず、日米韓三国の連携と同盟の信頼性向上に繋がり、アジア太平洋地域の平和と安定にも大きく寄与するのである。

(2)朝鮮半島の平和的統一を促す触媒
 北朝鮮の改革・開放が進めば、海底トンネルで結ばれた日韓の高速鉄道網を将来的には北朝鮮に延伸させ、朝鮮半島縦断鉄道へと発展させることも構想の視野に含めて良いだろう。韓国と鉄道が連接することで、北朝鮮は線路使用料を収入として得るだけでなく、外貨の獲得も可能になる。鉄道網によって北朝鮮が韓国や日本の経済圏と繋がれば、北朝鮮が日本や韓国へのレアアースなどの供給源や物流基地ともなり、北朝鮮経済の安定や振興に資するところ大である。それは北の改革・開放気運を一層高め、南北間の異質性を解消し共同体意識が深まることで朝鮮半島の平和統一を早める好材料としても作用するであろう。
 日韓トンネルにより日欧間に陸上の交易ルートが開かれ、東京から列車でパリ、ロンドンに直行出来るという夢の大事業は、経済活動の拠点を海外に見出す必要に迫られている日本にとってもメリットは大きいはずだ。日韓トンネルを建設し、日本と朝鮮半島の鉄道網を一体化させ、次いでロシアとシベリア鉄道延伸計画を推進し、将来的には両鉄道の接続も視野に入れてはどうだろうか。朝鮮半島経由及び樺太経由の二つのルートでアジア大陸及びヨーロッパと日本が鉄道で結ばれれば、ユーラシアにおける日本の経済圏は飛躍的に拡大するであろう。
 また北と南の双方から伸びる鉄道網によって北朝鮮をこの新たな物流システムに取り込むことが出来れば、閉鎖的で社会主義経済の桎梏に苦しむ北朝鮮を開放的な自由主義経済圏の一員へと導くことが出来る。北の経済体制や社会システムの変革を促すことは朝鮮半島の平和的統一を加速させ、東アジア共同体を実現に導く起爆剤ともなろう。日韓トンネルは、北東アジアの経済発展と経済共同体実現の礎となるばかりか、この地域の安定と朝鮮半島の平和的統一を促す“平和の事業”なのである。

 

6.結語:いまこそ国家事業化の決断を

 玄界灘、響灘の波浪よりも越えがたいのは、日韓両国民の間に横たわる相互不信と敵対反目の感情である。この負の情念や恨(ハン)の意識を浄化克服しない限り、真の友好や同盟関係を構築し、平和秩序を構築することは難しい。日韓トンネルは、近くて遠い日本と韓国を一本のルートで固く結びつけ、文字通り近くて近い間柄となす事業である。また日韓両国及び両国民が一致協力して取り組まなければ実現が困難なプロジェクトであり、未来志向の日韓関係を構築するための象徴的な事業となろう。
 日韓の経済交流拡大と両国の関係改善、両国民の友好親善促進に資するばかりでなく、長期的な観点に立てば、北東アジアにおける広域経済圏の構築や、さらには同地域の平和と安定、共生共栄の政治共同体を実現に導く事業でもある。日韓トンネルは、北東アジアに平和と安定をもたらすプロジェクトであり、まさに「平和のトンネル」と呼び得るものである。
 昨今、世界的に国際海底トンネルへの関心が高まりを見せるなか、中国も黄海の海底をトンネルで韓国と結ぶ構想を暖めている。仮に日韓トンネルよりも先に、中国が計画している中韓トンネルの構想が具体化するようなことになれば、韓国の中国への傾斜が一層強まり、北東アジアの経済地図は中国主導で塗り固められてしまうことも懸念される。そのような事態にならぬようにするためには、中韓トンネルよりも構想や調査活動等で先行してきた日韓トンネルを一刻も早く政府レベルの事業に格上げし、その構想を具体化させる必要があるのだ。
 むろん、このような世紀の建設プロジェクトに国家としてゴーサインを出し、事業を前進させるには、然るべき要件と実力を備えた政治指導者や内閣の存在が必要となる。幸いにも現在の安倍政権はこれらの条件を全て満たしている。これまでトンネル建設に向けて民間有志が続けてきた調査研究の成果を引き継ぎ、現政権において、安倍首相の強力な指導力の下で、日韓トンネルの建設を日本政府の事業として立ち上げることが、本事業を実現させるための最適の選択といえる。日韓トンネルの構想をただの構想に終わらせず、その完成に漕ぎ着けるには、いまがまさに最適な時期にあたっているということだ。
 完成までに長い歳月を要することを勘案すれば、日韓トンネル建設にむけていま国家が調査の開始を決断しても、決して早過ぎることはない。日本と韓国、さらには日本とアジアの関係を劇的に改善させる起爆剤となる日韓トンネル建設の第一歩を踏み出そうではないか。トンネルの完成によって、対馬海峡は日韓を隔てる自然障壁ではなく日韓紐帯の海の道となるのだ。

政策提言・出版物

政策提言
研究活動を踏まえてIPPがまとめた政策提言
IPP分析レポート
IPP独自の視点で諸問題の背景や解決への課題を分析
政策オピニオン
国内外の専門家による政策課題に関する分析と意見
IPP政策ブリーフ
時事的テーマや政策課題に関するコンパクトな情報
IPP国際会議
レポート
研究所紹介パンフレット
ダウンロード(PDF:1.8MB)

主な研究テーマ

OFFICE

一般社団法人 平和政策研究所
〒169-0051
東京都新宿区西早稲田3-18-9-212
E-mail:office@ippjapan.org

※サイト上のすべての著作物(文章・写真・画像等)を無断で複写・転載・リンクすることを固く禁じます。

ページ上部へ戻る