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IPP政策ブリーフ

「多様な家族の形」却下し「家族保護」を決議

― 国連人権理事会が採択 ―

2015.10.01

今年7月、国連人権理事会が「家族の役割と保護」を謳った決議を賛成多数で採択した。同理事会はこれまで性的少数者の人々の人権尊重を進めてきたが、結果として家族の理念が変質してきたことに歯止めをかけようとする決議だったことは明らかだ。

家族の保護を明確にした文言

スイスのジュネーブに拠点を置く国連人権理事会は7月1日の定例総会で、世界の貧困を撲滅する持続的開発を通じて人類が必要十分な生活水準を達成していくために、家庭の役割が重要であり、国や社会は家族を保護するべきであることを確認する決議を、同理事会を構成する47カ国のうち賛成29、反対14、棄権4で採択した(注・人権理事会の構成国は3年交代で、投票は理事国のみ。詳細は参考1)。

この決議文を一読すれば、当たり前のような内容が続く。例えば、家族は「社会における自然かつ根本的な集団の単位」であり、「子女の養育と保護の第一義的責任を有し」、「文化的同一性や伝統、道徳、社会的遺産や価値体系を継承する上で決定的な役割を果たす」とある。そして各国政府に「居住、職業、保健、社会保障、教育などの分野で家族重視の政策を実施・促進すること」を求めた。

関係筋によれば、この決議は国連の機関が家族に関して採択したものの中では、最も明確な表現で家族の保護を強調した文言になっている。それは急速に変質しつつある家族のあり方に懸念を強めた国々や非政府機関などが結束した成果だという。

同決議は9月からの国連総会に報告され、今後の国連での関連決議に適用、国連加盟国が家庭保護の政策を履行するガイドラインになる。また国連人権高等弁務官に対して、世界の家族保護の現状に関する報告書をまとめるよう求めている。

LGBTの権利容認に動いてきた国連

同決議が注目されるのは、人権理事会と国連の中で近年、拍車が掛けられてきたひとつの流れに、はっきりと歯止めをかけようとしたものだったからだ。

過去数十年、LGBT(レスビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)への関心の高まりと共に、そうした人たちが雇用・学校・病院で差別を受け、家族からも虐待され縁を切られたり、様々な暴力にさらされる例が報告されるようになった。70カ国以上で同性愛行為が犯罪とされていた。

潘基文・国連事務総長は2010年12月、同性愛行為を犯罪としないよう、またLGBTの人々への差別や暴力をなくすることを求める声明を発表。そして国連人権理事会は2011年6月、個人の性的指向や性同一性に関する初めての決議を採択し、LGBTを理由とする差別や暴力に「由々しき懸念」を表明。国連人権高等弁務官はこの問題に関する初めての正式な報告書(A/HRC/19/41)を作成し、その内容は、2012年3月に人権理事会が行ったパネル討論会のたたき台にもなった。

また人権高等弁務官事務局は2013年7月から、同性愛者や性同一性障害者に対する暴力と差別への認識を広め、世界各地でLGBTの人々の権利尊重を促す、1年間のキャンペーンを実施した。

白熱議論の末の「家族保護」決議

今回、この同じ人権理事会が採択した「家族の保護に関する決議」の文面に、「LGBT」や「性的指向」といった表現はない。しかし国連のビデオサイトで、約2時間に及ぶ議事の模様を見てみれば、決議案を提出した国々は、国連の場で進められてきたLGBT擁護の動きが、結果として「家族」の理念を変質させ、その機能や役割を弱めることに歯止めをかけようとしたことは明らかだ。

決議提出グループを代表したエジプト代表は、提案にはアフリカ・アラブ諸国やイスラム圏の85カ国から支持を得ていることを強調。そして「世界人権宣言」が各国に家族保護を求めているにもかかわらず(参考2)、「家族は人権に関する法制の中で最も見過ごされ、ぞんざいに扱われてきた」と指摘した。

また世界の貧困半減を目指した「ミレニアム開発目標(MDG)」を引き継ぐ形で、今年の国連総会が採択する見込みの「持続的開発目標(SDG)」推進のためにも、家族の役割強化が不可欠だ、と主張した。

一方、決議に反対の国々からは、4件の修正動議が提出された。第一に、様々な文化、政治、社会システムを反映して、家族の形は現実に多様になっており(南アフリカや英国代表)、他の国連の諸決議でも認知されている(メキシコ代表)、家族の多様性を認知しない決議は、一部の国で公然と行われているLGBTの人々に対する人権侵害を助長し、彼らを危険にさらすものだ、との批判だ。

第二は、家族の中での暴力と、家族による人権侵害の例として女性器割礼や、少女への婚姻強制、名誉殺人が挙げられた。こうした事実を黙認するような「家族の保護」の強調は不公正だ(米国代表)、という反論が展開された。

そうした実態を克服するには第三点として、「世界人権宣言」が謳う人権は、家族を構成している個々人を対象にしたものであることを確認するべきだ(アイルランド代表)と主張した。

また決議文が家族の役割として、「道徳、社会的遺産や価値体系」を継承させる、と表現したことについて、従来の国連決議などでも吟味されておらず曖昧だ(ノルウェー代表)、との批判も出された。ただし、これら3件は僅差で否決された。

もうひとつの修正動議は、家族の中で子供の生命や権利が侵害される事態を想定して、親の権利と子供の権利のバランスをとった表現にするよう求めた。これには決議提出側が同意して、決議文の中に含まれることになった。

こうした議事が1時間以上展開された後、決議案は冒頭で紹介したように、ほぼ原案通り構成国の3分の2の賛成多数で可決された。これについて関係筋は、今後の国際交渉の中でLGBTカップルの「権利増進」を抑制する先例として採用されうる、と評価した。

今回の議論を見る限り、人権と結婚・家族をめぐる世界的な議論は、今後、ますます加熱していくことが予想される。

平和政策研究所主任研究員 山崎喜博

(参考1)

賛成票 29:

アルジェリア、バングラデシュ、ボリビア、ボツワナ、中国、コンゴ、コートジボアール、キューバ、エルサルバドル、エチオピア、ガボン、ガーナ、インド、インドネシア、カザフスタン、ケニア、モルジブ、モロッコ、ナミビア、ナイジェリア、パキスタン、パラグアイ、カタール、ロシア、サウジアラビア、シエラレオネ、アラブ首長国連邦、ベネズエラ、ベトナム

反対票 14:

アルバニア、エストニア、フランス、ドイツ、アイルランド、日本、ラトビア、モンテネグロ、オランダ、ポルトガル、韓国、南アフリカ、英国、米国

棄権票 4

アルゼンチン、ブラジル、メキシコ、マケドニア

(参考2)

「世界人権宣言」の第16条〔婚姻・家庭に関する権利〕

1.成年の男女は、人種、国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。
2.婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によってのみ成立する。
3.家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって、社会及び国の保護を受ける権利を有する。

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