トップイメージ
ippreport016-1
IPP分析レポート

混迷する中東情勢と和平へのプロセス

―イスラエル・パレスチナ問題の解決に向けて―イスラエル・国会副議長、労働党幹事長 イェヒエル・ヒリク・バール

はじめに

 日本は中東問題に継続的に関与してくれている。パレスチナ当局に教育や人道目的で多額の投資をしてきた。多くの国がイスラエル・パレスチナ紛争に対する関心を失う中、日本はあくまでも紛争に関与し、和平実現後の可能性を見据えてくれている。私はイスラエルのクネセット(国会)の一員として、日本の皆さんの尽力に感謝を伝えると共に、平和のために何が可能か述べてみたい。
 多くの人が中東紛争は解決不可能だと言う。我々の労働党はイスラエル建国の中核勢力だったが、今の議会では野党だ。我々は、真摯な努力を傾ければ、長期にわたる血みどろの中東紛争は必ず解決できると信じている。
 イスラエル国会に属する様々な議員グループの中で最大のグループのひとつが「イスラエル・アラブ紛争解決議員連盟」だ。私はその議長として、イスラエル・パレスチナ双方の心から平和を求める人々とともに、2年近い努力の末に『イスラエル・パレスチナ紛争解決のための外交の展望(MK Hilik Bar’s Diplomatic Outlook for Resolving the Israeli-Palestinian Conflict)』という提言書をまとめた。その内容の一部を紹介する。

1.イスラエル・パレスチナ紛争解決に対する基本的考え方

「紛争の管理」政策の破綻
 提言をまとめるまでの期間、パレスチナ自治当局のアッバス議長と何度も話す機会があった。同意できない点も多い中、紛争は解決されるべきだという点では意見が一致している。我々議員が選挙で選ばれたのは、紛争を解決するためであるはずだ。まず『外交の展望』で示した我々の基本的な考え方(working assumptions)について説明したい。

出典:外務省2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/14_hakusho/honbun/b2/s2_1_4_03.html

 第一に、(現在のイスラエルのネタニヤフ政権が適用している)「紛争の管理」(conflict management)という理論・政策は、惨憺たる失敗である。紛争は「管理」すべきものではなく、「管理」が可能とも思えない。紛争を管理するのは国境警備隊やイスラエル国防軍、あるいはパレスチナの警察当局の役割であって、国民の選良たる政治家は紛争を「解決」しなければならない。
 実際にイスラエルは、歴史上最大の敵であったエジプトやヨルダンなど、パレスチナよりも数段険悪な相手とも妥協し、和平にこぎ着けた経験がある。そこには、「紛争の管理」を終わらせるという指導者達の決断があった。もし「紛争の管理」の実態が、双方の流血を止められず、イスラエルに数千発のミサイルが飛来すること、あるいは夏が来るたびイスラエル軍がガザ地域に侵攻し破壊活動を実行することであるならば、我々の未来は暗澹たるものだ。

「二国家解決」が唯一の選択肢
 第二に、二つの民族のための二つの国家、いわゆる「二国家解決案(two-state solution)」が唯一の実現可能な解決方法である。紛争の両当事者を統合した二民族一国家、あるいはガザ地区を独立させた三国家方式による解決案を主張する人々もいる。しかし、それらは実現不可能な方法であり、イスラエルもパレスチナもさらに多くの代償を払うことになる。特に、一国家方式による解決はパレスチナ民族が国家建設を断念することを意味し、ユダヤ人もシオニズムの理念や、ユダヤ人が盤石な多数派を占める民主国家をつくるという夢を諦めることを意味する。したがって、双方が「二国家解決案」の実現に向けてあらゆる努力を投入すべきである。

「ノー・パートナー」アプローチの問題点
 第三に、右派は長年、交渉相手など存在しないという「ノー・パートナー」アプローチを主張してきたが、これは破壊主義的、敗北主義的な考え方である。イスラエル側もパレスチナ側も、然るべき交渉相手がいないから問題解決ができないと逃げているに過ぎない。どのような戦争であれ、それを収拾するための「理想的なパートナー」などいるはずがない。パレスチナの指導者に数多く会ったが、彼らの中にシオニズムに同情的で、事務所にベン・グリオン・イスラエル初代大統領の写真を掲げてくれる人は一人もいなかった。同様に、イスラエル側にも故アラファト議長の写真をオフィスに掲げる人などいない。
 初めから互いを尊重できるはずはなく、その必要もない。我々は敵同士であり、理想的パートナーを期待することはできない。しかし、エジプトもヨルダンもかつては敵であったが、平和のためのより良いパートナーとして紛争解決に向かえるよう双方が努力して打開してきたのである。
 労働党の観点では、イスラエルの対立勢力には二種類ある。隣人としてユダヤ民族と共存しようとする人々と、ユダヤ民族を抹殺するか排除して、我々の土地で我々に代わって暮らそうとする人々だ。この二つのグループの違いは際立っている。後者には選択の余地はなく、話し合いもできない。勇敢な兵士達を頼って、我々を殺そうとする相手を殺すしかない。自らの民を守るのは、(ユダヤ教の)聖書が教える厳粛な義務だからだ。
 しかし前者のように、我々の隣人として共存しようとする人々とは、あらゆる努力をして平和の黄金の道を開いていかなければならない。それは我々の義務である。アッバス議長を始め、多くのパレスチナ人は普通の暮らし、互いの共存を求めている。それが実現しないのは、イスラエル・パレスチナ双方が本気で問題の打開に取り組んでいないからだ。
 我々が住んでいる土地で我々に代わって生きようなどと考える人々は、皆さんとも共存できないだろう。大半のアラブ民族は、自由な環境でイスラエルと共存することを受け入れようとしている。しかし一部の人々は共存や自由な社会環境を望まない。「イスラム国」のように残虐極まりないテロ集団は、我々に代わってこの土地で生きようとしているが、彼らは欧州や米国でも、そして日本でも皆さんに代わって生きようとするだろう。彼らのような残虐な生き方を受け入れられない人々はすべて、彼らにとって相容れない存在なのだ。だからこそイスラエル、欧州、米国、その他の国々が連帯し、強力な統一戦線を作って自由な生き方を追求しなければならない。

和平合意は実現可能
 第四に、イスラエル・パレスチナの和平合意は実現可能であるだけでなく、合意すべき大半の要件については既に双方が了解している。互いに将来の国境がどの辺りに敷かれるか予測できているし、土地交換(ランド・スワップ)の範囲も想定可能である。エルサレムの帰属問題も大筋の解決策は見えている。パレスチナ難民がイスラエルに洪水のごとく帰還することなど、誰も想定していない。難民問題の解決はパレスチナ国家を作るか、彼らが居住するホスト国の市民になるしかない。
 和平合意に向けて九割方の要件を双方が了解しているのに、最後の一割のために合意が実現していない。この状況が意味するのは、イスラエル・パレスチナ双方に勇気ある指導者が必要だということだ。和平案や合意事項に関しては、イスラエル・パレスチナ双方、あるいは欧米諸国でも、これまでに数え切れないほどの文書が起草された。紛争解決のアイディアは多種多様だが、実行する指導者がいないのである。

安全保障
 第五に、将来的にパレスチナ国家ができても、イスラエルは防御可能な国境線を確保することになる。和平合意によってパレスチナ国家ができれば、ヨルダン川西岸やガザ地区があるから安心できないというイスラエル国民が少なくない。あるいは「ユダ・サマリアの地」はユダヤ国家の魂だという人々もいる。しかし、イスラエルは世界有数の強力な軍隊を保有し続ける一方、将来隣国となるパレスチナ国家は非軍事化されるため、安全は保障される。
 さらに、パレスチナが国家になれば、テロを支援する動機も正当化の大義も薄れるであろう。パレスチナ国家は国際社会で責任ある主体となり、国際法も遵守しなければならない。安全保障上の懸念や不安は、シナイ半島をエジプトに返還した時にも、ヨルダンと和平合意した時にもあった。過去30年間、双方の国民のすべてが相手に好意的なわけではなかったが、それでもほぼ完全な平和状態を維持してきたのである。パレスチナとの間にもそのような関係が期待できるはずだ。そして一定期間、平和教育を通じて隣人として生きる経験を積めば、互いを尊重し人間として敬愛できるようになるだろう。

2.過去の和平交渉失敗の経験から得た教訓

合意に向けたモメンタムの形成
 次に、和平交渉が挫折した経験から得た三つの主要な教訓について述べたい。第一は、和平交渉の最中、まだ最終的解決が見通せない時期であっても、合意を想定した積極的なモメンタムを作り上げていなければならないということだ。
 これまで、我々は困難な交渉を粘り強く継続している状態と、交渉が頓挫して完全に空洞化または凍結状態に陥っている状態を行き来してきた。しかし交渉が空洞化している時には何も起きていないわけではなく、後退しているのだ。憎しみが増幅され、相手をますます悪魔視してテロに走る中で、イスラエル側の軍事活動が増大し、ユダヤ人の入植地が拡大するという悪循環に陥っていく。
 したがって、交渉が進展していない時においても、建設的なモメンタムを形成し、和平合意に向けて一歩でも前進しなければならない。いずれにしても一度の交渉ですべてを解決することは不可能である。例えば、二国家解決案に関して既に双方が合意した内容については、着々と既成事実化を進めていくべきである。海岸地域でパレスチナ人が住民の大半で、しかもイスラエルにとって軍事的にも人口動態的にも重要でない地域については、パレスチナ側の管理下に委譲してもよいであろう。

「アラブ和平イニシアティブ」
 約14年前にアラブ諸国からイスラエルに「アラブ和平イニシアティブ」(Arab Peace Initiative)という和平案が提案された。もちろん、その内容は完璧とは言えず、ゴラン高原やエルサレムの位置付けの問題など、私が見ても簡単に調印することはできないものであった。しかし、アラブ22カ国が提案し、イスラム57カ国が支持したこの和平案に対し、イスラエルはこれまで何ら公式的な反応をしてこなかった。これは外交儀礼としても問題があるが、賢明な対応とは言えない。
 いずれにしても、イスラエルがパレスチナと和平協定を結ぶ時になれば、アラブ諸国の了解や合意は不可欠になる。いかなるパレスチナ指導者であっても、パレスチナ難民問題や領土問題で本格的な合意を目指そうとすれば、モロッコやサウジアラビアなど主要なアラブ諸国の支持が欠かせない。私はネタニヤフ首相に「アラブ和平イニシアティブ」を検討し、何らかの態度を表明するよう提言している。

ガザと東エルサレムの生活改善を
 和平交渉から最終的地位の合意に至るまでの期間は、ガザ地域と東エルサレムに居住するパレスチナ人の生活改善に取り組むべきである。これらの地域の住民の生活状態は現在、酷い状況に置かれている。
 パレスチナ当局が将来のパレスチナ国家の首都にしようとしているエルサレム周辺の地域は、ユダヤ民族にとって特別な思い入れもなく、聖域とも見なさず、そこで礼拝を捧げるつもりもない場所である。何十万人ものパレスチナ人に囲まれ、ユダヤ国家の一部になるとは考えにくい。そのような場所にパレスチナ人の一部を移動させ、実質的なパレスチナ国家の首都として整備することは、不可能な話ではない。
 これはエルサレム問題の解決に向けた重要なステップとなる。エルサレムに住むユダヤ人とパレスチナ人の子供たちが共存し、人的交流を深め、平和教育を受けてゆけば、ユダヤ人とアラブ人、ユダヤ教とイスラムとキリスト教がエルサレムで共存できるようになるであろう。このような取組みは、エルサレムの最終的地位が確認される前に可能である。
 現在、ガザ地区は深刻な人道危機に瀕している。これに対してイスラエルと国際社会は、例えば飲料水の問題や一日7~8時間に限られている電力供給の問題を改善したり、パレスチナの非軍事化に向け、何らかの初動的な措置を講じることもできる。あるいはガザの港を整備し、物資を運び込むこともできるはずだ。
 イスラエルの安全を保障しながらこうした措置を講じることは可能だ。もちろんガザを実効支配しているハマスが運び込まれた物資をミサイル製造に利用しないよう、監視する必要がある。それはイスラエルの得意とするところだ。こうしてガザに住む人々の暮らしは、徐々に改善するはずだ。

穏健なアラブ諸国を関与させる
 これまでの交渉が挫折してきたことで得られたもう一つの教訓は、中東地域で比較的穏健なアラブ諸国を和平プロセスに関与させるということである。アラブ諸国が米国や欧州、日本に取って代わるのではなく、パートナーとして加わってもらうのだ。
 もしイスラエル・パレスチナの和平を支援してくれる国があるとすれば、それはまず穏健なアラブの国々だろう。モロッコを始め多くの国を訪問して意見を聴いてきたが、これらの国々はイスラエルを将来のパートナーとして重視し、特に目下の様々な脅威に立ち向かうパートナーになることを期待している。敵の敵は友人または味方と捉えているのかもしれない。
 イスラエル国民は生涯にわたって高い教育を受けており、将来的に平和共存できる隣人として、また難しい関係にあるアラブの国々に対峙するパートナーとして認知されつつある。「イスラム国」などのテロ集団による犠牲者のほとんどはアラブ人であり、ムスリムである。ユダヤ人でもキリスト教徒でもない。だからこそイスラエルは彼らのパートナーになれるのだろう。

目に見えない課題
 最後の教訓は、和平交渉の中では国境、水、安全保障などの目に見える現実的な課題と、人々のアイデンティティに関わるような目に見えない課題の両方を扱わなければならないということだ。後者は、例えばイスラエルであれば、ユダヤ人の民族国家として「認知」されることを求めている。パレスチナも同様だ。これは双方にとって非常に大事な点である。従来の交渉では現実的な課題が優先された。それに対してネタニヤフ首相は、協議に入る前にまずイスラエルをユダヤ人国家として相手に認めさせるという姿勢を明確にしている。

3.原則となる革新的アイディア

互いの国に少数民族を容認
 最後に、「二国家解決」が実現した後の原則について、いくつかの革新的アイディアを紹介したい。まず私が初めて提案した内容であるが、二つの民族国家が実現した後には、それぞれの国が豊かで成功した少数民族を市民として受け入れるべきである。現在でもイスラエルには人口の約20%のアラブ・パレスチナ人がイスラエル国民として居住しており、概ね平和な市民生活を享受している。彼らはイスラエルでも社会的に高いレベルの人々で、医療やハイテク部門の技術者、国会議員、裁判官、警察官僚などの職業に就いている。ただし軍隊にはアラブ系市民は徴兵されない。
 これと同じように、将来のパレスチナ国家もユダヤ人を少数民族として受け入れるべきである。英国、米国はもとより、日本でもユダヤ人が生活している。将来の隣国であるパレスチナにユダヤ人少数派が住めないはずはない。ユダヤ人のコミュニティは、どこの国でも周辺社会と協調してきた。紛争の最終解決の合意内容の一部に、イスラエルに住むパレスチナ人にも居住権を与えることを含めるべきである。ユダヤ人入植者は土地交換プログラムに則って土地の交換に応じることになり、大半はイスラエル国土に居住することになるが、少数のユダヤ人は将来のパレスチナ国家の領土内に住み続けることができるようにするべきである。

「特別アクセス権」による巡礼・観光
 また、双方の国民による巡礼や観光目的には、特別許可を与えることを提案したい。最終協定が結ばれた後に、ユダヤ人やパレスチナ人がそれぞれ聖域と見なす場所を巡礼する場合には、特別のアクセス権を与え、他国の国民よりも優遇した権利を賦与するべきである。
 将来のパレスチナ国家にも、ヘブロンにある父祖アブラハムの墓地のように、ユダヤ人が由緒ある聖地と考える場所がある。ユダヤ人がそのような聖域に自由に往来できるようにするとともに、パレスチナ人にはイスラエル領土内で礼拝や観光をしたり、死海で休息する自由を認めたりする。和平合意の後は、両側の人々の間に高い壁が立ちふさがり、そうした場所に自由に行けないという閉塞感を与えたくない。巡礼と観光については双方に最恵国待遇を与えるべきである。
 それに準じて重要なのは、学術や経済・ビジネス分野の相互アクセスだ。イスラエルは技術革新、医療、学術など、多くの分野でパレスチナの将来の繁栄に貢献ができるはずだ。我々の願いは、パレスチナが豊かな国となり、強い経済を持つことだ。それによって貧困やテロは減少し、イスラエルにとっても利益となる。

おわりに

 繰り返しになるが、九割方の合意内容はほぼ固まっており、必要なのは意見の相違点の微調整だけである。そのためには、かつてのエジプトやヨルダンがそうであったように、あるいは南米コロンビアが52年間にわたるテロや内戦に終止符を打ったように、指導者の強力で献身的なリーダーシップが必要である。平和は特権や贅沢ではない。我々は平和を待望し、そのために祈っている。しかし平和は待つものではなく、将来の世代のために果たさなくてはならない我々の義務である。平和は実現可能であり、我々の掌中にある。

(本稿は、「国際指導者会議(ILC)」(2016年11月16日IPP共催)における講演を整理してまとめたものである。)

政策提言・出版物

政策提言
研究活動を踏まえてIPPがまとめた政策提言
IPP分析レポート
IPP独自の視点で諸問題の背景や解決への課題を分析
政策オピニオン
国内外の専門家による政策課題に関する分析と意見
IPP政策ブリーフ
時事的テーマや政策課題に関するコンパクトな情報
IPP国際会議
レポート
研究所紹介パンフレット
ダウンロード(PDF:1.8MB)

主な研究テーマ

OFFICE

一般社団法人 平和政策研究所
〒169-0051
東京都新宿区西早稲田3-18-9-212
E-mail:office@ippjapan.org

※サイト上のすべての著作物(文章・写真・画像等)を無断で複写・転載・リンクすることを固く禁じます。

ページ上部へ戻る