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IPP分析レポート

ロシアの東アジア政策と露朝関係


拓殖大学海外事情研究所教授 名越 健郎

2016.02.10
 

はじめに

 毎年、欧米の有名雑誌は翌年の国際関係予測の記事を掲載しているが、『エコノミスト』誌の特別号The World in 2016でダニエル・フランクリン編集長は、2016年の国際関係予測を「3つのWの年」という言葉に要約した。第一が「嘆き(Woes)」で、シリア発の難民受け入れに伴う諸問題、中東の激動、BRICSなど新興国市場の景気減速と世界経済の低成長などだ。第二が「女性(Women)」で、米連邦準備制度理事会のジャネット・イエレン議長、米大統領選挙の有力候補であるヒラリー・クリントン元国務長官、ドイツのメルケル首相、ブラジルのジルマ・ルセフ大統領など、多くの女性指導者の言動に注目が集まっている。そして第三が「勝利(win)」である。ブラジルのリオ五輪、米国での第50回スーパーボウル、フランスでのサッカー欧州選手権UEFA EURO 2016、インドで開催されるクリケットのT20ワールドカップなど世界各地でスポーツの祭典が開催される年でもある。

 また同誌はその特集の中で、「男らしさを誇張する人々(Macho men)」という項目も掲げ、「ロシアから中国、インドからエジプトまで、世界各地で再び、男らしさを強調したリーダーシップが流行している」と述べている。その筆頭にロシアのプーチン大統領を挙げ、彼が個人的に親しい関係を築いた南アフリカ共和国のジェイコブ・ズマ大統領、ハンガリーのオルバーン首相、トルコのエルドアン大統領もタフな政治家だと指摘した。またアジアでも中国の習近平主席、日本の安倍首相、インドのシン首相などもカリスマ的ナショナリストの指導者だと指摘した。米大統領選挙でも、決断をしない優柔不断の政治家オバマ大統領への反動としてトランプ候補に人気がある。

 そして2016年の朝鮮半島情勢では、大きな動きがありそうだ。一つは、北朝鮮で第7回朝鮮労働党大会が、5月に36年ぶりに開催されることである。金正日政権時代は先軍政治を行い、党(朝鮮労働党)の影響力が低下していた。それを金正恩第一書記はそれを修正して朝鮮労働党が指導する体制にしようとしている。また、金正恩は親父の金正日と同じ「党総書記」の役職では恐れ多いということで、これまで「第一書記」の肩書きにしていたが、今度の党大会で総書記になるといわれている。(1月6日の「水爆実験」も、党大会に向けて自らの威信を高める国内事情の要素が大きい。)

 もう一つは、在韓米軍の削減、特に陸軍の削減があり得ることだ。米陸軍は現在49万の陸軍を2年内に45万に削減することを決めており、米国のメディアは韓国、ドイツの駐留軍が対象になりそうだと伝えた。これは米オバマ政権が進めてきた国防予算・人員の削減及び米軍再編の一環である。オバマ大統領は、イラクとアフガンでの戦争終結と撤退を公約に掲げて当選し、2011年にイラクから駐留軍が撤退した(一部は残留)。アフガンは2016年中に撤退する計画だったが、現地の情勢悪化のために駐留延長となった。

 アフガン戦争は、2001年の9.11以降始まった戦争だが、米国史上最長の戦争になっている。オバマ大統領は、「抑制ドクトリン」によって世界的に(駐留米軍を)撤退させる(「ニューヨーク・タイムズ」コラムニスト・ロジャー・コーエン)という方針を示し、その一環としての在韓米軍削減の可能性がある。

 かつて朝鮮戦争(1950-53年)の時、共産主義封じ込め政策として米アチソン国務長官は、「不後退防衛線(アチソン・ライン)」を示したが、そこに朝鮮半島が入っていなかったことが北朝鮮の南進を招いたとされる。ゆえに今回の在韓米軍の撤退も北朝鮮に誤ったシグナルを与えるのではないかという懸念がある。


1.プーチン3期目のアジア外交

 プーチンはエリツィン初代大統領の辞任に伴い、大統領代行を務めた後、2000年の選挙で第2代大統領に就任し、2期8年を務めた。ロシア憲法の規定により大統領の任期は2期8年とされていたので、一旦退いて首相となり、メドベージェフ大統領を挟んで2012年に再び大統領に復帰した。その前に憲法の規定を改正して任期を1期6年とし2期務められるようにしたので、最長2024年まで務めるだろうと目されている。

 3期にわたるプーチン政権を概観してみると、最初の1~2期と現在の3期とではその性格が変化し、(欧米との)協調路線から保守的・愛国主義的、タカ派路線へと転換し反米主義が高まっている。第1期大統領就任の翌2001年に9.11米国同時多発テロ事件が勃発したが、プーチン大統領は最初にブッシュ大統領に電話をして「テロとの戦い」への共闘を誓った。そのような柔軟さ、欧米との協調路線が基本であったが、第3期の2012年以降、そうした路線はすっかり姿を消し、米国に対する必要以上の敵対意志を鮮明にした。

 また従来のロシア外交は欧米との関係最優先を基本としていた。ところが2012年以降、「脱欧入亜」路線に転じて欧米との関係が冷却化する一方、アジア重視政策に転換して、アジア太平洋の発展に極東開発をリンクさせようと考えた。つまり、21世紀に入り最も発展著しい地域としてアジア太平洋地域を認識し、そこにロシア産出のエネルギーを売却して利益を上げ、過疎化の進む極東とシベリアの経済建て直しを図ろうという目的でアジア外交重視に舵を切ったのである。

 その象徴が、2012年12月にウラジオストクで開催されたAPECであった。翌年3月にプーチン政権は、極東開発を重要国家戦略と位置づけ、そのために2025年までに総額で約11兆円の連邦予算を決めた。その後の経済危機の影響で予算が縮小されているが、北方領土も極東開発の一環として位置づけていることを知るべきだろう。

 とくに東アジア諸国の中では、中国との関係が最も重要である。プーチン大統領は、大統領就任以来(2000年以降)、24回訪中しているが、訪日は4回に過ぎない。貿易額で見ても、露中貿易は露日貿易の2倍弱である。ただ、プーチン大統領は安倍首相と14回会談していることからも分かるように、中国一辺倒ではなく、日本、韓国、東南アジア諸国とも関係を発展させていくというアジア太平洋重視外交を展開している。

 この路線は変わらないにしても、2014年以降、ウクライナ問題、シリア空爆など、西方や南方に力点を置かざるを得ない状況になって、その分極東政策は手薄になっている面は否めない。事実、プーチン大統領は2015年11月のフィリピンAPECを欠席し、メドベージェフ首相が代理出席した。

 実は、プーチン政権になってから「戦争」を4回している。すなわち、第二次チェチェン戦争(1999年)、ジョージア(グルジア)戦争(2008年)、ウクライナ危機と内戦(2014年)、シリア空爆(2015年)である。ソ連時代と比較してみると、その頃の方が自制していたように見える。むしろ戦後の米ソ関係でいうと、米国の方が地域紛争に積極介入しており、(アフガン問題を別にすれば)ソ連の方が大人の対応をしていたといえる。それだけソ連時代は巨大な軍事力を持って余裕があった。いまのプーチン政権は、通常戦力で比較すると欧米に比べて圧倒的に弱く、それゆえにかえって安易な軍事力行使が目立つようだ。
 現在ロシアは、ウクライナ、シリアの二正面作戦を強いられているが、ウクライナでは、2015年夏ごろから戦闘は下火になりつつある。戦略的に見て二正面作戦は不利だから、ウクライナでは防衛的になり、シリアで攻撃的になっているといえる。

 第3期プーチン政権下でのもう一つの特徴に、民族愛国主義の高まりがある。2015年は、対独戦勝70周年記念の年であったから、それを最大利用して過去最大規模の記念式典をモスクワで開催し(5月9日)、戦勝意識を高揚させた。同式典には欧米の指導者はほとんど出席せず、プーチン大統領はその演説で、日本軍国主義に初めて言及した。プーチン大統領の隣には習近平主席が立っていた。また同年9月3日に北京で開催された抗日戦争勝利70年記式典では、習近平主席の隣にプーチン大統領が立った。日本不在の露中が反日で結束し、親中路線が強まったかに見えた。

 しかし、露中関係が必ずしもノーマルに行っているのではないと思ったのは、抗日戦争勝利70年記式典が開催された9月3日に露中首脳会談だ。この会談では、経済協議、とくにエネルギー協議で進展が全くなかったことである。ロシアとしては、欧米から経済制裁を受けており、チャイナ・マネー(中国資金)を期待していたのだが「ゼロ回答」だった。それは中国経済が減速気味でロシアに投資する余裕も意欲もない上、ロシアへの投資はリスクがあるためだった。

 その足でプーチン大統領はウラジオストクに飛び、各国ビジネスマンを集めた「東方フォーラム」を主催し演説した後、真っ先に近づき握手を求めたのは日本企業の幹部だった。これは中国に余り期待できない分、日本への期待感は依然としてあることを示す行動といえる。


2.露朝関係の歴史的経緯

 北朝鮮はそもそもソ連のおかげで誕生した国と言っても過言ではない。金日成は、もともとソ連軍の大尉で、ハバロフスクで朝鮮人部隊長を務めていた。1945年8月9日に、ソ連が対日参戦した後、満洲を占領し北緯38度線以北の朝鮮半島北部に侵攻した。戦後、米ソ冷戦が始まり分断が規定事実になる中、北の指導者を誰にするかで、ソ連の極東軍総司令部が金日成に目をつけて推薦し、彼を平壌に連れてきて初代指導者として立て北朝鮮が誕生した。北朝鮮の国の成り立ち、システムは、スターリン時代のソ連を真似たところが多く、現在もその残滓が残っている。

 金日成は、朝鮮半島の武力統一を考えた。当時は、北朝鮮の方が韓国よりも経済的・政治的にも安定していた。1950年6月に北朝鮮の南進によって朝鮮戦争が勃発、3年後に休戦協定が結ばれて分断が固定化した。朝鮮戦争でソ連は(実際にはパイロットが関わってはいたが表面上は)参戦しなかった。しかし中国は途中で劣勢になった北朝鮮を支援したことから、休戦後は中国の影響力が強くなった。

 その後、金日成は、親中・親ソ派の幹部を粛清して一党独裁体制を築いた。中ソ対立が始まると、北朝鮮は時には中国に、また時にはソ連にとうまく立ち回りながら、両国から援助を引き出してきた。

 ところが、1991年にソ連が崩壊すると、中国の影響力が圧倒的になっていった。当時、ソ連崩壊に導いたエリツィンについて、北朝鮮のメディアは、「社会主義の敵」とののしった。新生ロシアと北朝鮮は完全に没交渉で関係も冷却化した。

 ソ連崩壊は大量破壊兵器の拡散に道を開くとともにそれを加速化させた。北朝鮮はソ連崩壊後、核開発を本格化し、2006年には核実験を初めて成功させた。90年代の露朝関係は冷却状態だったが、2000年にプーチン大統領が登場して関係改善が進んだ。

 プーチン大統領は、沖縄サミット(2000年7月)の前に平壌を訪問したが、(ソ連時代を含めて)ロシア首脳の初訪朝だった。これに合わせて(同年2月にロシア・イワノフ外相が訪朝して白南淳外相との間で正式に調印し、北朝鮮側は4月に最高人民会議で既に批准していた)「露朝友好善隣協力条約」について、ロシア側は下院で批准した。

 遡ること1961年7月、北朝鮮はソ連との間で「ソ朝友好協力相互援助条約」を結んだ。これは一方が第三国から攻撃を受けた場合、ともに軍事行動を行うという軍事同盟条約だったが、1996年に破棄・失効となった。今度の条約は一方が攻撃された場合、有事協議を行うという規定のみで、軍事同盟関係から友好国関係に切り替わったのである。なお、中国との間には、軍事同盟である「中朝友好協力相互援助条約」が今も生きている。

 金正日総書記は2000年から3年連続で露朝首脳会談を行い、プーチン大統領を評価していた。両首脳は毎年首脳会談を開くことで合意し、金正日総書記は2度鉄道による訪露(2001年、2002年)も行ったが、2002年を最後に首脳会談はしばらく開かれなかった。2011年に金正日総書記が3度目の訪露を行い、シベリアでメドベージェフ大統領(当時)に会い露朝関係が改善するかのように思われたが、その年の暮に死去した。

 その後を継いだ金正恩時代になると、再び露朝関係は停滞。金正恩第一書記はまだ海外に出たことがなく、外交経験に乏しいためともいわれている。

 2013年12月、親中派で金正恩体制におけるナンバー2といわれた張成沢・国防委員会副委員長が処刑された。それに連座して親中派幹部が何人も粛清されたことに中国が怒り、それ以降、中朝関係は停滞し交流も行われていない。習近平主席も、韓国は訪問したが北朝鮮はまだ訪問していない。中韓関係は親密化したが、北朝鮮は置き去りにされた形だ。

 2014年になり、金正日死後、低迷していた露朝関係の改善の兆しが見えて交流が活発化し始めた。まず同年、ロシアの極東発展相、副首相が平壌を訪問し、貿易・経済交流拡大の協議を行った。ロシアからは小麦の5万トン供与の話も提議された。2014年3月にロシアがクリミア併合を行い国連でクリミア併合非難決議案が上呈されたときには、北朝鮮は反対投票を投じてロシアを擁護した(なお、中国は棄権)。

 2015年にはモスクワで露朝外相会談(3月)、国防相会談(4月)が相次いで行われたほか、同年11月には崔海竜・朝鮮労働党書記(当時)が金正恩第一書記の親書を持ってモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談した。

 ここ数年間、露朝間の閣僚級交流が活発化し、金正恩第一書記が最初に訪れる国はロシアではないかとの見方も流れた。実際、2015年5月7日の対独戦勝70周年記念式典でプーチン大統領は、金正恩第一書記に招待状を出して首脳会談を呼びかけた。一時、金正恩第一書記の訪露情報も流れたが、結局は行かなかった。その理由は不明だ。ただし、このことを契機に、露朝関係は再び低迷しているように見える。それ以降、閣僚級の相互訪問の動きは見られない。15年4月に金第一書記訪露準備のためモスクワを訪れた玄永哲人民武力相が帰国から10日後に公開処刑されたと韓国政府機関が発表した。「親露派」の処刑も背景にあるのではないか。ロシアは南と西で二正面作戦を展開していることもあり、北朝鮮に関心を向ける余裕がなくなっている。


3.ロシアの朝鮮半島利権

 ロシアは、北朝鮮あるいは朝鮮半島に何を狙っているのか。

(1)南北縦断鉄道建設計画
 ロシアは日本海側を走る韓国と北朝鮮の鉄道をつなげ、さらにシベリア鉄道に連結してウラジオストクまで延ばし、最終的にはユーラシア鉄道を作ろうとしている。韓国・釜山港は、世界最大のコンテナ港の一つで、ここには多くのコンテナが集積している。それを鉄道で運ぶと、(海路より早く)10日くらいで欧州にまで運ぶことが可能だ。このコンテナ利権(朝鮮半島の南北鉄道とシベリア鉄道を連結させたユーラシア鉄道)は、10年以上も前からロシア鉄道省が主唱してきたもので、ロシア、北朝鮮、韓国の3カ国で協議して進めようとしているが、北朝鮮が首を縦に振らず、いまだに進展はない。北朝鮮にとっては、鉄道が通って開放につながることを恐れているのかもしれない。

 2013年プーチン大統領がソウルを訪問し朴槿恵大統領と会談した。会談では、韓国企業も北朝鮮北東部で鉄道を利用した物流計画に加わるという合意がなされた。ロシアは韓国企業もからめて、羅津港の共同利用、物流協力を狙っている。北朝鮮としては、こうしたプロジェクトが韓国を利するだけだと考えていて消極的なのかもしれない。

 ウラジオストクから経済特区の羅津港までの50キロほどの鉄道区間は、ロシアが投資して近代化されているが、ロシアとしては北朝鮮内の鉄道も近代化を進め釜山までつなげたいと考えている。

 ロシアは羅津港の一部を借りて石炭の輸出港として使い、日本、韓国への輸出を図ろうとしている。それはウラジオストクの港が冬凍るためで、不凍港である羅津港を利用してアジア太平洋地域に輸出しようとしているのだ。このプロジェクトはすでに始まっている。

 2014年の一連の露朝閣僚会談で、ロシアが20年をかけて北朝鮮の鉄道を近代化するという基本合意ができている。初期投資はロシアが行い、その代金は北朝鮮がレアメタルで払う。これもロシアの経済危機によって、投資がどんどん減らされており、ロシア鉄道省自身も予算が足らず、凍結状態となっている。

(2)南北縦断ガス・パイプライン計画
 東シベリア、サハリンからガス・パイプラインがウラジオストクまで敷かれており、さらに北朝鮮経由でパイプラインを韓国まで連結して、ロシアの天然ガスを大口輸入国である韓国に売ろうとしている。このプロジェクトについてもロシアは、10年ほど前から韓国・北朝鮮に提案している。ロシアは北朝鮮に対してパイプライン通過料で年間1億ドル入ると説得しているようだが、北朝鮮はなかなか首を縦に振らない。

 このプロジェクトは、ガスプロムというロシア最大級のガス企業が推進しており、同社の社長が北朝鮮によく行っている。ガスプロムは独自の軍隊を持ち、パイプラインの防衛に当っている。北朝鮮領内をパイプラインが通過するとなると、それを守るロシア兵が北朝鮮に駐留するようになるから、北朝鮮はそれを恐れているのではないかともいわれている。ただし、これもロシアの経済危機で凍結状態になっている。

(3)6カ国協議への関与
 北朝鮮の核問題を扱う6カ国協議は、2003年8月に第1回が始まり、2007年の第6回を最後に一度も開かれていない。露朝は2014年の協議で6カ国協議の早期再開について合意した他、中国・日本・韓国も早期再開には同意しているものの、オバマ大統領がやる気がないことが開かれない最大の要因とされる。

 6カ国協議は中国が議長国で、中国は他の5カ国に相当気を使い、会議の決裂を避けて合意を演出するために、ぎりぎりまで説得工作をしていた。例えば、ロシアの外交官は情報をマスコミによくリークしてしまうため、中国の外交官がロシアの外交官をしかっている光景も見られた。中国がそこまで根回しや協調外交をやるのかと驚いたほどだ。朝鮮問題に関しては、ロシアはだいたい中国寄りの姿勢だ。

 ロシアは北朝鮮の核ミサイル保有に反対している。かつて2006年に北朝鮮がミサイル発射実験に失敗し、ロシアの排他的経済水域であるナホトカの近海に落下したことがあった。そのときナホトカ、ウラジオストクで北朝鮮に対する抗議デモが行われた。

 また北朝鮮とロシアは豆満江を挟んで17キロの国境で接している。プーチン政権になって国境協定を結び国境が画定されたものだ。プーチン大統領は周辺諸国間で国境の画定交渉を進めており、中国をはじめとして、カザフスタン、ノルウェー、アゼルバイジャンなどと、折半の原則で国境の画定を進めてきた。残るは、ウクライナ、日本、ジョージアくらいだ。技術的な国境問題は比較的解決しやすいのかもしれない。

 6カ国協議においてロシアは安全保障部会長を務めているが、6カ国協議をいずれアジア太平洋安全保障機構に格上げしたいと考えている。実は、ソ連の時代からそうした集団安全保障構想があり、10年ほど前に提案したこともあった。アジア太平洋安全保障機構は、欧州安全保障協力機構(OSCE)に相当するものだ。安全保障に関しては、ロシアはそれなりに影響力を持つので、6カ国協議を通じて東アジアでの安全保障上のプレゼンスを誇示したいという狙いがある。


4.今後の展望

 ここ数年ロシア経済は、ウクライナ危機などに伴う欧米の経済制裁、そしてロシア経済の基盤でもある原油価格の低迷によって非常に危機的状況にある。プーチン大統領は、製造業の育成を唱えているが、実際には何も手をつけられていない状況だ。2015年の経済成長はマイナス4%になると予想されている。このような政治・経済の現状の中で、ロシアの対北朝鮮プロジェクトの進捗はあまり期待できない。

 ソ連時代を含め北朝鮮が負っている対露債務は110億ドルくらいあるが、これについては数年前にその9割をロシアが放棄し、残る1割は北朝鮮の債務返済金と見做して共同プロジェクトを行うと合意した。これはロシア側の大盤振る舞いといえる。しかし北朝鮮経済が累積債務を容易に返済できるような状況ではないことも事実である。ただし合意によって、ロシアからの投資や融資が容易になることはあるかもしれない。

 北朝鮮は原油不足が深刻なようだ。中国が原油供与を縮小しているために、代わりにロシア極東から原油を輸入しているようだ。事実、ロシアからの原油輸入量がここ数年増えている。

 昨今の露朝交流について韓国外交部は、北朝鮮は孤立無援であり、ロシアもウクライナ問題や欧米からの経済制裁でともに孤立しており、「孤立国家連合」だと冷淡に見ている。

 国際的孤立を深める北朝鮮は、一時ロシアをパートナーとして選んだのだろうが、現在ロシアが経済危機に直面して投資や融資ができない上、ロシアはウクライナと中東の問題で大変な事態になっていることから、ロシアにとって対北朝鮮外交の重要性が相対的に低下している。

 結論的に言えば、朝鮮半島におけるロシアのプレイヤーとしての役割には限界が多い。むしろ中国、米国、日本の方が、(経済面を含めて)朝鮮半島に対してはロシアよりも影響力をもっている。しかしロシアは、実力はないが朝鮮半島には関与したいという思いは強い。

 ところで、日本外交を見ていると、タイミングが読めず、動くべきときに動かずに、難しいときに動こうとする。チャンスをつかんで果敢に攻められず、いつもモメンタムをつかめていない。これは日本外交の致命的欠陥だ。例えば、北方領土交渉では、ソ連崩壊前後が絶好のチャンスだった。当時、米国が日露平和条約締結に向けて促していたのに、そのとき日本は全然動かなかった。また拉致問題でも、2014年6月に日朝協議を行い、調査期間に1年の猶予を与えたが、そのとき北朝鮮は(中国との関係が冷えており)日本との関係強化を願っていたから、積極的に交渉を進め、北の譲歩を引き出すべきだった。

 戦後の歴代政権は外交を外務省に丸投げしてきた。そして外務官僚はそれを独り占めし、国民外交という意識もなかった。日本外交の特徴は、経済協力や国際会議などは完璧にやってきたが、歴史問題や領土や拉致問題など難度の高い問題となるととたんにダメになる。こうした問題は、首相官邸が政治主導でやるべきだと思う。その点、安倍首相は、官邸主導の首脳外交でうまくやっている。安倍政権になり日本版NSCができてそれが司令塔になり、官邸主導で外務省をうまく使っている。ようやく本来の外交の形態になってきているような気がする。

(2015年11月26日に開催された政策研究会における発題を整理してまとめた)

 

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